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Excited Crowd  作者: 頭 垂
第二章:実力の証明
16/46

16!

扉が閉まって足を動かし始めてから思った。あの場に残された人間は誰も動けないだろうな、と。リュウですら足を地面に縫い付けられていたのだ。あの場にいる中にあの殺気の中で足を動かす勇気のあるやつがいるものか。

あそこにいた人間の中では宰の発言が変わっているだろう。扉を通ろうとしたらから、一歩でも動いたらに。

これは早く帰らなきゃな。宰のことだ、リュウが返ってくるまで一歩もあそこを動かないだろうから。

「それで、俺はイリスとも顔を合わせず、お前とイリスがいるところに誰も近づけなければいいんだな?」

「うん。それで十分だよ」

「わかった」

それ以降、九は完全に無言になってしまった。これは純粋にありがたい。今話しかけられたらせっかくまとまっていた考えが吹き飛んでしまいそうだったから。

リュウがいろいろと考えていると第六階層に到着した。第六階層は一昨日と変わりなく、廃工場のようなフィールドだ。

着くなり九はリュウから離れてどこかに行ってしまった。リュウに指示された、イリスに見つからずにイリスとリュウのいるところに誰も近づかせない。というのを遂行するためだろう。

九は音もなく離れていくと、気配すら感じさせなくなっていた。さて、ここからは完全に一人だ。誰の助けも借りられず、誰かに何かを聞くこともできない。

自分で作った状況とはいえ、一人でここにいるのはそれなりに怖い。前いたときはここが何かと言うのもわかっていなかったから平常心でいられたが、今は少し心が騒いでいる。

落ち着け、落ち着かないと簡単に終わるものも終わらなくなるぞ。

そう自分に言い聞かせながら心を静めていると、遠くからカンカンと言う音が聞こえてきた。その音は徐々にリュウのところまで近づいてくる。

その音が大きくなったとき、イリスがリュウの前に姿を現した。

イリスはリュウの顔を見るなり、花のような笑みを浮かべた。

「お兄さん、一昨日ぶり」

「一昨日ぶり」

イリスはリュウが腰に二振り日本刀を佩いているのを見て、笑みをさらに深めた。

「お兄さん、今度こそは私に『敵意』を向けてくれるの?」

「さぁね」

リュウは気のない返事をしているが、その実内心では震えていた。

さて、ここからが勝負だ。ここでしくじったらボクの命がここで果てる。それだけはダメだから、頑張るか。

リュウはイリスのほうに向かってゆっくりと歩きだした。

イリスはそのリュウの姿を見て、首をひねる。リュウの行動の意図がつかめないのだろう。ゆっくりと、だがしっかりとした歩調でイリスの前まで歩いていく。

リュウがイリスの目の前まで行くと、イリスはあからさまに困惑の表情を浮かべていた。さぞ不思議だろう。リュウがイリスに向けて敵意を向けないことが。

そんな風にびくびくしているイリスをリュウはおもむろに抱きしめた。

「ちょ、ちょっとお兄さん!?」

イリスの声と抵抗するような動きが腕の中からリュウの体に伝わってくる。だが、その力はリュウの腕から抜け出せるほどのものではなくて、か弱い女の子の力だった。

そして、抱きしめ続けること十秒ほど。

イリスが何かをボソッと呟いた。すると、唐突にリュウの視界を強い光がつつみこむ。その光にとっさに目を強くつぶる。

瞼にあたる光が弱くなったことを確認してから、ゆっくりと目を開ける。

「……なにこれ?」

リュウが目を開けると視界には一面に青々とした草原が広がっていた。ところどころにはヤギや牛などの家畜の姿も見える。遠くには小高い丘陵も見えるのだが、ここはどれぐらいの大きさなのだろう? まったく想像がつかない。

不思議に思ったリュウが頻りにあたりに目をやっていると、後ろに人の気配がした。

「こりゃ、スゲェな……。ここまでの変遷だとは、さすがに予想がつかなかったぜ」

そう言いながら現れたのは九だ。

九の声にここに来る前のような張り詰めた雰囲気はなく、とても穏やかな声音だった。もう気は張っていないらしい。

九の体には目立った傷こそなかったが、ところどころに裂傷の跡がある。その傷について、リュウは触れない。傷がつくことは九にだって予想がついていただろうし、それを理解したうえでついてきたのだろう。それをことさらに言うのは、九に対する批判でしかない。

だから、それ以外に気になったことを聞くことにした。

「変遷って?」

「この階層のゲームがクリアされた証だ。クリアされるとこんな感じにわかりやすく場所が変化するんだ。確か、俺たちの持ってる第二階層は工房。第三階層は農場だったか? その経験からいうと、ここは牧場ってとこかな」

へー。てことは、ボクは無事に『イリス』をクリアできたってことか。それはよかった。

リュウは安堵したように深いため息をつく。イリスを抱きしめている段階でクリアできるだろうことは理解できていたが、本当にクリアできるということがわかると、一安心できた。

ふと、そこで安心感からか疲労が来たのか、リュウの足から力がぬけ、その場にへたり込んでしまった。心配そうな視線を向けてくる九には手振りだけで大丈夫だということをアピールする。

そこへさっきまで遠くでうつむいていたイリスが近づいてきた。

九は弛緩させていた体に力を入れ、即座に臨戦態勢になる。

「別に警戒しなくていいよ。少なくとも私はお兄さんには攻撃できないから」

九はそう言われても体からは力を抜かず、イリスに鋭い視線を向けている。

リュウはそんな九を見て、苦笑する。

「そうらしいから大丈夫だよ。それにイリスに敵意を向けるのは厳禁だよ? それはイリスに攻撃する口実と力を分け与えるだけだからね」

「お兄さん、そこまで気づいてたんだ」

九に軽く説明するリュウを見て、イリスは朗らかに笑った。

今のイリスはゲームがクリアされたとはいえ、それなりの余力は残しているのだろう。もしくはイリスの能力はゲームとは無関係かのどちらかだ。無関係だった場合、クリアされたからと言ってなくなりはしないだろう。

いや、違うか。そこで新たな考えが生まれる。逆かもしれない。イリスがそんな能力を持っていたからこんなゲーム内容になったのかもしれない。これはイリスに聞いてみないと分からないな。

「さて、ここからは解説タイム兼、解答と行きましょうか。聞き手は九。答えの発表者はイリスちゃん、と。それでいいかい?」

「別にかまわんよ。俺もお前から何も聞かされていないから気になっていたんだ」

「私も構いませんよ。それに、今の私にお兄さんに逆らう権利はありませんから」

二人が了承の意を示す。

リュウは二人に腰を下ろすことを進めた。ここからはだいぶ長くなるだろうし、立って居続けるのも辛かろう。九は青々と茂った草の上に胡坐をかいた。イリスはどこから取り出したのかわからないが、レジャーシートの上にワンピースに皺ができないように注意しながら腰を下ろした。


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