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Excited Crowd  作者: 頭 垂
第三章:開戦の号砲
23/46

23!

防御から攻撃を移す一瞬の虚を突かれた形になった二人。その隙は本当に欠片ほどのもので、相当な達人でもその間に割って入ることは難しいだろう。が、リュウも宰も笑いながらそれをこなした。それだけでリュウとイリス、宰と四谷の実力差がどれほどあるのかわかる。

攻撃を止められた二人はキョトンとしていたが、すぐに気を取り直す。

「お兄さん! 止めないでくださいよ! あの女の鼻っ柱をへし折るんですから!」

「女の子がそんな汚い言葉使うんじゃありません」

イリスはジタバタと暴れるが、リュウはそれを気にした様子もなく優しい手つきでイリスの髪を梳く。

それだけで、イリスは不満そうにしながらもリュウの腕の中で暴れるのをやめた。

「二木、止めるな。私はあの人間の敵を粛正する」

「まあまあ、一度落ち着いてください。ちゃんと説明しますから」

四谷は宰の足の下から薙刀を抜き取ろうとするが、全く抜ける気がしない。宰の力加減が絶妙なのか、薙刀は押しても引いてもピクリとも動かない。

やがて、四谷は諦めたのか薙刀を握っている手の力を緩めた。

二人が大人しくなったのを確認してから、リュウが口を開く。

「もうあとに遺恨残すのも面倒なので、ここで決着をつけろ」

そういうリュウの言葉にはめんどくさいという気持ちと有無を言わさぬものが含まれていたが、イリスを後ろから抱きしめてイリスの髪を梳いているままだと威厳もくそもなかった。

ちなみに撫でられ続けているイリスは顔から険悪さがとれ、リュウの腕の中で甘えるような顔つきになって、リュウの胸板に顔をこすり始めた。

「にゃーん……」

猫みたいな声まで出し始めた。もうイリスの中でのリュウは麻薬みたいな扱いなのかもしれない。

リュウから一日離してみたらどうなるのか実験してみたいところだが、後が怖いので止めておくとしよう。

「イリス。イーリースー。喧嘩していいよ」

「いいんですか!? あの女殺しても!?」

「やってみろ。その前に私が貴様を殺すがな」

二人はまた睨み合いを始める。

それを見てリュウと宰は苦笑いをした。ここまで対立せずにはいられないってのはある種仲がよろしいのではないだろうか? 口には出さないが、二人とも同じようなことを考えていた。

「ま、喧嘩する前にルールを設けさせてもらうよ」

「いらないです!」

「あぁ、どちらかが死ぬ以外の決着のつけ方はない」

「それでは困るのですよ。二人とも《ナインヘッド》にとっては二人といない人材ですから」

リュウと宰の説明を聞いても二人は不満そうだった。

もうこれは相思相愛って言ってもいいんじゃないかな? 気持ちが通じ合いすぎていて逆に怖い。

と言うか、根っこの考え方が同じなのかもしれない。二人ともだいぶ好戦的なようだ。

「ルールは一つだけ。相手に致命傷、もしくは再起に時間のかかりそうな怪我を負わせそうになった時にはボクと宰が止める。それだけ。それ以外なら何してもいいよ」

「でも……」

「これ以外なら認められない。今は《鮮血の夜》といつ交戦するかもわからないからね。戦力を削るのは愚策だよ。それぐらいわかってるはずだよ」

「それでは私の気が収まらない」

二人とも相当相手のことを嫌っているらしい。リュウの出すルールに従おうとはしない。

まぁ、これならまだましだ。納得したようなフリをして、途中でルールを破られるほうが面倒くさい。どちらにしろ止めるが。

リュウは面倒臭くなって大きなため息を一つついた後、満面の笑みを浮かべる。

「別にいいんだよ? ここで二人とも適度に潰しても」

そう言ったリュウの笑顔は人の心に強制的に入り込んできて、そこに恐怖を植え付けてくるようなものだった。笑顔の裏にはその言葉を必要ならば実行すると言う意思が確認できた。

二人ともリュウの言葉を聞いて、一度体を震わせるとうなずいた。

「うん、うなずいたね。別に過剰攻撃しようとしてもいいけどボクと宰で止めるから悪しからず」

「えぇ、あなたたちの攻撃ぐらいなら私でも無手で止められそうですから」

リュウたちはそう言うと二人から距離を取った。四谷は宰の発言に少しムッとしたようだが、すぐに元の表情に戻った。その程度の実力差があることぐらいは自覚できているらしい。

一つだけ情報をつけ加えると、《ナインヘッド》での実力トップ2は宰とリュウである。リュウは記憶を失う前なので、今の実力はわからないがさっきのを見た限りそれほど弱いわけではないだろう。

リュウが手を上げる。その手を振り下ろしながら告げる。

「開始」

開始の合図があったと言うのに鍛錬場内は驚くほどの静けさを保っている。

イリスも四谷も全く動こうとしないのだ。両者の実力は拮抗している。

こういう実力者同士の戦いの場合は、一瞬で決着がつくか延々と勝負が長引くかのどちらかである。

この勝負は後者のようだった。

イリスは小刀、咲夜の柄を握りながら、四谷は薙刀を強く握りながら。相手の出方を窺っている。

「警戒してるねぇ」

「そうですね。どちらも相手の実力を測りかねているのでしょう」

「宰だったらどうする? こういう時」

「私だったら膠着状態に入る前に先手必勝ですかね。それなら相手の実力が如何程であろうと関係ありませんから」

観戦している二人の声は驚くほど落ち着いている。

最悪、この二人の間に割って入ることを理解しているのだろうか?

周囲にいる四谷の部下たちはその二人の態度に不思議な安心感を覚えた。この二人ならどんな状況になろうと落ち着いて対処してくれるだろうと思えるからだ。この二人が《ナインヘッド》の実力トップ2であることの理由がよくわかった。

リュウがのんびり欠伸なんかをしていると、状況が動いた。

イリスが体勢を低くし、地面を舐めるような動きで四谷に接近する。

イリスの得物は小刀。四谷の得物は薙刀。接近されたら小回りの利くイリスに軍配が上がるだろう。

それを経験上知っているのか、四谷はイリスが自分の攻撃圏内に入った瞬間に最短距離で薙刀をふるう。

その軌跡は逆袈裟。完全に直撃コースだろう。

だが、イリスはそれを咲夜の刀身を滑らせるようにして脇に流す。

これで四谷はイリスのリーチに入った。イリスは腰だめに咲夜を構え、まっすぐと突き出す。

四谷も幹部の端くれ。これでやられてしまうほど弱くはない。四谷はさっきの攻撃の勢いを利用し、体を反転。カウンターの要領で薙刀の石突をイリスの腹部にねじ込む。

「くっ……!」

イリスは苦しそうな吐息を漏らしながら一度下がる。

「入ったな」

「ですね」

「これは決まったかな」

「でしょうね」

のんびり観戦していた二人にはもう結果が見えてしまっていた。これはイリスの負けだろう。

今の一撃のせいでイリスは必要以上に四谷を警戒してしまった。

それでは体に力が入って動きが硬くなってしまう。イリスの長所であるスピードが封じられてしまった形になる。

と言うか四谷がこれほど強いとは思っていなかったリュウは面食らっていた。

今の四谷は模擬戦闘とはいえ、イリスを敵と認識している。

と言うことは必然的にイリスのソロが発動しているということだ。ソロが発動している時のイリスは大男の筋力でもあらがえないほどの膂力を持っている。

そのイリスを前にしてあれだけ流麗に技をつなげられるのは、才能ではなく訓練のたまものだろう。きっと血のにじむような訓練をしたのだろうな。

そこからは一方的だった。

四谷が好機と見たのか攻勢に出る。たった一人だと言うのに薙刀の突きで壁のような攻撃を繰り出す。

イリスはそれをいなすだけで反撃には移れていない。四谷の攻撃がそれほど激しいと言うのもあるのだろうが、イリスは萎縮してしまっている。リュウだったらあの連撃の中でも四谷を殺すぐらいわけない。

ついにイリスの小刀が弾き飛ばされる。これでイリスは反撃の手段を持たない。これで決着だろう。

だが、四谷は攻撃の手を緩めず、首元めがけて薙刀を一閃しようとする。これは火を見るより明らかな過剰攻撃だ。

リュウが動き出した。

腰に佩いていた大刀、千鳥を駆け出しざまに抜くと、四谷の薙刀の刀身に勝ち当てる。それで四谷の薙刀の勢いを一時的に止める。その止まった一瞬のうちに体を回転させ、四谷の懐に入り込む。

「ほいっ」

千鳥のみねを四谷の手首を打つ。それだけで四谷の握りが緩む。そして、手に意識が言っているうちに足払いをする。これだけで驚くほど簡単に四谷は尻餅をついてしまう。

「過剰攻撃はダメって最初に言ったでしょ。ボクが入れない可能性に欠けたのかも知らないけど、その期待は裏切らせてもらったから」

「く……」

自分の考えを読まれたうえで攻撃まで完璧に止められて四谷は悔しそうな顔をする。


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