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Excited Crowd  作者: 頭 垂
第一章:眼前に広がる未知
2/46

2!

「……ん?」

目が覚めると車の中にいた。

彼が座っているのは後部座席で運転席と助手席には知らない人がそれぞれ乗っている。彼は藍色のパーカーとチノパンを履いていて、チノパンの腰は黒のベルトで押さえている。

窓の外を見るがコンクリートしか目に入らない。そこを上に上っているようなので多分立体駐車場のような場所なのだろう。

空きスペースを見つけることが出来たのか車が止まる。

「イリスかよ……」

運転席にいる人間がフロントガラス越しに外を見ながらぼやく。外を眺めてみると長い黒髪を垂らしている少女がいた。少女はその艶やかな黒髪と対比したような染み一つない純白のワンピースを着ている。

そんな服装のことより気になる特徴が少女にはあった。少女は左手に包丁を握りしめていた。

彼が少女の姿をただ呆然と眺めていると運転席と助手席に座っていた人は車から飛び出していってしまう。

少女は飛び出していった人には視線すら向けずにボクが乗っている車に近づいてくる。彼は軽い恐怖を覚えてドアのロックをかける。

少女がドアに手をかけるとあっさりとドアが開く。その開き方は筋力で強引に開けたような感じではなく、鍵などかかっていないかのようだった。

少女が隣に座る。

少女は彼のことを興味深そうに観察している。ボクの顔に何か気になるようなところでもあるのだろうか? 彼が自分の顔をペタペタと触って確認していると、少女は年相応の可愛らしい声で笑う。

「あなたは面白い人なのね」

「そうかな?」

 彼は彼女のことどころか自分のことすらよくわからないので曖昧な微笑みを浮かべながら彼女の言葉に答えた。

彼女が彼の言葉に何を思ったのかわからないが彼女はまだ笑い続けている。

その楽しそうな笑い声を聴きながら彼は何となく車のフロントガラスか前方の景色を見ていた。すると、プツリと彼女の笑い声がやんだ。不思議に思って彼女のほうに顔を向けてみると、彼女はさっきまで笑顔を浮かべていたのが不思議に思えるほど感情のこもらない能面のような無表情を顔に張り付けていた。

「ちょっと残念かな」

「なにが?」

「だって……、あなたが私に『敵意』を向けてくれたらあなたのことを思う存分に解体できたのに」

そう言いながら彼女はいっそ美しく思えるほどの凄惨な笑みを顔に浮かべていた。

ゾッとした彼は思わず反対のドアから転げるようにして車を出るが、少女はついてくる。

目の前には二つの道があり、右の道には人影が見える。その人影はボウガンらしきものをこちらに向けていた。それを見た少女は彼を苦もなく追い越すとその人影に迫る。

彼は少女が人影を追ったのとは違う道、左の道に進む。

少しも経たずに少女がボクに並走してきた。少女の手に持っている包丁から水滴が滴っている気がするのは気のせいか? その液体は粘り気があり、真っ赤だった。

そのまま少し少女と並行して進むと奥から筋骨隆々の男が近づいてきた。

その男は少女の頭をその無駄に大きな手でつかむ。

「オラァッ!!」

掛け声をかけてかそのつかんだ少女の頭を壁に叩きつけようとする。だが、少女の頭が壁に叩きつけられることはない。男が必死に力を込めているように見えるのに、だ。これ で男が力をいれていないというなら男にはパントマイムの才能があるのだろう。

少女は男の手を払い除けると、男の手を下に引き、男の体勢を崩す。そして、自分の手の届く距離に来た頭を壁に叩きつける。男に抵抗する暇を与えないほどの早業だった。

彼もさすがに恐怖を覚え、全力で駆け出した。

少女も男の頭から手を離すと彼の後をすごい勢いで追ってくる。

彼は視界内に階段を見つけたのでその階段を数段駆け上がる。駆け上がったところで振り返ると少女は彼を追ってきてはいなかった。

少女は階段の前で残念そうにこちらを見ている。

「お兄さん、私はイリスっていうの」

 少女、イリスはそういうと自分の純白のワンピースを見せるためかスカートの裾を押さえて優雅に一回転した。

「次はお友達をいっぱい連れてきてね? あと、私に敵意を向けてくれると嬉しいな。そうしたら私はお兄さんをこの子で目いっぱい愛してあげる」

 イリスは包丁を顔の横に持ってくると、それを街灯の光で鈍く光らせながら微笑み、すぐに駆け出してしまった。

イリスがいなくなったことでやっと体に満ち満ちていた緊張感が解けた。それと一緒に体から力が抜けて階段に座り込む。

数度大きく深呼吸をすると、やっと体と思考が冷えてきて考える余裕が出てきた。

「あれは何だったんだろうね。それにここはどこだろう?」

こんな場所に見覚えがあるはずもないし、包丁を持って追いかけてくる少女に心当たりもない。車に乗り込んだときのことを思い出そうとすると、頭が激しく痛んだ。

痛む頭を押さえながら窓の外を見ると荒廃した町並みが広がっていた。もっと言うと世紀末な町並みが広がっている。傾いた鉄塔に燃え盛る民家。だが、不思議と人の気配はなく、人の姿を確認することもできなかった。

彼の視点がその町並みを見下ろせるような位置にあることから彼のいるこの建物はそれなりの高さであろうことが知れた。


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