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第3話 武器探し……

 ジェム王国、王都メロードにある貴族街の外れ。

 本日は雲一つ無く気持ちがいいほどの快晴だ。


「マジでついてねぇ。クソッ! ふざけんなよ」


 そんな晴れやかな朝の貴族街にそぐわぬ声が聞こえた。

 魔導士の失敗によって生まれた化け物と戦った翌日、ラファルは目覚めと共に悪態を吐いた。

 ラファルの家は兄のガイルがラファルを拾った当時の家だ。

 一般的な平民の感覚で言えば大きめな、貴族の感覚で言えば物置というくらいの質素な家だ。

 昨日の化け物退治の時に折れた剣をどうするか、そのことで頭が一杯でラファルは朝から憂鬱だった。


「はぁ、しゃあない武器屋にでも行くか」


 買い置きしていた堅いパンを食べながらラファルは呟いた。

 昨日の化け物の件で、帰る間際にサレナから、小隊長が死んだ為に数日間の休みがあると告げられ、今回の宮廷魔導士の失態は極秘扱いだと言うことで、50000G、半金貨1枚という、安すぎる報酬を渡された。

 50000Gは命を懸けた割に安すぎると不満を抱かないでもないラファルだったが、依頼をこなしたり、化け物などを退治して報酬を得るスレイヤー(討伐者)ではなく、宮仕えの身である為、大きく文句は言えなかった。

 食事を終えたラファルは陰鬱さを滲ませる仕草で家を出た。

 端から見れば、これから自殺でもするのかと思われてもおかしくない。

 それでも、制式の武器が余程嫌なのか、ラファルは商業区向けて足を踏み出した。

 道中、麗らかな陽気に釣られて気持ち良さげに歩く紳士、淑女が多数いる。

 そんな連中が目に入り、呪詛でもかけてやりたいと思うほど、ラファルの胸中はささくれていた。

 石畳の大通りを不機嫌な顔をして歩くラファルに、通行人達は、何事だと訝しげな視線を向ける。

 ラファルが、そんな些細な動作にも苛立ちを募らせつつ、しばらく歩いていると、商業区に出た。

 メロードは王都と言うだけあり、朝から沢山の人で賑わっている。

 知っている武器屋を思い出しながらラファルは大通りを闊歩した。

 一つ目の武器屋にたどり着いたラファルが店内は入る。

 未だ不機嫌なラファルは、スレイヤーやハンターで溢れかえる店内を物色する。

 この店はどうも、騎士やスレイヤーを対象にしているらしい。

 性能の良い武器が揃ってはいるが、ラファルの予算では到底手の出ない代物ばかりである。

 惜しみつつも、店を出たラファルは二件目を目指した。

 黒髪を靡かせたラファルは、白亜の輝きが偉容を放つ城を背に、賑やかな喧騒の中をくぐり抜けていく。

 ようやく目的の店が見えた。

 ラファルは人混みを掻き分け前に進む。

 なんとか人波に流されずに目的の店へたどりついた。

 建て付けの悪いドアを開けて、店内に入ったラファルは商品を物色しだした。

 一件目より閑散としている。

 しばらく剣を手に取ったり、重視を確かめたりしていたラファルは愕然とした。

 衛士に配備される粗悪な剣と同じ程度の武器が所狭しと並んでいるのだ。

 どうやらこの店は新米ハンターなどを対象にしているらしい。

 良く見ると、それなりの剣も有るには有るのだが、如何せん高い。

 相当タチの悪い商売をしている。

 ラファルはこの店でも武器を探すのを諦め、店外へ出た。


「ようラファル。こんなとこで何してんだ?」


 両手に荷物を抱えたエンリコがいる。


「エンリコこそ、何やってんだ?」


「ん? 俺か、俺は買い物に来てんだよ。酒とつまみをな。折角降って湧いた休みだ、潰れるまで呑むぞ」


 酒を呑むのがそんなに嬉しいのか、エンリコの厳つい顔が破顔した。


「で、お前は?」


「昨日のあれで剣が折れたから、掘り出し物がねぇか探してんだよ」


 ラファルは深い溜め息を吐く。

 そんなラファルを見てエンリコが目を細めた。


「まさか、この店で買ったんじゃねぇだろうな」


 エンリコは、今ラファルが出てきた店を指差す。


「この店で買う位なら制式の剣の方が幾らかマシだぞ」


 渋い顔をしたエンリコが普段よりも低い声で言った。

 ラファル大袈裟に両手を広げて首を振る。


「まさか、まだ買っちゃいないよ。なぁ、どっか良い店知らねぇか?」


「武器屋か……悪い、知らねえな。鍛冶屋に行った方がいいんじゃねぇのか」


 確かに、エンリコの言う通り、鍛冶屋の方が良い物は多いだろう。

 しかし、今のラファルの予算では手が出ない位に値が張る。


「まぁ、な。でもよ、50000G以内の剣は流石に置いちゃいないだろ」


 ラファルの予算を聞いて、エンリコは驚愕した。


「無いな。しかし50000Gか、無理だろ」


 普通、制式の武器よりも良い武器を買おうと思えば、金貨1枚、100000G以上はするものだ。

 それを50000Gしか持ってきていないと言うラファルにエンリコは呆れた。


「やっぱり無いか」


「金を取りに帰ったらいいんじゃねぇのか」


 エンリコは呆れたように溜め息を吐く。


「これ以上は金がねぇ」


「は? いや、普通に生活してりゃ、残るだろ」


 大体、1人の一食分で200〜600G程度だ。

 かなり多めに見積もってもひと月、30日で10万Gも使う筈がない。

 王都の物価は他よりも若干割高だが、それにしても金は残る筈だ。

 特に、ラファル達は最低1食は城で食べる。多い時は3食とも食べる事もある。

 勿論、タダだ。偶にケチくさい領主が給与から天引きしているという話も聞くが、流石に国王のお膝元ではそんな事はない。


「何に金使ってんだ? 娼館通いか?」


 エンリコには何故ラファルがそんなに金欠なのかわからない。

 それこそ、娼婦に注ぎ込んだというくらいしか思いつかないのである。


「ちげぇよ。俺さ、学園に通ってたんだけどよ。まぁ、そん時にロジエ家が面倒見てくれててよ、おっちゃんは返さなくていいって言ってんだけど、やっぱケジメはつけないとな。甘えっぱなしは良くねぇだろ」


 ジェム王立学園。

 通称、学園と呼ばれる、主に貴族や庶民でも大店の子息を対象にした教育機関がある。

 詳しい話しは省くが、ようはラファルはそこに通う学費をロジエ家に出してもらっていたのである。

 ラファルの話しを聞いたエンリコは納得したように頷いた。


「はぁ、つまり残った分で返してるって訳か。でもよ、お前は騎士ガイルの弟だろ。何でロジエ家なんだ?」


 エンリコは首を傾げて考え込む。

 その疑問はもっともだ。

 ラファルの兄、ガイル。王国でも指折りの騎士にして、国王直轄の騎士団の団長だ。

 人格にも優れ、上下の別無く好かれる男が、弟の学費を出さないとは考えにくい。


「いや、兄さんが出そうとしたんだけどよ、おっちゃんが出すって言って、俺の学費の請求は全部ロジエ家に回せって学園に乗り込んだんだよ」


「それは、まぁ何と言うか……」


 目を丸くしたエンリコは、ロジエ家当主のあまりの破天荒さに言葉も出ない。


「だから、俺が返してる訳。流石に借りっぱなしは気分が良くねぇからな」


 毎回、気にするなって言われんだけどなと、不敵に笑うラファルに呆れたのか、エンリコは大きな溜め息を吐いた。


「お前も馬鹿っつうか何つうか。まぁ頑張って探せよ」


 酒瓶を1本ラファルに渡したエンリコは人混みの中に消えていった。

 しばらく、呆然とその背中を見送ったラファルは、酒瓶に目を落とした。

 

「はぁ〜」


 酒瓶を見つめたまま溜め息を吐いたラファルは、栓を抜いて一口煽る。

 熱いアルコールが喉元を過ぎ、胃の中に流れ込むのがわかった。

 気を取り直したラファルは再び、武器を探しに街中を歩き回る。




 ラファルは、日暮れ近くまで武器屋を見たり、鍛冶屋に寄ったりと、忙しなく忙しなく動いたが、これだ! と思える剣と巡り会う事はなかった。

 綺麗な夕焼けを見ながらラファルは、今日はそろそろ日も暮れるし、続きは明日にしようと、晩飯を買った。

 家に帰ったラファルは、エンリコから渡された酒を煽りながら、夕食を取った。

 久々に深酒、瓶1本を丸々空けたラファルは、若干痛む頭を押さえ、床に就いた。




 太陽が中天にさしかかる頃、ラファルは目覚めた。

 昨晩のアルコールがまだ抜けきっていないのか、体調があまり良くなさそうだ。

 ラファルは、フラフラした足取りで、家の裏手にある井戸から水を汲む。

 居間に戻ったラファルは、グラスに入れた水を飲んだ。

 まだ休みもあるし、今日は家にいようとラファルが考えていると、誰かがドアをノックする音が聞こえた。

 

「すぐ行くよ」


 ノックの主に声を掛けたラファルは、グラスに残った水を飲み干し、玄関に向かった。

 寝間着のまま、気怠げなラファルはドアを開けた。

 ラファルの目の前には、上等な仕立ての作業服、所謂メイド服を着た少し年上の利発そうな女がいる。


「え〜、どちらさん?」


 ラファルは、家にメイドを遣わせる人物に心当たりがなかった為、つい胡乱な視線を向けた。


「申し遅れました。私は王女様に仕える侍女のアルエットと申します」


 ラファルの目が点になった。

 一体何故、王女様に仕える人間が自分の所に来たのか、ラファルは理解出来ないでいる。


「王女様が、ラファル様をお召しです」


 ラファルには理解が及ばなかった。

 王女様が俺を? 何かしたか?

 あまりに理解不能な事態に、ラファルの頭はしばらく停止した。


「待たせて頂きますので、準備をして頂けませんか?」


 そう言ったアルエットは、待たせている馬車の側に戻った。

 ドアを閉めたラファルは、何がなんだかわからないまま、とりあえず王女様に謁見と言うことなので、普段着に、配給された外套を羽織る。

 土色の、衛士を示す外套を着たラファルは、アルエットの待つ馬車に向かった。


「それではお乗り下さい」


 ラファルは、アルエットがドアを開けた馬車に乗り込む。

 ラファルが席に着いたのを確認したアルエットは、御者に指示を出した。

 ラファルの向かいにアルエットが座ると、ゆっくりと馬車が動き出す。

 徐々に足の早まる馬車の窓から外を覗いたラファルは、未だ召喚される理由を考えていた。




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