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報酬の使い道

他サイトに投稿したものを持ってきたやつです。短編その1。

METRO2033+シャドウランみたいなのが書きたかったのです。

ポンプアクション式の散弾銃に一粒ずつスラグ弾を親指で押し込め、その小気味良い音を堪能していく。

私にとって安心させてくれるこの音は、扉1つを隔てた向こうの部屋にいる彼らには聞える由も無い。

今日も私の仕事が始まろうとしている。

運悪く弾丸が目玉を抉らないようにと肌身離さず身に付けているお守りの十字架が、電灯の錆びた明かりを受けて鈍い色で照る。

右手首に視線をやると、ガスマスクのレンズを通して拡張現実(AR)の淡い緑色に光る腕時計が午後11時57分と気温マイナス4度を示している。私のフィルターから吐き出す吐息は白く濁ってしまう。

高層ビルだったはずのものの38階の一室だというのに、ここは冷気と放射能が満ち溢れていた。

右耳に挿しているイヤホーンからガイガーカウンター(放射能検知器)のガリガリガリという煩い検知音が、しつこく鼓膜を引っ掻いている。


11時58分。いつも過ごしている地下シェルターの中なら緊張を和らげる為にウォッカをワンショット飲みたいところだが、ガスマスクを取るわけにもいかないため、私は溜め息を吐くしかない。

防弾ベストの胸のところに着けたホルスターに、愛用の古ぼけた拳銃があるのをまた確認する。

2分に1度は確認している。

ウォッカが無いのだから、代わりに私を安心させてくれるものはこの拳銃の存在とスラグ弾を込める音だけだ。そして、スラグ弾はもう込め終わった。

手筈通りならば先に私の"シモベ"が突入し、ヤツらを混乱させる。私はそこへ堂々と殴りこむだけだ。

しかしこれからの乱暴な解決方法のことを考えるのは止めることにした。

私は残り残りの一分の間を、今回の仕事の報酬の使い道を考える事に費やそうと思う ―― 余裕なわけじゃない。あまり考え過ぎると、かえって恐怖を感じそうになるからだ。


11時59分に数値が変わる。私に異能的な感覚が、遠方より急速に接近してくるオーラを感じ取る。手筈通りだ。

だから私は安心して彼のことを考えられる。私の想い人の彼は、裏業界の仲介人だ。

3年ほど前に凶悪な日本のマフィア ―― 確かヤクザといった連中を敵に回してしまったときに、助けてくれた。

それがきっかけで私は彼とよく仕事をするようになり、彼のために暴力と銃弾を振る舞い、彼は私のために手回しをしてくれた。

関係も幾度も持ったが、後悔なんてしていない。他の男たちは全員下衆同然に見えるが、彼だけは違うのだから。

だけど彼は1年前とてつもない資金難を理由に、私たちが活動していた地下シェルターを離れなくてはいけないと言った。

大金が手に入ったら絶対に戻ってくると、言ってくれた。暴力と裏切りの世界で生きてきた私にとって、彼は光だ。


そしてこの仕事の報酬をこの半年間で貯めた額に加えれば、彼の捜索の資金と彼の資金難を助けれる金額に到達するのだ。

彼もウォッカがとても好きだ。だから、まずは一緒に飲もうと思っている。

私が彼に追いついたときの彼の驚く顔を想像すると、少しにやけてしまう。


0時00分 ―― 私のイヤホンが骨伝導の音で静かにアラームを鳴らした。


凄まじい爆発音が扉越しの部屋から響き渡り、阿鼻叫喚の渦が隣部屋の私にまでしっかりと届いた。

”火炎の精霊だ!誰か防護陣の描かれた布を用意しろッ!”と誰かが叫んでいる。

だけどもう彼らは遅い。私は扉のノブを握り、少しだけ押し開き、ブーツの底で全力で扉を蹴り飛ばす。

扉の近くにいた短機関銃を持った男を突き飛ばされ、慌ててこちらを振り向いた散弾銃を持った男の腹にスラグ弾を撃ち放つ。

その男は声にならない悲鳴を漏らしながらソファを背中で押し倒して盛大に吹き飛ぶ。


仕事の標的は1人。ここで密かにパーティーを開いている、裏業界の大物だ。

聞くところによるとここ一年くらい前に現れて、瞬く間に力をつけたらしい。

他のエキストラたちは全て私と契約した一時的なシモベの炎の精霊が焼き尽くしている最中だから、1人だけ唖然としてソファにふんぞり返っている男がそいつだと直ぐ分かった。


そしてそいつの横には女がいた。裸の女で、そいつにガタガタ震えながら抱きついている。

そいつの足の間には、恐らく寸前まで男のそれを咥えていただろう商売女がいる。


そして、そいつの顔には、私は見覚えがある。

優しく、人の良さそうな、それでいて抜け目の無い顔つき。

女にモテることに、納得した。


そして今日の仕事の報酬は、全てウォッカになってしまうことを悟った。

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