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Excited Crowd  作者: 頭 垂
第三章:開戦の号砲
20/46

20!

「お前らは最近どうなんだ? イリスはもうここの空気にはなじめたか?」

自分の思考もまとまったし、いい機会であることは確かなのでそれぞれに最近の出来事を聞いてみることにしよう。こういうプライベートののんびりしたときのほうが人の口は軽くなる。報告書などに上がってくる情報よりも鮮度があるのは確かだ。

そのことに関してだけはリュウに感謝してもいいかもしれない。

「うん、だいぶ慣れました。お兄さんとずっと一緒にいるから退屈はしませんし、特に困ってもいません。一つだけ言うならお兄さんの部屋が質素すぎるのが気になりますね」

「なんですと!?」

イリスの発言にリュウが心底驚いたというような声を上げた。

リュウの部屋には必要最低限未満の物しか置いていない。

これは記憶を失う前までのリュウの部屋だから、模様替えをするかと思ったのだがしなかったらしく、未だにあの部屋にはほとんど物が置いていない。

昔も今もリュウの部屋に対する考えと言うのは全く変わっていないらしかった。

「アレが至高だよ!? それに新しくものなんて置いたら埃が溜まっちゃうじゃないか!」

「溜まりませんよ。それに溜まってもこまめに掃除すればいいじゃないですか」

「その掃除にかける労力を他に回したほうが良いとボクは思うの」

リュウとイリスの会話の中にもあったが、リュウが部屋に物をあまり、と言うかほとんど置かないのは置いたものの陰に埃が溜まるのが嫌らしいのだ。

九もイリスと同じ考えで、こまめな掃除をすればいいと思うのだが、リュウは掃除するのが嫌いなのだ。掃除嫌いなのに綺麗好きと言う、相反する二つの属性を持っているのがリュウと言う男だった。

「それじゃあ、私がこまめに掃除するので部屋をもっと彩ってもいいですか?」

「イリスに掃除なんてさせられないよ」

面倒くせぇ奴だなぁ。

昔から思っていたが、今しみじみと思った。リュウは面倒臭い奴だ。

イリスは自分の住む場所ぐらい可愛らしくしたいらしい。それは年頃の女子としては当然の気持ちなのだろう。年頃の女子ではない、それどころか女子ですらない九ですらあの部屋には住みたくない。あの部屋は生活感が薄すぎるのだ。

ちなみに今さりげなく流したが、イリスはリュウと同じ部屋に住んでいる。イリスは要監視対象なので当然と言えば当然だ。イリスはそのことを、監視されているとかの事情を忘れて純粋に楽しんでいるようだ。

イリスは未だに敵意を向ける相手にはソロを使えるらしく、敵意にことさらに敏感なのはゲームマスター時代とは変わらない。

だが、敵意を向けない相手、特にいつも何かしらの理由でリュウのそばにいることの多い小鳥と九には心を開いているようで、この三人の前では屈託のない笑顔を見せてくれるようになっている。

「いいじゃないですかー。あそこには私も住んでいるんだから私の意見を考慮してくれてもー」

イリスは可愛らしく頬を膨らませてリュウに意見する。

ゲームマスターとして見ていたときはイリスがこんな人間らしい表情をするとは思っていなかった。

今でもここにいる三人の前以外(特に四谷の前)では、ゲームマスターのときと同じ辛辣な、と言うか嗜虐的な表情をすることが多い。

「えー……。でも、ボクの部屋だしー」

「……あの部屋の模様替えをさせてくれないっていうのなら、もうお兄さんとは寝てあげませんっ」

「嘘でしょ!?」

その言葉に反応したのはリュウだけではなかった。

「えっ!? もう一緒に寝るなんてところまでいってるの!?」

「ふふーん。いいでしょう?」

「うー、ずーるーいー」

小鳥がイリスの言葉に反応する。そんな二人の様子を九は微笑ましく見守る。

この二人は同姓と言うこともあってか仲が良い。リュウは気づいていないようだが、イリスは小鳥がリュウのことを好きと言うことに気づいているらしく、そのことから話をするようになったようだ。

小鳥は未だにリュウの、十二歳以上に興味ない発言は知らない。こんなこと小鳥に言えるか!

リュウはなぜ小鳥が恨めしそうな目でイリスのことを見ているかを理解していない。頻りに首をひねっている。

「と・に・か・く。あの部屋の模様替えはします! いいですね?」

「九ぅー。イリスがいじめるよー」

「あぁ、仲が良いみたいで何よりだよ」

「ホントそうよね」

この部屋はほのぼのとしているが、《ナインヘッド》の中ではそうでもない。

最近《鮮血の夜》が《ナインヘッド》にちょっかいをかけてくるようになったからだ。

ちょっと前まではそんなことはなかったのに、最近は《ナインヘッド》を見るたびに喧嘩を売ってくる。そのことが最近の九の悩みの種だった。

「イリスは聞いたが、リュウのほうは最近どうなんだ? 何か変わったこととかないか? 困ってることとか」

「現在絶賛イリスにいじめられてるんだけど」

「それ以外でだ」

「それ以外でねぇ」

リュウは顎に手を当てて考える。

イリス云々はイリスとリュウの関係が良好と言うことに他ならないだろう。それは大変結構。問題でもないだろう。

それを抜きにしてもリュウが何か問題だという気もなかった。リュウだったら何か問題が起こっても自力で解決してしまいそうな気がする。

それではなぜ聞いたかと言うと、問題があるという可能性が毛先ほどあったからだ。

「あ、あった」

今回は毛先ほどの可能性があったらしい。

リュウは佩いてある大刀を腰から引き抜いた。

「この刀、えーっと千鳥だっけ? これの手入れをしたいんだけどさ。ここには手入れできそうな場所もないし、ボクにその技術がある気もしないんだよね」

要するに、最近刀の切れ味が悪い。誰か刀の手入れしてくれる人知らない? ってところか。意訳すると。

武器の手入れをしてくれる人間に心当たりがないわけでもない。九だって自分の銃を自分で手入れしているわけではない。その道のプロにやってもらっている。

自分でできないこともないが、以前自分でオーバーホールをやった際に部品を一つ無くしてしまってからは知り合いに頼むようにしている。

「リュウ、俺たちのクリアしている階層は二つだ。と言うことは手に入れている施設も二つ。第六階層は農場。第二階層は工房だ」

「あー。前そんなことを聞いた気がしなくもなくもない」

「どっちだよ」

「聞いてない」

「聞いといてくれよ……」

九はため息とともに肩を落とす。

それを傍目に見ながら、リュウはしみじみと考えていた。

確かに工房があるのならそこを使う人間がいてしかるべきだろう。確か管理は宰がやっていると聞いていた気がする。

あとで宰にあったら誰か紹介してもらおう。

「それじゃあ、そろそろいい時間だし、これで最後にしよっか」

リュウの思考はもうすでに刀の手入れに向かっているが、今此処で適当に負わすのも後味が悪い。

リュウでもその程度には空気を考えることができた。

カードを配っていると、九が提案してきた。

「最後ならリュウも混ざったらどうだ? お前、今日はディーラーしかしてなかっただろ」

「ボクは別にいいんだけど……」

そう言いながらリュウは小鳥たちに視線を向ける。

二人が良いと言うのなら最後の一回ぐらい参加するのはやぶさかではない。

「別にいいんじゃないの? それに何も賭けてないんだし、だれも困らないでしょ?」

「いいと思います。私もお兄さんと一回ぐらい勝負してみたいです」

二人とも良いと言っているので、リュウは自分の分もカードを配る。

全員に三枚ずつ配ってから二枚共有のカードを置く。共有のカードはハートの10とダイヤの10。

これで役なしは誰もいないことになる。

それぞれがカードをチェンジして、カードの公開。

まず、三人が一斉に公開した。三人の中では九の手札が一番強く、フルハウスだった。

リュウはそれを見ながらとても気まずい表情をしている。その表情は苦虫をかみつぶしたような表情だった。

「リュウ、早く手札出せよ」

九はリュウの表情から勝利を確信したのか、リュウに早く手札を見せるように言ってくる。

リュウはそれを聞いても気まずい表情のままだ。

もう負けが決まったイリスがリュウの後ろに回ってリュウの手札を確認する。イリスもリュウと同じような気まずい表情になった。

「出してもいいんだけどさ。後悔しない?」

「後悔ってなんだよ。何だかわからんがしねぇよ」

「そう、ならいいんだけどね。文句言わないでね。言われても困るから」

そう言った後もリュウは少しためらいを見せたが、ついに手札を全員に見えるようにした。

リュウの手札はジョーカー、ジョーカー、クラブの10。要するにファイブカードだった。その手はポーカーでも一番レアな役でほぼ出ないものだ。

九はその結果に愕然としていた。


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