19!
「何で俺はこんなことやってんだ?」
九が深いため息をついた。
「さぁ? リュウの行動の意味なんて考えないほうが良いと思うよ」
九の言葉に答えるように小鳥が口を開いた。と言うか九に答えるために口を開いたことは一目瞭然だった。
その言葉に同意するように九はうなだれる。これ以上このことを考えても無駄だ。そんなことよりも前を向こう。
そんな九の目の前に裏向きでカード放られる。そのカードは綺麗に回転して、テーブルの上を舞っていたが、九の前でピタッと止まった。その技術は一朝一夕で身に付けられるものではないであろうことは明らかだった。
九のところに配られたカードが隣の小鳥にも、そして小鳥の隣のイリスにも同じようにカードが配られ、三人の前にカードが三枚ずつ配られる。
そのカードを配っているのは何を隠そう、リュウだ。リュウはテーブルを挟んで参院と向かい合うようにして立って居る。
リュウの顔には心から楽しんでいることがわかる、満面の笑みが浮かんでいる。それに比するように九の顔には気だるげな表情が浮かんでいる。小鳥は面倒臭そうに、と言うかもうあきらめているようだ。イリスの顔にだけはリュウと同じような楽しそうな表情が浮かんでいる。
「誰だよ……。急にポーカーしようとか言いだしたの……」
「ボクだけど?」
「……知ってるよ」
九の皮肉は残念ながらリュウには通じなかったようだ。
リュウは首をひねりながら、自分の前にカードを二枚置き、それを表にする。そのカードはスペードの7とハートの9。
今やっているのは変則式のテキサスルールのポーカーで、場に二枚出したカードとそれぞれに配られたカードで役を作るというものである。カードのチェンジは二回まで許可されている。
何故こんな適当なルールかと言うと、このポーカーの発案者であるリュウがテキサス・ホールデムのポーカーのルールを知らないのに、かっこよさそうだからやろうと言い出したのが事の発端である。
やりたいと言ったくせにルールを把握していない辺りの適当さはリュウらしいと言える。
問題はそのリュウの適当な遊びに巻き込まれる九たちのほうである。イリスはリュウと何かをするのが楽しくて仕方がないと言った様子ではあるが、九と小鳥は正直辟易していた。
しかも、リュウはこれに付き合ってやらないと拗ねて、後々余計に面倒になるから質が悪い。
せめて、何かをしたいというのならルールぐらいはきちんと把握してきてほしいものだ。
九はただ無為にこのポーカーに集中するのも馬鹿らしいので最近あった出来事を頭の中で整理してみることにした。
今は『イリス』を攻略したあの日から、大体半月後ぐらい。この世界には明確な時間の基準になるものが存在しなので時間を表現するときは曖昧な表現になってしまうがそれはしょうがないから我慢するとしよう。
『イリス』を攻略して、《ナインヘッド》内もいくつか変わった。
まず、リュウが記憶を失う前と同じ《ナインヘッド》の幹部の椅子を手に入れたということだ。
《ナインヘッド》は基本的に実力至上主義。実力さえ伴っていれば、どんな立場の人間だって組織の要所に組み込む。それで何か《ナインヘッド》内でやばいことをすれば、幹部が総出で潰しに行く。
そのためもあってか《ナインヘッド》ができてから、司令部の円卓に並ぶ権利のある幹部は一度も変わってはいない。
今回は記憶と共にリュウの実力も失われてしまったのではないかと言う意見が出て(主に八木から)、リュウを幹部の席から降ろそうかと言う意見もリュウのいないところでは出ていたのだが、リュウを幹部の席から降ろすことには結局のところならなかった。
リュウは『イリス』を単独で攻略したことで期せずして、自分の実力が失われていないことを証明したのだ。まぁ、それを抜いたとしても第二階層を単独攻略した人間を幹部から降ろすなど滅多なことがなければしないだろうが。
そのことは八木がリュウの復帰を歯噛みしたぐらいで特に問題ではなかった。
問題の変化は二つ目だ。
それは、『イリス』をクリアしたことでリュウについてくることになったイリスの存在である。
イリスがリュウと結婚? みたいなことをしていることは幹部の連中には何とか隠したが、イリスのしたことを問題視する人間はいた。具体的に言ってしまうと八木と四谷である。
八木はリュウや九のすることに突っかかりたいだけなので別にどうでもいい。あいつの意見など誰も大した問題にはしない。
問題は四谷だ。四谷はその悪いことは悪いと容赦なく言う性格から《ナインヘッド》内での人望も厚く、信奉者も多い。信奉者と同じぐらい四谷のことを嫌っている、いやねたんでいる人間はいるがそれは問題ではない。問題は四谷の中でイリスの行ったことが絶対悪として認識されてしまったことであろう。
さっきも言った通り、四谷は悪いことは悪いとはっきり言う。それがだれであろうとしても。普段はそれが良い方面で働いているからよかったのだが、今回ばかりはそれがいけなかった。
真正面から思いっきりリュウと四谷が敵対してしまったのだ。
リュウが結婚のようなことをしていることを隠しているのもこれが理由だ。四谷にこのことが知れたら、最期が分裂しかねない。
その時に、それ関係でもう一つ問題が発生した。それは、リュウが喧嘩っ早く、そして喧嘩に発展した場合十中八九リュウが勝ち、四谷を殺してしまうということであろう。
この問題はほんっっっっっっっとうに面倒な問題になったのだが、九と宰がそれぞれの間に入り、リュウがイリスとずっと一緒にいてイリスを監視するという方向で四谷を何とか納得させた。
それでも四谷の中でリュウとイリスに対する悪感情は残ったままなのだろうが、当面はこれで何とかなりそうだ。リュウも四谷を敵と認識したみたいなので、このことが後々遺恨にならなければいいのだが……。
最後の変化は『イリス』をクリアしたことによって、《ナインヘッド》が所有することになったあの広大な土地なのだが、これは大した問題にはならなかった。
《ナインヘッド》で所有している共有の場所や施設の管理は宰が担うということでもう《ナインヘッド》内は納得しているので少し議題に上がっただけだった。
宰は自分の仕事が増えると言われた時、微苦笑しながら
「槍を使った殺し合いよりはマシですかね」
とぼやいていた。宰はアレで《ナインヘッド》有数の実力を持っているのだが……その話はまたいずれすることにしよう。
まぁ、そんな感じでいろいろとあったわけだが、現状から言ってしまうと何とかなったと言った感じだろうか。今後どう変化するかは予想が全くつかないが、その時はその時。その変化に対して臨機応変に対応するしかないだろう。
九の思考が固まったちょうどいいタイミングで何度目かも忘れたが、ゲームが終わった。
今回は九の手札に一つも役がなく、フルハウスを出した小鳥の勝ちだった。




