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Excited Crowd  作者: 頭 垂
第二章:実力の証明
17/46

17!

二人が座ったのを確認してから、自分も雑に腰を下ろすと口を開いた。

「んじゃあ、まずはこのゲームのクリア条件から。このゲームのクリア条件はイリスの体に何秒か触れ続けること。その秒数まではさすがに分からなかったんだけどね。解答は?」

「正解。お兄さんよくわかったね。それに辿り着ける人にいるなんて思ってなかった」

イリスは純粋にリュウがその回答に辿り着けたことを驚いているようだった。

まぁ、そうだろうね。これはほぼたどり着けないだろう。ボクだって二つの幸運がなければこのゲームの真相に辿り着けていたかどうかわからない。

「何でそう思えたんだ? 《ナインヘッド》の奴らは俺を含めて、このゲームのクリア条件をイリスを殺すことだと思っていたはずだろ?」

「うん。それはあとから話すよ」

九の疑問に対するリュウの答えはあっさりとしたものだった。今はそれを説明するには早すぎる。

このゲームはたぶんではあるが、最初にこの階層に人間が来た時点で仕込が完全に完了していたのだろう。その後にここに入った奴らはクリアできないのだろうな。そのぐらいには完成されたゲームだ。

「このゲーム、『イリス』のゲームマスターであるイリスは異能を持っている。その異能がこのゲームに依るものなのか、イリス個人の物かはわからないけどね。この認識に間違いは?」

「ないです。本当にすごいですね。ちなみにお兄さんが言っている異能と言うのは私の自前の物で、異能ではなくソロって呼ばれてるらしいですね」

イリスの言葉の端々に気になる単語がないわけではないが、それに関して質問するのはあとにしよう。この空気を壊したらもう説明する気が失せてしまう。

「そ、ならここからは仮定と推論の話。間違っていたらその段階で否定してね。イリスの持っている異能、いやソロは他人の視線の中に含まれる感情をただ漠然と感じ取ることだと思う。もっと正確に言うと、その視線に『敵意』が含まれていないかを感知するものでしょ?」

リュウはそこで一度言葉を区切る。イリスにちらっと視線を向けるがイリスは驚いているだけで否定する様子はない。この推論は間違っていないようだ。

そのことにひそかに安堵しながら、唇を唾液で湿らせ、言の葉を編む。

「そして、そのイリスのソロにはもう一つ効果がある。それは自分に視線を通して敵意を当てた相手に対してのみ、圧倒的な膂力が出せる。その膂力の出所は知らないけど、そんなものだと思う。そうならボクと最初にあった時のことにも筋が通る」

「……要するに、リュウは俺に会う前にイリスともうすでに顔を合わせていたってところか」

九はやっと考えが追い付いてきたらしい。まぁ、今の話を聞いてこの程度のことが理解できないでいるのなら、幹部になんて祭上げられないだろうが。

「うん。伝えてはいなかったけどね。その時にイリスはボクのことを襲ってこなかった。そして、ボクがイリスから逃げて階段に逃げ込んだ時にイリスはこう言った『私に敵意を向けてくれると嬉しいな。そうしたら私はお兄さんをこの子で目いっぱい愛してあげる』ってね。その時はわからなかったけど、イリスはそのソロの代わりにこういう縛りがあるんじゃないの? 自分に敵意を向けない相手には攻撃できない、みたいな」

「そこまでわかってたんですか。なら、何で一人できたんですか? 複数人で来ればよかったのに」

イリスの言葉も尤もだろう。複数人で来れば最初にリュウが感じたような心細さは感じなくて済んだのかもしれない。

だが、メリットにはデメリットが付きまとうものだ。その二つはコインの裏表のように絶対に離すことはできないのだから。

「複数人で来るのはボクは絶対に避けたかったんだ」

「何で?」

「だってボクだって人だもん。人の心の中を完璧に把握することなんて土台できないからね。それに一度敵だと認識した相手に敵意を向けないのは意外と難しいもんだよ? そして、敵意ってのは残留するよ。完全に敵意を払ったと思っても、敵意を心の中から排除しきることはできないから」

そう語るリュウの目には悲哀が浮かんでいた。とてもではないが、記憶喪失で一昨日からの記憶しかない人間に出せるようなものではなかった。

その表情は何か、深く暗い過去を持っている人間特有の薄暗さがあった。リュウ自身、そんな表情をしている自覚はなかったのだが、九が心配するような顔をしていたのですぐに笑顔を作る。

「今回のゲームでボクがクリアできたのは二つの幸運を僕が待っていたからだ。一つ目はボクが何の事前情報もない状況でイリスに会えたということ。二つ目はボクが記憶喪失だったことかな」

「記憶喪失がラッキーって。どんだけポジティブなんだよ」

九は呆れたような表情をしている。だが、実際にラッキーだと思った。たとえリュウであったとしても身内が殺されたのなら、イリスに敵意を向けずにはいられなかっただろうから。

「最後に、このゲームはプレイヤー側の必勝法はないが、ゲームマスター側の必勝法はあるんだよね」

「どんなのだ?」

九は興味をそそられたのか若干前のめり気味にリュウに聞いてくる。まぁ、プレイヤーとしてはゲームマスター側の必勝法があるなんて聞いたら気にならずにはいられないだろう。

リュウはその九の態度に若干引きながら答えた。

リュウの話の概要を話すとこんな感じである。

最初に第六階層に入ったプレイヤーの集団を入口でイリスが迎える。

そのイリスの姿を見てそのプレイヤーたちは驚いた。「自分たちがこの階層に初めて入るはずだ」と。

そこでその集団は未確認だが他のチームが先に入った可能性とこの目の前の少女が敵の可能性の両方を考えた。どちらにしても敵には変わりない。その集団の人間は警戒心と『敵意』をイリスに向けた。

少女はその途端に行動を開始し、集団に近づくと一人を除いた全員を惨殺した。

その残った一人はチームに戻るとこうチーム内で言った。「第六階層にいる少女に仲間が全員殺された」と。そのことを聞いたチームのメンバーとその情報を手に入れた他チームのメンバーはイリスを敵と認識する。メンバーは仲間を殺された純粋な怒りから。他チームは義憤心と恐れから。イリスに敵意を向けるようになる。

一度その姿を見た相手は当然ながら、見ていない相手も間接的にイリスに敵意を向ける。

あとはイリスがその視線を感知することができれば、イリスはその相手に対しては圧倒的な膂力を発揮できるというわけだ。

「こんな感じでどうかな? ボクの予想ではイリスは実際にこれを行っていると思うのだけれど」

イリスはその言葉にあっさりとうなずいた。

「てめぇ……!」

「止めなって。これが一番ゲームマスター側としては効率がいいんだから。それにキレるのはお門違いってもんだよ。それにキレたってその犠牲になった人間は帰ってきはしないんだから」

激高したあたり、九はいいやつなのだろうなと思った。そして、この結論に至った時に効率がいいなとしか考えられなかった自分が嫌になった。

イリスは激高している九を見ても、なぜ怒っているのかわからないようで首をひねっている。この世界の人間は根本的に頭の中身がゲームマスター側とプレイヤー側で違っているようだ。

少なくともイリスは人を殺したことに罪悪感は覚えていないらしい。ま、それぐらいでなくてはこんなゲームのゲームマスターなんてできないか。

リュウは九の手を抑えていたが、九が落ちついたのを確認して手を放した。

「これでボクの説明は終わりだよ。ご清聴ありがとうございましたー。なんか間違っているところとか、言いたいこととかある?」

「いえ、ないですよ。細部は違いましたが、ほぼ完璧でした」

「それで、これからイリスはどうするの?」

「どうもしないですよ?」

リュウの問いかけにイリスは身にならない返事を返した。答えたイリスの目には光が宿ってはいない。

「どうもしないっていうのは?」

「言葉通りの意味ですよ。この階層のクリア報酬はこの広大な土地と家畜。それ以外にもう一つあります」

「もう一つってのは?」

「私の生殺与奪の権利ですよ」

……そうか。これがイリスの目に光が宿っていない理由か。自分がやったことに対する罪悪感は抱いていなくても、九の反応を見ればどういう事なのかは予想がついたのだろう。

その相手に自分の生殺与奪権を握られる。それはどう考えても絶望するには足る理由だ。むしろ足りすぎる。

そういえば。今更ではあるがさっきリュウが解説している間、イリスは所々で微笑んでいたが目は全く笑っていなかった。どこか画面を眺めている時のような感じがイリスにはあった。

九はもうリュウに殺していいかと言うような視線をこちらに送ってきている。イリスも自分の未来については諦めているようだ。

うむ、不愉快だね。

九が勝手に手を出さない辺りと言うことは、イリスの所有権は<イリス>をクリアしたリュウにあるとみていいだろう。ならボクの好きにさせてもらおう。

「イリス」

「はい。どうとでも好きにすればいいじゃないですか」

「結婚しよ?」

空気が凍った。


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