29!
蟒蛇の左腕が切り落とされた一件から一週間ほどが経っていた。
リュウは自室にいて一通の書状に目を通していた。リュウの自室はイリスによって少しではあるが内装が変えられていた。
と言ってもちょっとした小物が置いてあったり、壁にイリス画伯直筆の絵が少し書いてあるぐらいだ。
その程度の変化なのに一気にその部屋には生活臭が出てきていて、人が住んでいるという感じがしてきていた。
リュウはあの一件の後、《鮮血の夜》に書状を送っていた。と言っても送り方は雑で《鮮血の夜》と思しきメンバーを第七階層で見つけ、そいつを半殺しにした後マダム・スカーレットあての手紙を渡すと言う乱暴なものだった。
そのリュウがマダム・スカーレットに送った手紙の内容は意訳するとこうなる。
自分の狙いはマダム・スカーレット、ひいては《鮮血の夜》への報復であると言うこと。この件に自分の仲間を巻き込むつもりはないと言うこと。
そんなことが書かれてあった。
リュウにとってこの手紙は決意表明のようなものであると同時に暗に他の《ナインヘッド》のメンバーを巻き込んだら容赦しないと言う脅迫の意味合いもかねてあった。
だから、これに返答が返ってくることなど全く期待していなかった。
だが、つい先ほどこの手紙が届けられた。その手紙を届けた相手は自分が《鮮血の夜》のメンバーにしたように半殺しにされていたと言うことで医務室に常駐している四谷から届けられた。
その手紙にはマダム・スカーレットの目的は《ナインヘッド》の幹部を喰えれば満足であると言うこととただ第七階層の場所の地図が添えられていた。
この地図の意味はそこで決着をつけようといいことなのだろうとリュウは推測した。
だが、相手が指定してきた場所だ。そこにはきっと大勢の《鮮血の夜》メンバーが待ち構えていることであろう。もしくは罠が仕掛けられているとかそんなものだろう。
だとしてもリュウにはその手紙を無視すると言う選択肢は毛頭なかった。
相手が場所を指定してきてくれたのだ。それが罠であろうと自分の力で突き破ってやる。そして、マダム・スカーレットの喉を食いちぎってやる。
そうリュウは考えていた。
リュウは手紙を引き裂くとイリスが部屋に置いた可愛らしいピンク色のゴミ箱に抛り捨てた。
この場所にはリュウ一人で行く予定だ。手紙にも書いた通り他のメンバーを危険にさらす気など毛頭ない。
これはリュウがやりたいから、リュウがマダム・スカーレットにキレているからすることだ。
それにほかのメンバーを巻き込むのは筋違いだろう。そうリュウは思っていた。
「千鳥、お前には迷惑かけるな」
愛刀を鞘から抜き、刀身を見ながら声をかける。
この愛刀にはいつもいつも迷惑をかけている気がする。この愛刀にも自分に付き合わせてしまって申し訳ないと言う気になっていた。
不思議なことにその刀の柄から持っている手に対して声が伝って来たような気がした。気のせいかもしれないがこの愛刀がしょうがねぇなと言ったような気がした。
気のせいなのだろうがそれで自分の気は少し軽くなったように感じる。
リュウは気を引き締めてから部屋を出る。
ここからは誰も頼れない。自分一人の力で《鮮血の夜》を潰す。潰せないまでも二度と《ナインヘッド》に手を出したくなくなるほどの恐怖を植え付けてやる。
そう決意しながらホームの大きな扉を開け、ホームから外に出る。




