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Excited Crowd  作者: 頭 垂
第二章:実力の証明
11/46

11!

リュウが心の中で勝手なあだ名をつけていると九がまた立ち上がり、口を開いた。

「自己紹介も済んだところで今日の議論に入ろうか。六野の情報によると《鮮血の夜》が第六階層の本格攻略に乗り出したらしい。そうだな、六野」

「……うん」

九の問いかけに六野はリュウから一度も視線を外さないままに答えた。

六野の言葉に部屋の中の空気が一気に緊張した気がする。リュウは違う意味で緊張していた。

……《鮮血の夜》ってなんだろ。なんかの組織名かな? それとも……なんだろ?

リュウが頭上に大量の疑問符を浮かべながら首をひねっていると九が助け舟を出してくれた。

「……あー、リュウのために説明しておくと《鮮血の夜》ってのはうちとは別のチームだ。うちは二階層を持ってるが、《鮮血の夜》は四階層を持ってる。ついでに説明しとくと今のところクリアされた階層は二~五階層。三階層が《六時六十六分》、五階層ストーリーテラーだ」

「へー。解説ありがと」

そうか、《鮮血の夜》ってのは他のチームの名前なんだ。《ナインヘッド》』も大概だとは思ったけど、もっと酷い名前もあるもんだね。

リュウが他人事のように《ナインヘッド》と言う名前を馬鹿にしている。だが、リュウは知らないだろう。《ナインヘッド》と言う名前の名付け親は記憶をなくす前の自分だということを。

気づいたら顔を真っ赤にして死にたくなるだろうから、知らなくてもいいことかもしれない。

「それは確かな情報なのか? 《鮮血の夜》が攻略に乗り出したなんて話は聞いたことがないぞ?」

三越は丸太のように太い腕を組みながら思案顔をする。

「てめぇが知らなくても問題にはならんだろ。てめぇと六野じゃ、仕事が違う。お前はその馬鹿みてぇに太い腕を使って攻略だけしてりゃいいんだよ」

「それもそうだな。ガハハ、九重の意見ももっともだ。儂はお前の言うとおり猪突猛進していればよいな」

九の言葉は辛辣なものだったが、三越は気にした様子もなく豪快に笑う。三越は自分が頭脳労働タイプじゃないことは理解しているらしい。

脳筋みたいだが、自分の分をわきまえているあたりは評価してやってもいい。

「にしても、何で《鮮血の夜》はこのタイミングで攻略に乗り出したんだろうな? 《鮮血の夜》はどっちかと言えば現状に満足してるだろ?」

「とりあえず、今はなぜ《鮮血の夜》が攻略に出たかは問題じゃない。《鮮血の夜》が攻略に乗り出したのは事実。なら、それの対策を考えたほうが効率的ではないのか? 八木」

「そっちが大事っていうのはわかるけどよ。疑問をないがしろにしていい理由にはならんだろ?」

「……なんでお前は今日に限ってそんなに絡んでくるんだ?」

九は明らかにイライラしていた。その《鮮血の夜》とやらが攻略に乗り出したというのは、それほど重要で一刻を争うことなのだろう。

そのことを理解しているのからか、八木以外は口を開かずに九の話の続きを待っている。

九の苛立ちを知っているであろう八木は九に向って舌を出す。

「お前への嫌がらせだよ」

「てめぇっ……!」

「止めろ!」

立ち上がって八木に掴みかかろうとした九の頭に、いつの間にか九の後ろに回っていた女性が拳を振り下ろした。

「ぐうぉぉぉぉ……」

九はその拳骨が痛かったのか椅子の上で苦痛にあえいでいる。

女性はその次に八木の頭頂にも拳骨を振り下ろした。八木は九のように痛がりこそしないが、その眼の端には涙が薄っすらとたまっているような気がする。

「喧嘩なら他所でやんな」

女性は指でドアを指し示すとそう言った。

あ、姉御……。超かっこいいね。勝手に心の中ではこの女性のことを姉御と呼ぶことにしよう。だってスゲェかっこいいし。……それに名前知らんし。

姉御はフンと一度鼻を鳴らした後、席に着き足を組み、目を閉じた。

その姿もすごく様になっているというか、絵になるというか。女性かどうか疑問になるほどの男らしさだった。

九は気を取り直し、立ち上がった。その眼には涙の跡が少しある気がするが、言わぬが花だろう。

「四谷、助かった。取り乱して悪かった。それでは話を戻して第六階層の攻略の話に移ろうと思う。『イリス』の攻略についてだ」

 姉御じゃなかった。四谷っていうんだ。へー(棒読み)。

さっきの痴話騒ぎで少し和んでいた場の空気が一気に引き締まった。すぐに意識を変えられるあたりここにいる人間に雑魚はいないのだと再認識した。

「攻略って言っても辛くない? 『イリス』の階層情報ってほとんど集まってないんでしょ? そんなんで攻略に行っても死ににいくのと大差ないと思うけど?」

この部屋に入ってから初めて小鳥が言葉を発した気がする。快活な性格の彼女でも緊張することがあるらしい。

「あぁ、だからまずはあのゲームの情報の整理から始めようと思っている。今、ある情報は、『イリス』のゲームマスターは無差別に俺たちを襲うってこと。圧倒的な膂力があるってこと。そして、イリスは索敵能力が異常に高いこと。この三つだけだ。諜報部隊、新しい情報はあるか?」

「第四部隊はなし。それにうちはそういう情報は集められない」

「……以下同文」

「右に同じ」

四谷と六野と八木が九の問いに答えた。と言うことはイコールで、《ナインヘッド》の諜報部隊はこの三人が率いている部隊なのだろう。

四谷はともかくとして、六野と八木に諜報部隊は似合っている気がする。六野はスルスルと人の心に入って情報を取ってきそうだし、八木はどんな危険な状況になってもへらへらとした笑みを浮かべて帰ってきそうだ。

「それしか情報がないのか。やはり今回のような場合は力押しが一番ではないのか? 時間がないのであろう? ならば儂が行こう」

「まぁ、それしかない気もするが……イリスに勝てるのか?」

「それはやってみなければわかるまい」

九の不安げな言葉に三越は少し不安そうな顔をしつつも、胸をたたいて請け負った。他の人間もそれしかないと思ったのか、三越が行く流れで話がまとまりつつある。

……はっ。馬鹿か、こいつらは。

「死にたいのなら止めはしないけど、死にたくないのなら止めたほうが良いと思うけどね」

この作戦は十中八九、いや九割九分九厘失敗に終わるだろう。こんなお粗末な作戦は聞くに堪えないし、それを聞き流して死地に向かうのをただ見ているだけなんてリュウにはできそうにもなかった。

めんどくさいと思いながらもリュウは言った。


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