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Excited Crowd  作者: 頭 垂
第二章:実力の証明
15/46

15!

リュウの感覚で五時間と半分ぐらい。窓から見える光景も太陽の位置も全く変わってはいないが、今がそのぐらいの時間だという確信があった。

今の今まで作戦をもう一度考え直して、不備がないかの確認をしていたわけだが、特に不備は見当たらない。まぁ、自分で一から考えた作戦を自分で確認していたからと言って間違いなど出るわけがない。

考えるまでもなくこの作戦がリュウの中では最良の作戦だった。考えにミスがなければ失敗しえないし、ミスがあったとしたらどうしようもない。そんな作戦だ。ミスがあった時の被害は自分だけで済むようにしてあるし、問題はないだろう。

体を起こそうと思ったら、五時間半前よりも体にかかる重みが増している気がする。頭も少し痛む。この痛みは考え続けていたせいだというのはわかるが、体の重みには覚えがない。

首だけ起こして重みのあるあたりを見てみると、小鳥が安らかな寝息を立てていた。

「おいおい……、こっちは寝られなかったってのに、気持ちよさそうに寝ちゃってさぁ」

リュウは愚痴りながらも、優しい手つきで小鳥の頭をなでる。くすぐったかったのか、少し身じろぎするが起きる気配はない。本当に気持ちよさそうだなー。

死地に赴く前の男の横でぐっすり寝られるとか、警戒心がないのかリュウのことを信用しているのか判断に悩むところではある。

人と言うのは生命の危機に瀕したときに、一番自分の子孫を、遺伝子を残そうとするらしい。要するに戦場に向かう直前の兵士と言うのは気がたっていて、女と交わりたがるらしい。

端的に、女とヤりたくなるらしい。

リュウもそれと同じような心境にならないとでも思っているのだろうか? リュウだって男。そんな状況に陥れば理性が持つとも限らない。

「無防備すぎるでしょ……」

リュウのことを男として意識していないのか、意識したうえで誘っているのか。悩むところだ。

まぁ、どちらにしてもリュウは小鳥に手を出す気など毛頭なかった。自分のことを信頼して、横で寝入っている人間を欲望に任せて犯すのは獣のすることだ。それにここで小鳥に手を出してしまうと、自分の作戦に自信がないということにつながってしまうだろう。

自身がないなんてことを自分で思ってしまったら、イリスを恐れることにつながる。それだけは何があっても考えるわけにはいかなかった。

リュウは、そっと自分に引っ付いている小鳥の腕を外すと体を起こした。

「クリアしてくるよ。お祝いの準備でもしながらゆっくり待っててくれよ?」

リュウは最後に髪を梳きながら、起きているかどうかも定かではない小鳥にそう言った。

その後、音も立てずに静かに立つと静かに部屋から出た。出る直前に寝言かなんなのか、小鳥が何か言ったようにも聞こえたが、あえて無視する。

リュウは部屋の前で軽く身支度を整える。それほどみっともなくはなっていなかったが、少し皺が寄っていたのでそれを丁寧に伸ばすと、集合場所であるホームの入り口に歩を進めた。

歩いていると、周りの視線が気になる。その視線は一昨日感じたようなものとも、昨日感じたものとも違い、リュウを心配するような色が強く表れていた。と言うことは、もうリュウが第六階層『イリスの攻略に向かうということは、《ナインヘッド》の全員が知っていることなのだろう。

だが、今のリュウは一昨日のように無駄に苛立ってはいなかった。今は目の前の『イリス』攻略のことを考えてるせいで、周りを気にしている余裕などはない。

一応、余裕があるような態度をとってはいるが、内心ガクブルである。自室の扉を出た時点からリュウの思考は『イリス』の攻略にしか向けられていない。

ゆっくりと歩いて入口につくと、もう九も宰もいた。

九は初対面の時に持っていた漆黒のハンドガンを腰のホルスターに入れている。入口の扉に背中を預けて瞑目する姿には、背中を預けてもいいと思えるような不思議な安心感があった。この姿から初対面の時の手すりを殴ってプルプル姿を想像することなど、だれにもできないだろう。

その横には宰が笑顔で立っていた。宰の横には十文字の槍が置かれている。その槍の柄と刀身は真っ赤に染められていて、宰の柔らかな雰囲気とは正反対の禍々しい雰囲気を放っていた。

宰の横にはその十文字槍以外にも二つ何かがが置かれている。布に包まれているので何かはわからないが、片方が長く、もう片方が短いということぐらいは布の上からでもわかった。

リュウが扉の前まで来ると九が瞼を上げた。

「遅かったな」

「遅かったって……。これでも集合時間まではもう少し時間があると思うんだけど?」

「宰に感謝するんだな」

「何で?」

九の話には脈絡がなくわかりづらい。遅かったことを批判したと思ったら、今度は宰に感謝しろ? 前後のつながりが薄すぎて話の内容が理解できない。九は戦闘前になると、普段とは違い、無口になるらしい。

リュウが意味が分からないとばかりに首をひねっていると、九が理由を教えてくれた。

「宰はあの後からずっとここにいたんだ。お前の指示通り、だれもここから出さないためにな」

「それは、ごめん」

リュウが頭を下げると、宰は笑顔で首を振った。

「いえいえ、これは私が勝手にやったことですから。気に病まないでください。それと、ここを通った人は私が監視を始めてからはゼロです。ここ以外に外に出るための扉はないので外に出ている《ナインヘッド》はたぶんゼロでしょう」

「助かるよ。誰か一人が邪魔するだけで今回の作戦はご破算になっちゃうからね」

その説明を聞いて、リュウは心底安堵したように大きく息を吐いた。だが、心の中ではそれほど安堵していなかった。

宰が守る前に外に出ている奴がいないとも限らない。特に八木とか。あいつが一番心配だ。だが、それに関しては宰を責めても始まらないし、宰が監視を始める前のことを言ってもどうしようもないだろう。

過去を考えても無駄だしね。あとは九の仕事に期待するしかない。九が近づかかせなければ事足りるしね。

「一つ聞いていいかい?」

「必要なことならな」

「その布に包んであるの、何?」

さっきから気になっていた宰の横にある十文字槍のさらに横にある二つの布で包んだものことだ。

ここにあるということはたぶん何かしら使うものだろうことは予想がつくが、さすがにそれが何かまでは予想がつかない。

「あぁ、これですか」

宰はその二つの包みを手に取ると巻いてある布を丁寧にほどいた。

布に包まれていたのは、大小二振りの日本刀だ。大きいほうは大刀と言ったほうがよさそうなほど大きかった。その刃渡りは八十センチぐらいだろうか? その刀身には若干反りが入っている。柄などを見る限り相当使い込まれているようだ。

小さいほうは大きい刀と正比例するように、まっすぐな刀身をしている小刀のようだ。刃渡りは二十五センチほどかな? 柄や鞘もきれいだが、新品と言うよりは使い込んでいるが丁寧に手入れしているように見える。使い手の性格が表れているようだ。

どちらも相当の業物のようだ。

「これは?」

「お前の刀だ」

「ボクの?」

九はリュウのだけ言うと、リュウに刀を二本とも放ってよこした。危なかったがお手玉をするように数度ポンポンしてからキャッチした。

リュウが刀を鞘から抜いてみると、両方の刃も美しい波の模様が入っている。大刀の刀身に稲妻の刻印が、小刀のほうには桜が彫られていた。刃の鍔近くには、両方とも『凪』と彫られているので、これは同じ刀匠が打った作品か、姉妹作かのどちらかだろう。大刀も小刀も刃は少しも欠けたりしてはいない。両方ともゆるい反りが入った典型的な日本刀の形をしている。

大刀は握った瞬間に自分の物であるという確信が持てるほど、しっくりと手になじんだ。今までに何度か感じたことだが、記憶を失ったと言っても体のほうはいろいろと覚えているものらしい。

自分の持ち物とかについては感覚が残っているらしい。だと言うのに小刀のほうは手になじまない。自分の物ではないようだ。だが、小刀の柄を握って刀身を見ていると、懐かしさを感じた。

「太刀のほうの銘が雷刀『千鳥』、小刀のほうが守護刀『咲夜』だったと記憶しています」

「千鳥に咲夜、か」

リュウはその二本の刀を腰のベルトの左右に挟み込んだ。今まで感じていた物足りなさが引っ込んだ気がする。

「それじゃあ、行くか」

「そうだね。宰、あとはよろしくね」

「了承いたしました。それではあなたがいる前で警告でもしておきますかね」

宰はそういうと、真っ赤な十文字槍を手に取り、石突で地面を思いっきり打った。

乾いた音があたりに大きく響き渡り、今までこちらをチラチラと見ながら話をしていた人間が黙り、場が一気に静寂に包まれた。黙った人間は全員こちらに視線を向けている。その眼には何が起こるのかと言う興味と恐怖が浮かんでいた。

宰はその静寂に怖じ気づくことなく、一歩前に出た。

「今からここは通行止めです。ここを取ろうとする人間は一切の容赦も、躊躇もなく切り伏せます。なので、変な気は起こしませんように」

宰のその警告にはその場の全員を黙らせるに足る迫力があった。

その言葉は決して声を荒げた怒号と言うわけでもない。だが、その場にいた人間は九を除いてリュウも含め、宰の雰囲気にのまれていた。宰の顔には獰猛で強い狂気を含んだ笑みが浮かんでいて、その横顔は肉食獣のようだ。

「行くぞ」

「あ、うん」

リュウは九に腕を引かれるまで足が地面に縫い付けられているように一歩も動くことができないでいた。

リュウたちが扉から出る直前に宰がこちらを振り向いて一礼してきた。その顔にはさっき見たような肉食獣の笑みではなく、普段のような穏やかな笑みだった。


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