41!
その速さはまさに雷電の如く。ほのかに紫電を体にまとわせながら走るリュウの姿は一筋の稲妻の様であった。
「雷閃!」
マダム・スカーレットの前までトップスピードで近づくと体にまとっていた紫電を千鳥に集め、大上段から振り下ろす。
「鮮血の甲殻」
マダム・スカーレットは腕を軽く上に掲げる。すると、その手のひらから真っ赤な薄い粒子が出てきた。
その粒子はマダム・スカーレットの手のひらから溢れ出ると、リュウの振るう千鳥とマダム・スカーレットの間で鮮血のように真っ赤な色をした甲殻となる。
その甲殻と千鳥がぶつかると、すさまじい衝撃が周囲に駆け抜ける。その余波であたり一帯の木々が薙ぎ倒された。
衝撃波のせいで砂が舞い、視界が悪くなる。
リュウは地面に紫電をぶつけ、その余波で砂をすべて払う。
払った直後に視界に現れたのは大きな大きな鎌の刃。それがリュウを引き裂くためにリュウの眼前に迫っていた。
『旦那様。お体、失礼いたします』
とっさのことで避けられないと思ったリュウの脳裏に咲夜の声が響く。
すると、リュウは動かそうともしていないのに勝手に左腕が動き振り下ろされる鎌を丁寧に逸らす。そして、地面に突き刺さった鎌をリュウが千鳥でへし折る。
「すまん。助かった」
『いえ、出過ぎた真似をいたしました』
今の防御はリュウの意志ではなく、咲夜が一時的にリュウの左腕の制御を乗っ取り、攻撃を回避したのだ。
普通の人間だったら自分の意思に反して体が動くと言うのは恐怖でしかないだろう。
だが、リュウにとっては慣れた感触だ。ソロと一緒に戻ってきた記憶には今のように咲夜に助けられた記憶がそこかしこにあった。
咲夜はリュウの左腕を使い防御をサポートし、千鳥はリュウの右腕を使いリュウの攻撃に重みをもたせる。
二人はリュウのソロを制御するほかにもこのように戦闘をサポートしてくれている。
この二人がいなければ、きっとリュウは『四大孤高』などと呼ばれることはなかっただろう。
「相変わらず憎らしい武器ねぇ」
マダム・スカーレットがリュウの手にある二振りの日本刀を見てため息を漏らす。
「てめぇこそ、相も変わらず頑丈だな」
リュウもマダム・スカーレットを見て、いやそうに悪態をついた。
マダム・スカーレットの防御力は『四大孤高』の中でも指折りだ。あの防御を正面から突破できる人間などゲームマスターの中にも数えるほどもいない。
だが、『四大孤高』はそれぞれのやり方でマダム・スカーレットの防御の突破の仕方を編み出していた。
「行くぜ」
リュウは地を蹴り、さっきと同じような特攻を敢行する。
マダム・スカーレットはそのリュウの行動をお粗末な作戦だと思ってせせら笑う。
「そんなので私に刃を立てられると思ってるのぉ? 舐められたものねぇ」
マダム・スカーレットはそう言いながらまた自身の前に真っ赤な甲殻を生み出し、得意満面でその後ろに潜む。
それを見たリュウは笑みをより嗜虐性の高いものに変えた。
その口が音を発せずに形だけ変わる。それはこう言っていた。
馬鹿め、と。
リュウはマダム・スカーレットが甲殻の後ろに隠れるのを待っていた。
あの甲殻はとてつもなく硬い。だが、その硬さは全体を均等に固めると言うもので局所的に鋭い攻撃を加えると壊れることをリュウは知っていた。
それ故にリュウのとった行動は突き。より鋭く、より細くした紫電をまとった千鳥による突き。
千鳥が突き刺さるとガラスの割れるような音を立てて甲殻が壊れる。
その先にあったのは三つ。
薄く延ばされた膜状の盾。いやらしい笑みを浮かべたマダム・スカーレットの顔。そして、こちらに飛来してくる数えきれないほどの真っ赤な棘。
『旦那!』
『旦那様!』
「わかってる!」
千鳥と咲夜の声が脳内に響く。
その声に反応しながらもリュウは千鳥を横なぎに一閃し、千鳥にまとわせていた紫電で瞬間的に自分の前に壁を構築する。それに合わせて脇に跳び退るのも当然忘れない。
紫電が飛来してくる棘を止められたのはほんの一瞬のこと。棘は瞬く間に紫電を超えると突っ込んでくる。
リュウが反応するのがコンマ二秒遅れていたらリュウはハチの巣にされていただろう。
「対策を練っていないと思ったぁ? あなたに昔蹂躙されてから私だっていろいろ考えるのよぉ?」
今のやり方で以前のマダム・スカーレットはリュウに負けている。それに対する対策を練らないほどマダム・スカーレットは豪胆ではなかった。
「クソがっ!」
リュウは自分の思考の甘さを悔いる。
昔その手で攻略できたと言うことはもうそのやり口を相手に知られていると言うこと。そのことに思考が及ばないほどにリュウは焦っていたのだ。




