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魔王選定  作者: 華宵 朔灼
第一章 幼少期・ガラム
10/113

05 クレープが美味しい

 最近思う。

 慣れって怖い。

 あれだよ? 震度三でもみんな「ん? 地震じゃん」とか言って気にしなくなってるんだぜ。絶対痛い目見るよな、コレ。自分も人に言えたことじゃないけど………


 はい、第九話? 始まり始まり~

 シノの予想が外れることはほぼ無い。

 しかし、今回に限っては完全に予想が外れた。


 「ここだ、嬢ちゃん」

 「ん」


 東のメインストリートを少し入った所。

 そこに在ったのは、確かに男一人では入りにくい喫茶店だった。


 「ほんとだった」

 「………嬢ちゃん、俺も方便だけじゃないんだよ?」


 昼前、休日ともあってか、その店は人が、女性が多く、座っていた。

 確かに男一人では入りにくいこの店。シーブが入った瞬間に胡乱げな視線にさらされ、シノと手を繋いでいることを確認するとその目線は微笑ましいものを見るような視線に変わる。

 目は口ほどにモノを言うと言うが、こんな店はシノも初めてである。


 「こちらへどうぞ」


 シーブはこの店の店長とも知り合いで、一番奥の窓際の席に座らせてもらい、バスケットの中身を広げる。

 結論から言ってしまおう。

 まずかった。


 「嬢ちゃん、これなら………うぇ………食える」


 シーブはバスケットの中からいくつか選び、シノの目の前に置いて行く。

 その顔は青く、「食わなくてもいいよ」というのを如実に語っている。


 「たべれる」

 「いや、嬢ちゃんが無理することは………ちょっとトイレ行ってくるわ」


 流石のシーブも強烈な料理の猛攻に耐えきれなくなり、トイレへと駆けこんだ。

 一口口に含むごとに顔を青くしていくシーブを見て居られないとシノは思ったが、シーブもメティオノーラから酷い料理をシノに食わせるなという厳命を頂いている。もしシノに酷い料理を食わせ様な物なら容赦のない鉄拳制裁が下されることも経験済みであるシーブは無理をしてでも味見役(ぎせい)にならなければならないのだ。


 「おいしくない………だめだ」


 食べてもいいと言われた料理に手を伸ばすシノだが、一口食べた感想がそれだった。

 食べれるものなら何でも喜んで食べるシノは、その実様々な料理、料理と言えない物もあるが、それらを食べている為かなり舌が肥えている。

 美味しいか、美味しくないか、しか言わないが、なかなか美味しいという言葉を発することは無い。そこに、ダメだ、という言葉が付くのは稀だ。

 見た目だけは美味しそうな料理のうちいくつかはシーブの腹に収まったが、元傭兵だからこそ耐えられるレベルの料理の数々を食べたシーブがトイレから戻ってきた時点でかなりやつれていた。

 シーブの「これなら食える」と言うのは、戦場で出されても文句が出ない程度の料理というレベル。因みに戦場で傭兵に出される献立は、腐らないように強い味が付いた干し肉と温かいスープ。パンが付けばもうけもの、というのと今回の料理は同レベルなのだ。

 さらに言うと、シーブが青い顔をしながら食べた料理は、戦場で振る舞われた場合、暴動が起きるか、怒る気も失せて戦場を後にするかのレベルである。


 「無理だな、これ」

 「ん」


 バスケットの中にはまだそれなりに料理が残っているが、早々に二人はその料理を片づけることを諦めた。


 「後でこってり絞めてやる………」

 「ん」


 後進を育てることに賛成しているシノの口からも擁護する言葉は出ない。本当に美味しくなかったのだろう。


 「さて、デザートは普通に頼もう」


 注文して出てきたのは季節の果物が盛り付けられたクレープ。

 この店の目玉料理で、人気の理由のクレープなのだが、生憎さっきまで美味しくない物ばかり食べていた二人の舌は麻痺してしまい、普通に美味しいはずのクレープの味は分からなかった。致し方ないだろう。

 クレープを何度か頼み、シーブが飽きて、シノが味の違いに夢中になってきた頃、待ち人は来た。


 「お待たせしてしまいましたかな?」


 奇抜な色のシルクハットに、同じく奇抜な色の服を着た、白いひげの印象的な男。少し曲がった背からは年季を感じるが、その声はそこまで年季があるわけではなく、若々しい印象がある。

 何ともちぐはぐな男だ。


 「相変わらず奇抜だな」

 「素顔が知られると仕事し辛いでしょう」


 笑みを崩さず、シノの向かいに腰を下ろす。

 やってきた給仕に飲み物と軽食を頼み、しばしの歓談を楽しむシーブとその男。

 料理がやってきて、周囲の人の目が奇抜な色に慣れてきたころ、男は切り出す。


 「さて、いくら払いますか?」

 「そうだな、うちの見習いが作った料理でも振る舞おうか?」

 「冗談を………」

 「それは残念。シノ、おまえの料理いらないってよ」

 「………」


 シノは一切口を挟まず、大人二人の様子を窺いながら、手元のクレープの食べ比べに勤しんでいる。


 「降参です。あなたたち相手に腹の探り合いなんてするつもりはありませんよ………」

 「俺たちが欲しいのは現状で分かってる分で構わない」

 「でしょうね………彼女の料理を食べ損ねたのは残念ですが、また出来高ですか?」


 シーブの部下の料理人の挑戦調理がマズイことは有名だが、その反対でシノの料理は素晴らしい味なことも有名だ。しかもこの町に住んでいる料理関係者なら、だれでもシーブの料理発掘にシノが関係している事を知っている。

 もちろん、この町で情報を売り買いしているこの奇抜な男も知っている。


 「十分だろ? お前の情報(・・)を無駄使いしないんだから」


 ふてぶてしく笑うシーブ。

 それぞれ町に一人いると言われている情報屋。ギルドや各所にある情報だけではなく、金を積めばどんな情報でも仕入れて見せると豪語するのが情報屋である。

 そしてこの奇抜な男も、この町、ガラムの情報屋。様々な情報の渦に身を置き、その情報の正確性は誰もが認めている。間違いなく町民のはずだが、その所在、本名、本人の情報は些細なことは何一つ分からない。

 八で起きたことのほとんどを知る彼に聞けば、完全犯罪も逃げ出すだろうと言われている程有能な男なのだが、彼も目の前で寛いでいる伯父と姪と嘯く二人を手玉にとれるとは、ひとかけらも思わない。


 「ええ、私の情報(・・)を無駄使いしない点に置いて、あなたたちが以上に優秀なことははっきりしていますよ」


 町民でさえ知らない()が、一度挑発しただけで彼らは見つけて見せた。


 「ええ、もう何度理解させられたか」


 □■□■□


 俺を見つけたのは、三人。

 この町で食材を扱う事にかけて右に出る者はいないと言われている男。

 正式な家政婦の衣装に身を包んだ近接戦闘を熟すと言われている女。

 燕尾服を着て白い手袋を着けたこの町の商売を裏で仕切っていると言われている男。


 「そのガキの為に情報を集めてる? ふざけるなよ」


 たったその一言を発しただけ。

 この町にやってきたはずの少女の住人登録がされないことには不思議に思っていたが、無力なガキの為に情報を売るというのがどうしても納得いかなかったのだ。

 そしてそう言って彼らの前からさった翌日、彼らは俺の所へとやってきた。


 「どうも? お邪魔してるよ」


 彼らは、突破不可能とまで言われている情報屋の情報を手に入れ、部屋の中で寛いでいたのだ。三者三様に。


 「俺たちが言いたいのは一つだけ」

 「あの子は私たちの大切な子ですの」

 「嬢ちゃんを馬鹿にすることだけは許せねーんだわ」


 あのバカな商人が抱えているには異常すぎる、使用人ではなく私兵と言ってもおかしくないレベルの実力を目の前で見せられて俺は戦慄した。

 もしその時報復されていたら、そんなことを考えると背筋が冷える。

 もしかしたらその日が命日になっていたのかも知れないのだから。


 ■□■□■


 「それなら良かった」


 シーブは微笑む。

 情報屋にとって自らの情報を握られているということは、自らの命を握られているのと同義だ。そのほほえみは、死神が持っていると言われる鎌の輝きに似ているように、彼は思った。


 「俺らが欲しいのは、東の倉庫街の使用状況と、そこにブツを置いている奴隷商人の構成組員数、あんま売上がよろしくないのに儲かっている方の奴隷商人な。最後に、匿名での通報に仕えるガキ」

 「分かった。一つずつ話す」


 情報屋は、きっと話さなくても知ってるんだろうな、と思いながらも知っている情報を話す。

 シノにとって初耳な情報も多いが、別段知っても仕方ないものなので、何の反応も見せない。反対にシーブは、普段から妻に聞かされている話とすり合わせながら事実と真実とを分けていく。

 情報屋が持ってくる情報はほぼ正しいが、その内訳のほとんどは噂を精査したモノである為真実と少し変わってしまうことは否めない。事実は一つしかないが、感情と言うものがある限り真実は人の数存在する。事実と真実が違うことは同然のごとく日常に溢れている為、こういう町民の立場に立った情報を聞かないと情報を正しく精査するkとおは難しいのだ。


 「あー、最後に匿名の通報ですが、こちらで子供を見繕って………」

 「ひつようない」

 「嬢ちゃん?」


 無心でクレープを突いていたシノが、すっと情報屋に目を合わせる。

 何の感情も示さない瞳に、情報屋は恐怖を覚える。きっと目の前で自分がいきなり死んだとしても、彼女の瞳には何の感情も示さないであろうと思う程に冷めた目だ。


 「あそこにいる」


 指を指したのは裏通りに続く道。


 「え?」

 「あれ」


 疑問符を浮かべる情報屋はシノを見るが、シノは腕を降ろさず、裏通りから出てきた少年を指差し続ける。

 その少年の格好はお世辞にも良いとは言えない。まるでスラム街で暮らしているかのような服装だ。

 顔を青くした少年の目は何かを決意したかのように据わっており、倉庫街の方へと足を進めていく。


 「………彼に任せるのかい?」

 「「たすけたいならこれをけいびたいにとどけて」って言えばやってくれる」


 もう話すことはないと、またクレープとの格闘に戻るシノ。

 それを見ていたシーブは、コップの下に敷かれていた布にさらさらと何かを書き、丁寧に折りたたむと情報屋に渡した。


 「それがコレ(・・)だ。言って渡せ。範疇外の仕事だろうから色は付けるぞ」


 そう言って料理長は伝票と共に、銀貨を五枚、机の上に置いて席を立つ。

 シノも椅子から降り、シーブと手を繋いで、仲の良い伯父と姪のような雰囲気で店を出て行った。

 情報屋も、出された食事をきれいに平らげると、給仕を呼ぶ。


 「お会計ですか?」

 「はい、宜しく」

 「………合計で五十メクになります」


 店での飲み食いは依頼者が持つことになっているのであまり金額に頓着しない情報屋であったが、どう考えてもお高いとしか言いようが無い値段に軽く目を見張る。


 「これで」

 「はい、お釣の十メクです。ありがとうございました」


 銀貨三枚を手渡した情報屋に対し、大銅貨二枚と銅貨二枚が戻ってくる。

 店から出た情報屋は、お金を懐にしまうと、渡された布を持って周りが見えてない少年の下に急ぐ。


 「少年」


 肩を掴んだ少年は、驚いてこっちを向き、懐から何かを抜こうとして、自分の肩を掴んだ男に敵意が無いことを確認すると懐の何かから手を放した。


 「少年、仕事を頼みたい」

 「無理だ。俺はやらなきゃいけないことがあるんだ」


 情報屋から見て、少年の懐に入っているのはそれなりの大きさのナイフだと言うのが分かるし、そんな汚い格好で北に近いこの場所を歩いていたらどんな風にみられるか考えていない少年は生き急いでいるようにしか見えない。

 リアルタイムで情報を得るメティオノーラや、翌日ならどんな情報も持ち得ているエイファと違って、情報屋はある程度噂になったような事実しか情報を得られない。

 だからこそ、この少年の様子が異常だとは思っても、なぜこの少年がそうなったのかが分からない。できてせいぜい、その様子を見て何をしようとしたかが分かる程度だ。


 「往来でナイフを懐から出すことがやらなきゃいけないことかい?」

 「!?」

 「何、頼まれて欲しいんだ。「助けたいならコレを警備隊に渡せ」さて、伝えたよ? キミの働きに期待している」


 驚いて硬直してしまった少年のズボンのポケットに大銅貨を一枚滑り込ませ、手に布を握らせる。あまりきれいとは言えない少年の手でつかまれた白い布は既に汚れてしまっている。

 いきなりの出来事に硬直している少年を置いて、情報屋は来た道を戻る。


 「本当にこれであの子は警備隊の所に行くのかな?」


 シノの言うことややることが外れたことは無い。それを情報屋として知っているが故に、どうしても信じられない。毎度疑問に感じる程的確な依頼だが、今回の範疇外の依頼に関しては、どう考えても成功しないだろうと思うのだ。

 しかしこれで今日の仕事は終わったと、往来で背筋を伸ばす情報屋の背に声がかかる。


 「お客様! 良かった、まだここにいらっしゃったんですね」

 「ん? 何かな」


 声をかけてきたのは喫茶店の従業員。


 「お忘れ物です」


 渡されたのは綺麗に編み込まれたバスケット。持って行った覚えはないが、きっと意図的に彼らが忘れたのだろうという考えに至る。


 「ありがとう」

 「いえ、仕事ですから」


 割と重いバスケットを受け取り、一言加えた情報屋に従業員は一礼すると去っていく。

 バスケットの中は美味しそうな料理の数々。

 往来で食べるわけにもいかず、持って帰ることを選択した情報屋は一口食べてから気が付いた。

 珍しく銀貨一枚なんて多くの報酬をあの料理長が出した理由を。


 「そうだよな、疑うべきだったよ」


 濃い味付けの物が多いのと、寒くなってきた時期である為なかなか料理は腐らず、情報屋は一週間かけて少しずつその料理の数々を片づけた。


 ―――範疇外の仕事だろうから色は付けるぞ


 その色は、子供に布を渡し、その子供がもしも警備隊に届けることができなかった場合、代わりの者を用意して向かわせるためにつけた、情報屋としてではないだろう仕事の為に払われたものだと勘違いしていた。

 情報を集める、情報を広める、といった手段で情報を扱うのが情報屋としての彼の仕事。依頼者が望む情報を別の誰かに与えると言うのは、ぎりぎり範疇内に入るのだ。


 「すてるわけにいかないし………食うしかないのか………」


 料理に関する発言はきっとこのバスケットの内容に対して疑問を抱かず家に持って帰らせることを計算して出された内容だったのだろうと、今になって情報屋は思う。もしあの話が無ければ、家に持ち帰るなんてことはせず、絶対に捨てていた。

 それほどに若手見習いの創作料理はヤバい物なのだ。

 つまりこの色は迷惑料。

 自分で処理するのをためらうような料理の処理を押し付けたことに対する迷惑料、という考えなのだろう。


 「はぁ………」


 情報屋は後に知る。

 シーブとシノはあの店でただ飯を食らっていたことを。迷惑料込で情報屋に提供した金額が銀貨五枚だったことを。

 それを知って、大きなため息をつきながらひと月は頭を抱えることになる情報屋だった。

 さて、シノちゃんは町と南の森しか行く場所が無いので、一章はここから出ません。旅が始まるのは二章からかなー


 【登場人物整理】………いらないか


 次回更新はいつでしょう?

 ストックつくっておけば良かったよ………

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