37!
宰のもとから駆け出してまだほんの数秒。
背後から戦闘を行うときに発生する戦闘音が俄かに聞こえてくる。
その音を聞いて初めてリュウは宰の用がなんであるかを悟った。
つまるところ、宰はリュウの気づいていない襲撃者の存在に気づき、リュウを先に行かせるために足止めしてくれていると。まぁ、そんなところなのであろう。
「ははっ。誰の力も借りずに一人で行くって息巻いてたのになぁ……自信なくすなぁ」
リュウは少しスピードを緩めるとぼやいた。
最初はここへ一人で来るつもりであった。それでも全く問題なくマダム・スカーレットのもとへは行けると思っていた。
だが、蓋を開ければこの様だ。リュウを先に行かせるために一緒にここまで来た仲間たちが敵の足止めを買って出てくれている。
その仲間の存在がなければここまでたどり着けていたかすら不安だ。
一人で行くと聞かなかったリュウについてきてくれた仲間たちの顔を思い浮かべながら、リュウはまた足を突き動かす。
マダム・スカーレットの気配はすぐそこにある。走って近づくにつれてその気配も、背筋を舐められるような悪寒も強くなっていっている。
そのまま進むこと数秒。
さっきの場所なんかよりよっぽど広く、開けた場所に出た。
リュウは身をひそめることもなく、堂々とマダム・スカーレットの前に姿を現す。
「あらぁ? ここまでたどり着けるなんてねぇ。あの子たちは本当に何をやっているのかしらぁ?」
「あんたの部下たちはうちの優秀な仲間たちが足止めしてくれてるよ」
リュウはマダム・スカーレットの気配に気おされないようにマダム・スカーレットのことを睨みつけながら会話する。
「部下じゃないわぁ。あの子たちは私のかわいい子供たちよぉ」
マダム・スカーレットはそんなリュウの思考を嘲笑うかのように艶美に微笑みながら言葉を紡ぐ。
リュウはそんなマダム・スカーレットに殺意を向けながら千鳥を抜く。
「覚悟はできてる?」
「何のぉ?」
「ボクの大事な仲間の腕を食らってくれたことのだよ」
リュウは怒りに震える腕を抑えるので精いっぱいだった。今にも千鳥を取り落としそうになりながらマダム・スカーレットに宰に負けるとも劣らない殺気を放つ。
それを受けたマダム・スカーレットは笑みを深めながら手元に大きな、死神の持っていそうな形状の鎌を取り出した。
「かかっていらっしゃぃ。あなたもおいしく食べてあげるからぁ」
リュウはその挑発を受けて一も二もなくマダム・スカーレットに斬りこんだ。
力任せの愚直な正面からの攻撃。だが、そんなまっすぐな攻撃でもリュウが行えば一撃必殺の攻撃になる。それだけリュウのスピードは尋常ではないのだ。
そのリュウの攻撃をマダム・スカーレットはいっそ優雅なほど冷静に鎌の刃で受けきる。
リュウはそのまま突撃の勢いを殺さずにマダム・スカーレットの胴めがけて中段回し蹴りを放つ。
その蹴りすらも鎌の柄であっさりと止められてしまった。
真正面から止められたことでリュウの行動が一瞬だけ硬直する。
手練れならこの隙を見逃すはずはないとリュウは限界を超えて体を駆動させようとするが、マダム・スカーレットは嫣然と微笑みながらリュウを見るだけである。
飛び退って距離を取る。そして、マダム・スカーレットの出方を窺う。




