31!
リュウたちは第七階層に来ていた。
《鮮血の夜》から指定された場所と言うのが前回蟒蛇の腕が切り落とされたあの広場だ。
因縁に決着をつけるのならばあそこほどちょうどいい場所はないだろう。
この小さな、だが与える影響は果てしなく大きい抗争の発端となった場所で決着がつくのならこれ以上に良い終わり方はないだろう。
第七階層に入ってから九は最大限の警戒を周囲に向けていた。
それもそうだろう。相手が指定してきた場所なのだ。罠がないと考えることができるのならそいつは相当に能天気なのだろう。
だが、警戒している九たちとは逆にリュウと宰とイリスは至って自然体で歩いていた。
武器こそ抜いていたが、九たちのようにバリバリの緊張感を抱いているようには思えない。それこそ《ナインヘッド》のホームを歩いている時とほとんど変わっていない。
「お前ら無警戒すぎじゃないか?」
九がついと言った様子で呆れながらリュウたちに言う。
「別に警戒していないわけじゃないよ」
「えぇ、警戒はしていますが警戒しすぎていても肩が凝るだけですし。それに気を張りすぎているといざと言うときにプツリと緊張の糸が切れてしまいますから」
そう話す二人をよく見てみると必要最低限の動きだけで周囲全体に目を配っている。
二人の言うとおり、二人は警戒していないわけではなく警戒しながらも適度に気を抜けていると言うことなのだろう。
その姿を真似したほうが良いかとも思ったが、あんなふうに体から力を抜いていられるのは経験によるものが多いと思う。
ちなみにイリスは特に何も考えていないようだ。敵がいてもイリスのソロがあればすぐに察知できると思っているからだろう。
リュウも宰も元はチームで動いていたわけではなく個人で動いてきていたはずだ。イリスにいたっては第六階層のゲームマスターをしていたのだ。
それなら遭遇した修羅場の数もチームと言うぬるま湯につかっていた九なんかよりもずっと多いのだろう。
どれだけの修羅場を超えれば戦場で自然体でいられるのだろうか?
九はリュウたちが超えてきたであろう修羅場の数を思って軽く身震いした。
「それにしてもここは仕掛ける側としては最高の立地だね」
「ですね」
リュウたちは自然に話している。
「生い茂っている木々は姿を隠すのに最適だし、動物のおかげで気配も紛らわせる。草のおかげで足音まで消せる。これほど怖い場所はない」
「ですね。あ、九ちょっと銃貸してくれませんか?」
「ん? 別にいいが、すぐ返してくれよ」
「えぇ、すぐすみますよ」
宰は九から銃を受け取ると即座に茂みに向けて引き金を引く。銃声は三回。銃から放たれた弾丸はすべて茂みに吸い込まれていく。
すると。茂みの中から悲鳴のようなものが聞こえてくる。
その悲鳴のしたほうにそれぞれ向かってみると弾丸が体に命中したのか辛そうに身を丸めている。
「いつの間に気付いたんだ?」
九は茂みに敵が潜んでいることなど全く気付けていなかった。
だと言うのに自然体で話などしていた宰は何でもないことのように隠れている敵を見つけ銃で的確に撃ち抜いた。
そのことに対する驚愕で声が漏れたのだ。
「あちらからこちらが見えていると言うのならこちらからもあちらが見えている。なら、発見できない道理はないでしょう?」
「それにこっちを警戒しているだけなら敵意は持たないだろうからイリスのソロにも引っかからないしね」
宰とリュウは何事もないように理由を教えてくれる。
それを自然体でやってのけるのだから宰はすごい。リュウはたぶん気づいていたが宰が気づいていたようだから宰に任せたのだろう。自分など存在すら気づけなかったと言うのに。
リュウと宰は倒れている人間に一瞥もくれずに首を切り落とす。二人とも当然のことと言うように淡々としている。
その姿に九は寒気を覚える。
「な、何で殺すんだ?」
九の質問にリュウたちは質問の意味が分からないと言う風に首をかしげる。
二人の中では敵を見つけたら殺すのが常識のようだ。
九の質問にはイリスが答える。
「敵は殺すものですよ? それにここで殺さなかったばっかりに後で後ろから刺されるなんてことになったら笑い話にもなりませんし」
「だが……殺す必要はないんじゃないか? どこかに縛り付けてでも置けば……」
「九、何甘いこと言ってるの?」
そう九に言ったリュウの顔からは表情が抜け落ちていた。
「敵は殺す。当然のことだよ。後々に遺恨を残さないためにもね」
リュウの言葉は一面的には正しいことなのだろう。だが、九はとてもではないがそれに納得できそうにはなかった。
「敵でも話し合えば何とかなるんじゃないか?」
九のその言葉にリュウは嘲笑を浮かべた。
リュウは基本的に味方に対してこういう態度はとらない。だが、この時のリュウの目は明らかに九を見下していた。
「九は優しいんだね。それで通じる世界で生きてきたんだね。人間と争わなくていいようなゲームばかりしてきたのかい? それはいいことだと思うよ。だけど、戦場に置いてはその優しさなんて何の役にも立たないよ」
その直後、真後ろから殺気が九に向かって放たれる。
距離が近すぎる。これでは回避するにも反撃するにも距離が足りなさすぎる。それに話していたせいか一瞬体が硬直した。
やられたかなと思っていると、宰が九と襲撃者の間に割り込んだ。
宰は特に動じることなく一瞬で襲撃者を複数の肉片に変えてしまった。
「ね? これでわかったでしょ? 九がいままでどれほど甘い世界で生きてきたのか。九がどれだけ優しかろうと、敵に情けを掛けようと、敵は九に情けは掛けてくれないよ」
リュウはそれだけ言うとまた前にスタスタと歩いていってしまう。
リュウの言葉は正しい。九は同じ人間を相手にするような戦いは今までしたことがなかった。
戦う相手は獣ばかり。『イリス』で露払いを任せられた時だって極力相手を殺さないように急所を避けて攻撃していた。そのせいで攻撃をいくつか受けてしまったのだが、そのことに後悔はしていなかっし、これからもそうするつもりだった。




