45!
イリスが泣き疲れて眠ってしまった後、まず宰が合流した。
宰の顔は恍惚に染まっていて、戦いに満足できたようだ。宰の服には血が乾いたような跡がいくつもあったが、着ているのがスーツのおかげでそれほど目立ちもしない。
「無事なようで何よりですよ」
「無事ではないけどね」
「命があればそれで十分だと思いますよ? 命あっての物種と言いますし」
「そだな」
宰は軽くリュウのことを労ってくれる。
そして、リュウに抱きつきながら寝ている姿を見て、笑顔になった。その笑顔は殺し合いの前の凄惨なものでもなく、普段見せている苦笑でもなくごく自然なものだった。
「お姫様はぐっすりの様で」
「あぁ、だからあまりうるさくするなよ?」
「了解いたしました」
宰はそういうと、周囲の警戒をし始めた。宰も疲れているであろうに、リュウのことを思ってこういうことをするあたり、憎めないやつだと思った。
宰が周囲の警戒を始めてから数分後。息を切らせた九が駈け込んで来た。
「おい! イリスは……って、スマン。静かにするべきだったな」
九はリュウにしがみつきながら寝ているイリスを見て、自分の行動を謝った。
「何をそんなに慌てているのですか?」
「いや……な? 二人がかりで五十人殺した辺りでイリスが連れ去られちまってな。俺も気が気じゃなかったんだよ。ま、その姿を見る限り大丈夫そうだがな」
そういうと九は仰向けに倒れこんだ。
イリスのことを思って相当急いで戦闘を片付けてきたのだろう。九の顔には色濃い疲労が見える。
九の体に見える傷は少なくないが、致命傷のような深いものはなさそうだ。
今の九の話では九は一人で百人を相手にしたと言うことになるのだろう。それで軽い手傷しか負わないと言うのは敵が弱かったのか、九が強かったのか。
とにかく、かろうじてだがここに来た仲間たち全員の無事な顔が見れてリュウは安心した。
「それじゃあ、帰りましょうか?」
「そだな。……正直、俺は帰ってからのほうが憂鬱なんだが」
「ははっ、同感だよ」
リュウがまだ眠ったままのイリスを起こさないようにお姫様抱っこする。できればおんぶのほうが楽だったのだが、イリスがリュウの服をしっかりと握りしめて寝てしまっているのでそうもいかない。
たった一人のために起こした戦争。
普通のまともな人間が聞いたら不毛なことだと断じるだろう。そうでなくても無駄なことだとは思うだろう。
だが、今帰路につく三人の顔にはやりきったと言う満足感にあふれる表情だけが浮かんでいた。




