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Excited Crowd  作者: 頭 垂
第二章:実力の証明
12/46

12!

予想がついていたことではあるが、そう言ったらリュウに視線が集まる。その視線は説明を求めているようだ。だが、リュウは相手の視線から言葉を読み取る気などない。口に出して聞かない限り、答えてやる気はなかった。

「……あー、なんて言った? リュウ」

リュウが察さないと分かった一同は九に視線を向け、九はその視線に耐えきれずにリュウに聞き返した。本当に九は貧乏くじをよく引く役だな。

「『死にたいのなら止めはしないけど、死にたくないのなら止めたほうが良いと思うけどね』」

リュウは一字一句違わぬ言葉を言う。

一同はもう一度九に視線を向ける。疑問には思うが自分から聞く気は毛頭ないらしい。

このヘタレどもが。こんなヘタレしかいないのか。

そう思っていると四谷が口を開いた。こちらを強く睨みつけてくるおまけ付きで。

「文句言うんなら代案あるんだろうな。ただ批判しただけってんならあたしは許さないよ」

「別にキミに許してもらいたいわけではないし、許してもらおうとも思っていない。ただ、ボクは事実を伝えただけだ。三越がその立派な大剣をぶん回したところで絶対に『イリス』をクリアできない」

「記憶失ってるか何だか知らないけどな。勝手なことばっか言ってんじゃないよ!」

四谷は鬼のような表情でリュウの胸ぐらをつかみあげる。人には喧嘩するなと言うくせに自分はだいぶ喧嘩っ早いらしい。いや、この顔に浮かんでいるのは義憤か? 四谷は情に厚いらしい。

要するに三越の勇気を無駄にするなってことか? はっ、くだらない。

リュウはそんな四谷を鼻で嗤ってやった。そのリュウの態度は四谷の怒りに燃料を投下しただけのようだ。四谷はリュウを締め上げる力を強めた。リュウはさらに姉御を挑発してみることにした。

「何、キレてるの? 事実を事実として捉えられないなら出ていってよ」

リュウはさっきの四谷の行動を真似して親指で入口の扉を指し示しながら挑発的な笑みを浮かべた。

四谷の表情は怒り心頭といった様子で今にもリュウを絞め殺してしまいそうだ。リュウはそれを見ながら笑みを強める。

その二人の姿を他の人間はそれぞれの表情で見ている。ハラハラしていたり、興味なさそうだったり、楽しそうにだったり。

だが、ここにいる人間は全員同じことを考えていた。

懐かしいなぁ、と。

これはリュウが記憶を失う前に一度だけ繰り広げられた光景だった。第二階層の攻略会議のとき、今と全く同じ光景があった。

リュウが案にいちゃもんをつけ、それに対し四谷が憤慨する。それに対してさらにリュウが挑発を続けていって、ある言葉を四谷に発せさせる。完全にリュウのペースに巻き込まれている四谷はあっさりと言ってしまうのだろうな。

「いちゃもんつけるんだったら、一人で行ってくればいいじゃない!」

「待ってました」

リュウはさっきまでの嘲りの表情をおさめ、普通の笑顔をその笑顔に毒気を抜かれたのか、あっさりとリュウの拘束を解く。

「んじゃ、一人で言ってくるよ。それで問題ないんでしょ?」

リュウの言葉にまた室内がざわついた。リュウがこういう風に言った時はリュウの中で完全に作戦が固まっている時である。室内にいる人間で九を除いて全員がリュウに批判的な視線を向けている。

記憶を失う前からリュウは単独行動が多かった。味方の存在を煩わしいとしか思っていない男なのだ。そんなリュウに八木が侮蔑を込めた視線を向けながら口を開く。

「馬鹿じゃん。お前ひとりで何ができるっての?」

「少なくともお前みたいに九を批判するよりは有用なことができると思うよ。それに……」

リュウは周りに視線を這わせる。

「足手まといはいらない」

「ずいぶんな自身だな。一人でイリスを倒せるというのか?」

「三越。その考えがミスリードだとだけ言っておくよ。さっきも言ったとおり、これに俺以外の人間は必要ない。だから、説明の必要性も感じない」

リュウの言い方にはそれ以上の反論を許さない凄味があった。さっきまでリュウのことを熾烈な視線で睨んでいた四谷の視線もやんだ。……ただ、六野だけは終始一貫してリュウのことをじっと見ている。

リュウはもう周りの意見を聞く気はないらしく、もう誰の意見も聞かなそうだ。

皆の視線が九に集まる。九は視線に答えるようにゆっくりと瞼を上げた。

「勝率はどれくらいだ?」

「うーんと……邪魔が入らなければ100%かな」

リュウの言い方は気負っているとか、希望的観測を述べているというよりかは事実だけを淡々と述べているように見える。

そう語るリュウの中に失敗するビジョンはない。失敗する可能性が零と言うよりはそれを思考から排除している。作戦前から失敗することを念頭に入れていてはその思考に行動が引っ張られて失敗しやすくなってしまうからだ。

実際には成功率は50%と言ったところだろう。リュウの推測が間違っていなければクリアできる。だが、その推測が間違っていた場合は考える余地なくリュウは死ぬだろう。

そのリュウの思考を読んだのか九の表情は硬いままだ。

リュウは別に反対されようと一人で行くつもりだったし、反対されようと別段構わない。だが、なぜか九には反対されたくないと思っている自分がいることがリュウ自身一番不思議だった。

九は諦念の含んだ息を吐く。

「……わかった。お前の作戦の概要は知らないが許可してやる。だが、条件が一つだけある」

「何?」

「俺もつれていけ」

そう言った九の目には、さっきまでのこの場を仕切る立場としての威厳はなく、純粋に無謀に突っ走る友人を心配するものになっていた。

さっき言った足手まといはいらない、というのも本当のことではあるのだが、九ならば実力的には申し分ないだろう。だが、今回ばかりはそれを抜きにしてもリュウを連れて行くわけにはいかなかった。九と言う人間の心の中をリュウが完璧には把握しきれていないので作戦がご破算になる可能性がある。

いや、ご破算になる程度ならさほど問題はない。問題は最悪の場合だ。最悪、九と言う不確定要素一つのせいで第六階層のクリアが不可能になる可能性がある。そうなったらさっきの三越の作戦を採用することになり、死者も多数出るだろう。

死者を一人も出さないための作戦なのにそうなっては何の意味もない。

リュウが腕を組んで思案顔をしていると、九はもう一度口を開いた。

「お前の作戦とやらは俺は知らん。だから、俺はお前の指示に従う。すべてに、絶対に。これではダメか?」

九の目は真剣そのものだ。

ここで九の意見を無視しようものなら九はリュウを縛り付けてでもリュウが行くのを阻止するだろう。リュウはその九の思考が読めてしまった。

昨日会ったばかりだってのにとんだ以心伝心だな。

そう思いながらリュウは苦笑して首を縦に振った。

その姿に九は満足げに笑う。

「それじゃあ、今回の作戦はリュウ主導で行う。他の班はリュウの指示に従って適宜支援。それ以外はここの防衛。リュウ、言っておきたいことはあるか?」

「そうだね……」

リュウは少し考えるように顎に手を置く。

「ボクが指示を出した人間以外は絶対にここ、ホームからは出ないでね」

「だそうだ。それでは解散」

九の指示にそれぞれが部屋から出ていく。もうリュウの無茶な作戦はリュウが記憶を失う前からよく突きつけられていたので、それぞれの動きに淀みはない。ただ、八木だけは部屋を出るときにリュウを睨みつけていた。


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