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そんな時、不意に宰が笑みを深めた。リュウものっそりと立ち上がる。
「団体様のようだねぇ」
「数は……百五十ってところですかね」
リュウたちは敵が来たことを感知したらしい。
いくら肩の力が抜けたと言っても九如きでは『四大孤高』の一人と最狂にはかなわないらしい。
「それほぼ全戦力じゃない?」
「本当に強い奴は来てないみたいですね。あのマダム・スカーレットの横にいる二人のお付きはいなさそうですね」
要するに《鮮血の夜》のほぼ全戦力。いや、正確に言うと《鮮血の夜》の総合戦力値はマダム・スカーレットに依っているところが大きいから半分と言ったところだろうか。
その戦力が来るのならリュウも油断はできないかもしれない。
リュウが気合を入れていると九が口を開いた。
「リュウと宰は先行けよ。ここは俺とイリスで潰す」
「はぁ!? 何で私があなたなんかと……。絶対に嫌です!」
九は自分とイリスで食い止めると言ったがイリスはここに残るつもりはないらしい。
だが、リュウは九の考えがあっていると思った。
ここにほぼ全戦力をぶつけていると言ってもマダム・スカーレットとマダム・スカーレットお付きの二人はここにはいない。
だとするとマダム・スカーレットのそばに残っていると考えるのが妥当だろう。
ならば、イリスはここで止めるのが良策だ。
リュウの予想ではあるが十中八九の確率でイリスのソロはマダム・スカーレット相手では機能しない。そのお付きに対してもしかりだ。
マダム・スカーレット含めの三人は、特にマダム・スカーレットはこちらに対して敵意を抱いていないだろう。
人間が食料だと認識しているブタに敵意を抱かないように。マダム・スカーレットにとって人間など家畜とそう大差はないのだ。
「イリス、ボクからもお願い。イリスはここに残って」
「はぁ!? お兄さんまで何言ってるんですか!? 私はお兄さんの側でお兄さんを守ります!」
イリスは鼻息荒くそう語る。
「イリス、ここで敵を引き付けてくれることはボクを守ってくれることにつながるんだよ?」
「……どういうことですか?」
「ここでイリスが敵を引き付けてくれなければ先に進んだボクたちは挟撃されてしまう。そうなったらいくらボクと宰でも苦戦を強いられる。死ぬかもしれない。だから、イリス。君はここに残ってくれない?」
イリスはリュウの発言が正しいことを知っているのだろう。口惜しそうな顔をしている。
だが、すぐにイリスはうなずいてくれた。
そのイリスが可愛らしくなって、リュウは敵地のど真ん中であるにもかかわらず相好を崩してイリスの頭を撫でまわした。
イリスは気持ちよさそうに目を細めたあと、上目づかいでリュウを見上げてきた。
「……絶対に生きて帰ってきてくださいね?」
「……イリスこそね」
その言葉を最後にリュウと宰は疾風と見紛うほどのスピードで駆け出した。
それだけスピードを出していると言うのに音は少しも立てていないし、気配もない。
二人は生い茂る樹木に紛れながらすぐに見えなくなってしまった。
こんなところでも実力差が出るのかと九が嘆息していると《鮮血の夜》のメンバーがお出ましになった。
そのメンバーたちは九たちに敵意をバンバンとあててきている。
これならイリスのソロ発動に問題ないかな。
そう考えながら九はホルスターに入れてある漆黒の銃身を持つ銃を取り出す。
今までの九ならばここで人を殺さないようにと気負うあまり、すでにグロッキーになっていたことだろう。
だが、今日の九は違う。冷静に敵を見定めると銃のトリガーガードに指をかける。
《鮮血の夜》のメンバーもイリスと九の実力がわからないせいか遠巻きに見てくるだけで突っ込んでこようとしない。
数は数えるのが面倒になるぐらいにはいる。
「面倒だ。一人残らず息の根止めてやるからかかってきやがれ!」
九の怒号が広くもないこの広場のような場所にいきわたる。
そして、九は銃の引き金を引いた。その銃声に合わせてイリスが敵陣に突っ込んでいく。
二対百五十。圧倒的に不利な戦いが始まる。
圧倒的に不利な戦いだと言うのに九の口元には笑みが浮かんでいた。
その笑みは宰のものに似た狂気に包まれた笑みだった。




