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Excited Crowd  作者: 頭 垂
第一章:眼前に広がる未知
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6!

リュウは今度こそ、その自己紹介に何か返そうとしたのだが改めて自分のことを振り返ってみると何も自分についてのことで紹介できることがないことに気付いた。

それもそのはずだろう。リュウの感覚では最初の記憶が車に乗せられてあの立体駐車場のようなところを車で登っていく記憶だからだ。そこまで自分の記憶を思い返してみて一つ思い至ったことがある。あの時、自分を後部座席に乗せて車を運転していた二人組はどうなったのだ?

そういえばあの二人にもイリスが襲いかかっていなかったような気がする。イリスが襲いかからない人間の法則性とはなんなんだ?

思考が自己紹介のことからそこまで進んだところで、ふと考えるのを小休止して九たちに視線を向けてみると、皆一様に懐かしいものを見るような表情でリュウに視線を向けていた。

「何? 何かボクの顔に面白いものでもついてるの?」

「いや、そういうわけではないのだが……妙に懐かしく感じてな」

「懐かしい?」

「いえ、記憶を失う前のあなたも話の最中に自分の世界に入ってしまってこちらの話を聞いていないことが多々あったのですよ」

「そうそう。記憶がないって言っても癖とかは抜けないんだね」

三人とも過去を懐かしんでいるようだ。だが、その過去の記憶とやらもリュウにはないので話に混ざることができない。例え、記憶があったとしても自分の癖の話などされても入ってはいけなかっただろうが。

そんな昔の話を三人で懐かしんでいる暇があるのならいろいろと説明してもらいたいものだ。この世界の、自分がいま生きている世界の情報を知らないというのは存外に心細いものだった。

九たちはひとしきり三人でリュウの過去について話し合った後、やっとこちらに目を向けた。リュウの感覚では五分ほどが経過したように感じていた。

「……まぁ、昔話を懐かしむのもここまでにしよう。いい加減にリュウが飽きてきたみたいだからな。それで? リュウは何の情報が聞きたいんだ? 昔のお前のこと? それともこの世界について? どっちの話がいい?」

「この世界のことのほうがいいかな」

リュウは少しの躊躇も言いよどみもなく世界のことが聞きたいと言った。

それに九は少しだけ戸惑ったような表情になる。

「……自分のことはいいのか?」

「愚問だね。ボクの過去なんてボクは興味がないよ」

「理由を聞いてもいいか?」

「過去がどうであろうと今のボクはボクだ。過去の積み重ねで今があるというのは否定しようもないことであるけれど、後ろを振り返っていては前に進めないし、後ろを振り返っている間は停滞するだけで前に進めやしない。今の僕にできるのは前を向くことだけだからね」

リュウの話を聞いていた九たちは最初こそ真面目に聞いていたようだが最後には笑い出してしまった。

そのことに少しリュウは不愉快になった。

こちらはまじめに聞かれたことに答えたというのに笑い出すとは何事なのか。今手元に刀か、もしくはさっき九が持っていたような即座に脳天をぶち抜いてやるのに。

「すまんすまん。今の二つのことでやっとわかったよ。お前は記憶がなくてもお前であり続けるんだな」

? リュウには九の言っている言葉の意味が理解できなかった。

記憶がなくてもボクはボク? その言葉は軽いように見えてとても深いような気がした。が、今のリュウには必要だとは思えなかった。

「おっと、話が何度もそれちまうな。それじゃ、この世界の説明と行こうか。と言っても俺たちには知ってることよりも知らないことのほうが多い。それに今日の常識が明日も常識とは限らんからな。それだけは念頭に置いといてくれよ?」

九はそう前置きをしてから訥々と話し出した。

話の内容はこの世界、というかこの塔に関することがほとんどだった。なぜこの塔のことだけなのかと問うたらこの塔から出る方法がわかっていないからだと言われた。

この塔では階層ごとにいろいろなゲームが繰り広げられているらしい。上の階に行くほど難しい……と思いきや、下の階層でも十二分に難しく今のところは難易度にばらつきは見られないとのこと。そのすべてが等しく難しいというだけで。

どの階層のゲームにも共通点はほぼないが、ゲームというからにはクリア条件と敗北条件があるのは共通らしい。そのクリア条件も開示されているわけではなく自分で見つけなければいけないときた。だが、敗北条件はゲームの内容にも依るが死亡はこの世界からの永久退場ということも含めて敗北条件でいいだろう。

まぁ、もちろん階層をクリアすればそれなりの報酬はあるらしい。でなければ死ぬ可能性が高くクリア条件も定かではないゲームを誰が喜び勇んでやるというのか。そんなのはただの狂人だ。

一階が共有スペースでいろいろなチームの本部があるらしい。《ナインヘッド》もその中のチームの一つで《ナインヘッド》のようなチームは他にもいくつかあるらしい。

攻略済みの階層は二~五階層。そのうちの二階層は《ナインヘッド》が攻略済みだそうだ。リュウが最初に体験したゲームは『イリス』というらしい。

現在、入ることのできる階層は九階層まで。それ以上の階層は入れないか入った人間が悉く帰ってこないのかのどちらかである。

九の説明は想像していたよりもずっと要点がまとめられていてわかりやすかった。それに何も見ていないのにすらすらと淀みなく話している。そのことには素直に感心した。

「っと、ここまでで何かわからないことあるか?」

「いや、別にないよ。むしろわかりやすくてありがたいぐらいだよ」

「ふぅ、それにしても結構人に説明するってのは緊張するな」

「? そうなの? にしては様になってたけど?」

「お前だと特に緊張してしかたねぇ」

九が一時休憩とばかりに息を吐きながら椅子に深く腰を下ろす。指令部の椅子はふわふわの素材でできているので座っている時に疲労は全くと言っていいほど感じない。

こんな廃墟みたいな塔のどこからこんな謎素材を回収してきたのかは不思議で仕方ない。まさかどこかで材料を調達してきて自分たちで作ったのか? ……まさかな。こんな塔の中に材料が取れるところがあるはずもない。

だとしたら……どこからとってきたんだ? まさか、落ちていたわけでもあるまい。この説明がひと段落したら聞いてみよう。


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