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Excited Crowd  作者: 頭 垂
第一章:眼前に広がる未知
3/46

3!

その景色をまぶたに焼き付けていると上から階段を降りてくる音が聞こえてきた。その音に引き付けられるように上を見ると数人の人がいた。

その人たちには年齢にも見た目にも、見た感じ一つを除いて共通点は見当たらない。上から降りてきた全員は種類こそ違ったが全員が一様に銃を手にしていた。

スナイパーライフル、ハンドガン、アサルトライフル。種類は様々だが、それは全て生き物を、同族を殺すことに特化した道具だった。

その集団の先頭に立っていた髪に少々の白髪が混じっている年配の男がこちらに気付いたようで声をかけてくる。

「ん? お前は何だ? なぜこんなところにいる?」

「ボクが聞きたいところだよ。ここはどこで、ボクは誰なんだ?」

 彼は年配の男の問いかけに問いかけで返した。彼は自分が何者かなんて知らない。気が付いたら車の後部座席に乗っていたのだ。自分の名前すらも思い出せないのに自分が何かなんてわかるはずもない。

年配の男がボクに不審な目を向けている。不愉快ではあったがこの現状をかんがみれば不審に思うのも当然のことだろう。甘んじて受け入れることにしよう。実に不愉快ではあるのだが。

「おい、どうした? 早く降りろよ。俺は腹減ってんの。お前らだって腹減ってんだろ? 早く降りて温かい飯でも食おうぜ」

「隊長、下がっていてください。見慣れない男がいるんです」

「だーら、隊長って呼ぶのやめてくれよ。俺には九重ここのえ きゅうって名前があるんだからそっちで呼べっての」

集団の後ろのほうから若い男と女の声が聞こえてきた。その声は徐々に大きくなると、ついに彼の前に姿を現した。

男のほうは少し伸びた白髪を髪ゴムでまとめている。その腰には二丁の漆黒のハンドガンが入っている。その男はさっき女に呼ばれていたように隊長と呼ぶのがふさわしいようなピリッとした雰囲気をまとっていた。

女のほうは長い黒髪を後ろでポニーテールにしていて真面目そうな雰囲気だった。その手には長い銃身のスナイパーライフルを持っている。

さっき九と名乗っていた男がボクのほうを見て驚いたように目を剥く。

「ん? お前、リュウか?」

 リュウ。その名前を聞いたとき不意に頭が痛んだ。だが、その痛みもすぐに晴れ、それ以降は何も起こらない。

今の頭痛はなんだったのだろうか? わからない。その頭痛の痛みを理解するために必要な情報すら彼の頭の中には欠落していた。

「おい、大丈夫か?」

男が心配そうにこちらの顔を覗き込みながら問いかけてくる。

「い、一応ね。ちょっと頭が痛いけど気にするほどではないよ」

「そうか……。それはよかった。お前がいないと俺たち《ナインヘッド》は終わりだからな」

《ナインヘッド》。また新たな単語が出てきた。その単語を聞いたときはさっきほどではないが軽い頭痛が彼の頭を這っていった。だが、さっきとは違い何も感じないのではなく痛みとともに懐かしさが彼の体を駆け抜けていく。

「一つ聞いてもいい?」

「ん? いいぞ?」

「リュウってのはボクの名前でいいんだよね? あと《ナインヘッド》ってのは何?」

彼がそう聞くと九は彼を見つけた時とは比べ物にならないほど驚いた表情をした。

そして、九は顎に手を当てると考え込むようにして黙ってしまう。ボクはそんなに変なことを聞いてしまったのだろうか? それを決めるための判断基準すら今の彼の中にはないのでわからなかった。

九は考え込んだ末に顔を上げる。

「……まさか、お前記憶がないのか?」

「う~ん。それすらもわからないから困ってるんだよね」

「嘘だろ……。くそっ!」

九は悔やむようにして叫ぶと階段の手すりを拳で殴りつけた。

その殴りつけた拳は怒りからか痛みからか震えている。

「想像以上にいてぇ……」

発言から察するに痛かったようだ。そんなになるのなら殴らなければいいのに。よく見てみると九の目の端には涙が浮かんでいるように見えなくもない。

それを見ながら彼は不思議な既視感を覚えていた。記憶がないのにこんなこと思うのもなんなのだが、懐かしいような気がする。

「痛いならやらなきゃいいのに」

ふと、考えてもいないのにそんな言葉が口をついて出ていた。これには特に何か意図があったわけでもなく文字通り口をついて出てしまっただけだ。

九は痛みにプルプルしていたのだが、気を取り戻すと振り切ったような表情になって後ろを向いた。

「お前はリュウだ。それだけ覚えとけ。とりあえず、一旦ホームに戻るぞ。話は何をおいてもそこからだろう。芳野、前線の索敵」

「了解しました」

「麻衣、後方の警戒」

「はい」

「他はリュウを囲むように位置しろ。状況開始」

九の言葉にそれぞれが行動を開始する。

この動きを見る限り、九の隊長としての腕は確かなものなのだろう。全員が九の指示にゆがみなく動いている。九の指示が的確なだけではなく、この部隊の全員が九を信頼しているのだろう。でなければこんなに素早く動けないだろう。

つい、リュウは自分の記憶がないことや目の前にいるこの人たちが信頼できるのかどうかという疑いも忘れてしまっていた。

「そんじゃ、行くぞ。最短を突っ切る。危険はほぼないが警戒は怠るな」

「「「「「「了解!」」」」」」

そういうと九は自分から戦闘を突き進む。その後ろをリュウたちも粛々と進んだ。

自分の記憶がないリュウはこの世界でどうなっていくのか、今までのリュウはどうやって暮らしていたのか。それを知るためにもリュウは遅れないように周りに合わせて進んだ。


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