21!
さて、非常に微妙な気分になったポーカーが終わったわけだが、それぞれがそれぞれの仕事をしに向かった。
九は今から司令部に行って、対《鮮血の夜》への対応を考えるらしい。小鳥は第七階層で資材集め。
リュウとイリスのペアは、宰を探して武器の手入れをしてくれる人間を紹介してもらうことにした。のだが、今日の宰の予定は九も把握していないらしく、宰がどこにいるかは知らないらしい。
普段の宰はホームにいる限り基本的に小鳥の近くにいて、小鳥が無茶しないかを監視しているらしいのだが、今日に限ってどこかに行ってしまったらしい。
宰のプライベートと言うものがいまいち想像がつかないのだが、何か用事でもあったのだろう。
どこにいるのかも定かではない人間を探し回って時間を浪費したくないので、今日の予定を変更することにした。具体的にどう変更するかは気分しだいと言ったところであろう。
「と言うことで、今日は何する?」
「何でもいいですよ? 私はお兄さんと一緒に入れるのなら何でもいいです」
イリスはそう言いながらリュウに満面の笑みを向けてくれる。イリスは右手で大事そうに小刀を抱えている。それはこの前リュウが結婚指輪代わりにと渡したものだった。
慕ってくれるのは嬉しいのだが、その返答は要するに今日の予定をリュウに丸投げするということと何か違いはあるのだろうか?
ぶっちゃけて言えば、リュウに何かしたいと思えるほどの積極的な考えはない。ただ毎日を受動的に過ごしたいだけである。
ならば、何故さっきのポーカーをしようとか言ったのかって? 何となくしたくなったからである。そこに理由なんてないし、そんなもの求めてもまともな返答が返ってくるはずもない。
部屋の模様替えをしようと言いだされなかっただけましではあるのだが。
さて、何をしたものか?
「あ、ちょうどいいから久しぶりに運動でもしない? イリスも最近は運動あんまりしてなかったでしょ? ボクもイリスと戦って以来……あれは戦いじゃないかな? まぁ、運動しない?」
「いいですよ。それならお兄さん私と勝負しませんか?」
「イリスと?」
「はい」
別にイリスが手合わせをしたいと言うのならやぶさかではないが、リュウはイリスに敵意を向ける気がない。
と言うことは、イリスは自分のソロが使えないということになる。なんの力も持たないただの子供であるイリスと戦うのは気が引けるものではある。
それに、リュウが敵意を向けないのなら、それはまともな戦いになるわけがなくただの戦闘ごっこに成り下がってしまう。
「ダメですか?」
「ダメってわけじゃないけど……。ホントに良いの?」
この質問はそんなことに時間を使っていいの? と、ソロがないけどいいの? と言う二つの質問が重なったものだった。
「はい。お兄さんがどのくらいの実力を持っているのかも気になりますし、何よりもソロがない自分がどの程度動けるかを確かめなければいけませんから」
一瞬、イリスが質問の意味をちゃんととらえてくれたのか心配だったが、イリスはリュウが考えているよりもずっと頭のいい子だったらしい。しっかりとリュウの質問の聞きたいことを捉えていた。
「それならいいんだけどね。なら、いこっか」
「はい♪」
イリスは、一際かわいい笑顔を浮かべるとリュウの腕に自分の腕をからみつけてきた。
イリスは普段からこういうことをしてくるが、今日はいつもより機嫌がよさそうだ。それだけ戦えるのが嬉しいのだろう。
それもそうか。これまではずっと休みもなく戦いつづけていたのだ。戦うことの好き嫌いにかかわらず、いつもやっていたことを急に止めるというのはそれなりにフラストレーションがたまることなのだろう。
リュウのわきを歩くイリスの足取りは軽やかなものだった。
「そんなに戦うの好きなの?」
「好きと言うのとは違いますよ。なんというか、してないと落ち着かないと言いますか……ごめんなさい。うまい表現が出てきません」
「いや、いいよ。何となく聞いただけだから」
素朴な疑問がリュウの頭に浮かんできた。
イリスはシリアルキラーなどのように、病的なまでに人を殺すことが好きと言うようには見えない。
だと言うのに戦っていないと、殺すために動いていないと落ち着かないと言う。まだ、イリスとの付き合いがそれほど長いとは言えないが、イリスの大体の性格ぐらいはつかむことができた。
イリスは優しい性根をしていると思う。これがこの半月ほどの間、イリスと四六時中一緒にいてイリスに対してリュウが抱いた感想である。
イリスが自分の腹の内を全部晒しているとは思えないが、この印象はあっているであろう確信はあった。
四六時中一緒にいてはがれない化けの皮ならそれはもう本質と言っても過言ではないだろう。それにイリスは、あの時自分はリュウの物ですと言った。あの時のイリスの調子が嘘だとはとてもではないが思えない。
と言うことはこのイリスの違和感には何か原因があるとみて間違いではないだろう。
問題はその違和感、いや思考を誰が植えつけたのか。もしくは誰がイリスの頭の中をいじったのか。
その方法が催眠なのか小さいころからの刷り込みなのかはわからない。どちらにしてもこれは異常なことだ。人間が、生き物が同族を殺すことに違和感を覚えないと言うのは。
そのマインドコントロールを誰が行ったのかは知らないし、何の目的があったのかも興味がない。ただ、そんなことをこんな小さな子に行った人間をリュウは許せそうになかった。
「お、お兄さんどうかしましたか? 怖い顔してますよ」
気が付いたらイリスの表情からあのかわいい笑顔はなりを潜め、心配そうな表情でリュウの顔を覗き込んでいる。
「ん? 大丈夫だよ。イリスは何も関係ないから」
リュウは何でもないことのように言うと、イリスの頭をやさしくなでる。
一瞬、イリスが不満そうな、それでいて心配そうな表情になったように見えたが気のせいだろうか? リュウは自分の目が信用できず、目を手の甲でこする。
きっと気のせいだったのだろう、リュウが目をこすっている間にイリスの表情は笑顔に戻っていた。




