32!
だが、今回は今までとは違う。正真正銘、人間との殺し合いだ。
九は自分に覚悟が足りていなかったことをここでやっと自覚した。
九は蟒蛇の片腕が切り落とされたと言うのにマダム・スカーレットに蟒蛇の前で謝罪させようと思っていた。
その甘い考えを九は捨てた。
ここからは敵は容赦なく殺す。そう思うと自然と体からは力が抜けた。
今までは相手を殺さずに無力化することに拘っていたからその分緊張していたらしい。
もう甘えは捨てよう。同じ人間だとしても、それ以前に敵は敵だ。
殺られる(やられる)前に殺る(やる)。それが九の中で確定事項になった。そうすると不思議なことに、無駄に肩に力が入っていたさっきよりも今のほうが視野が広くなった。
「……いい殺気ですねぇ」
「そだね。なんか腹くくったって感じ?」
リュウたちが九のほうを見て何かを言っているが、その会話の内容まで逐一頭にしみこんでくる。
リュウたちは少し言葉を交わすと顔に浮かんでいる笑みを深めて先に進んでしまっている。
九も追いつこうと歩調を速めると隣にイリスが来た。
「意外ですね」
「? 何がだよ」
「いえ。私はあなたは正論振りかざして人なんて殺せないと言うのだとばかり思っていましたから」
そういうイリスの声音は心から驚いているようだった。
たぶん、イリスは初対面の段階で九の本質に気付いていたのだろう。
非情に徹そうとするが理性と人格によって非常に徹することができない九のことを。
敵に対しても情が抜けきっておらず躊躇してしまう九の本質のことを。
「俺だってその程度にはプッツンきてるってことだよ」
「……それも含めて意外です」
最後にそういうとイリスはパタパタと小走りでリュウのところまで行ってしまった。リュウのところまで行くと言ってもリュウたちの会話に混ざるわけではなく、一歩後ろをついていくような歩き方だ。
これも九にとっては意外であった。イリスは戦場に置いては自分の立ち位置と言うものをしっかりと理解して行動できる質らしい。
九はそんなことを思考しながら茂みに向かって銃を構え、幾度かその引き金を引く。
その銃弾が茂みに到達するたびにくぐもった悲鳴が聞こえるが誰も気にしない。
九の放った銃弾は茂みに隠れてこちらをうかがっていた《鮮血の夜》のメンバーの額を的確に撃ちぬいていた。その銃弾を放った九の銃は一ミリもぶれていなかった。




