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第2話 化け物退治

 森の奥を警戒しているが何も出て来やがらねぇ、どうなってんだ?

 ポトリと嫌な汗が一滴、地面に垂れた。


「グオォォォ」


 何かが口を開き右腕を振りかぶって、凄い速さでラファルに向かって突っ込んで来る。

 ラファルは剣でその腕を受け止めた。何かは、攻撃を止められた事が気に入らないのか、唸りを上げる。

 あまりの力に顔をしかめるラファルの肩を噛み砕こうと、何かの鋭い牙が向かってくる。

 やべぇ!

 ラファルがそう思った瞬間−−


「うおらぁ!」


 −−左側にいたエンリコが剣を突き込んだ。

 ラファルに集中していた何かは、死角からの攻撃によろめいて二、三歩下がった。

 マジでヤバかった。衛士の正式装備の鎧なんざ軽く噛み千切られるぞ。

 ラファルが、自らも下がって何かを観察するとそれは、不出来な熊みたいな化け物だった。

 何だよありゃ!

 それは、不細工な熊と狼の合いの子かと思われる、異形の怪物だ。

 顔は熊の鼻先を狼のように伸ばし、体は完全に熊だ。二本足で立ち上がる体躯は、成人男性を優に越える。そして、手足は胴体からは考えられない程に細く、引き締まっている。


「おい、ラファル。あんな魔獣知ってるか?」


「知らねぇな。俺の記憶が確かなら図鑑にも載ってなかったとおもうぜ」


「だよなぁ……、新種か?」


「ざけんな! こんなとこに新種なんざ出てきてたまるかよ!」


 阿呆な遣り取りをしてる間も二人は化け物から目を逸らしてはいないが、やっぱりこんな化け物を見たことがなかった。

 化け物はさっきの一撃でラファル達を警戒したのか、睨んでるだけで向かって来ない。

 ラファルは化け物に睨まれるのが気に入らず、睨み返してやると−−


−−グルゥゥゥ−−


 −−唸ってきやがった。

 それでも迂闊に手を出さずに警戒を続けていると−−


「グアァァァァァァァァッ!」


 −−再び牙を剥いてラファルに向かってきた。

 上等だ! やってやんよ!


「来いやぁ! 化け物が!」


 ラファルは化け物が振り下ろしてきた腕をかわして、胸を斬りつけた。

 固ってぇ、どうなってんだ? 毛すら切れてねぇじゃねえかよ。

 化け物は反撃とばかりに反対の腕も振り下ろした。

 駄目だ、かわしきれねぇ。

 仕方なしに受け止めようと剣を持ち上げ−−


−−キンッ−−


 ラファルの目が見開かれる。その瞬間、彼が持つ剣は折られた。

 なっ! ふざけんなよ!

 更に噛み殺そうとしてくる化け物の胸を蹴って、距離を取った。

 尚も追撃をかけようと向かってくる化け物とラファルの間にエンリコが立ちふさがった。

 不意に懐に飛び込んできたエンリコに、化け物は足を一閃される。

 その攻撃が効いたのか、化け物は軽く唸って飛び退いた。


「何した」


「ほぅ、流石の化け物でも脛は痛かったようだぞ」


 ラファルの問いに顎髭を撫でながらエンリコは答えた。

 脛ねぇ、人間みたいなヤツだな……。

 ラファルは、悪戯を思いついた悪ガキのように笑った。


「エンリコ、下がれ」


「何か手があんのか? てかお前、剣が折れてんだろ。大丈夫なんだろうな?」


「まぁ、剣がなくても問題ねぇし、それによ、何にしろやってみねぇとわかんねぇだろ」


 ラファルの言葉を聞いてエンリコは不敵に笑いラファルの背後に下がった。

 既に痛みも引いているのか、化け物は臨戦態勢でラファルを睨みつけている。 化け物に向かい、ラファルは折れた剣を構えた。


「来やがれ化け物が!」


「グオォォォォ」


 ラファルの挑発に応えるかのように雄叫びをあげ、化け物は突っ込んだ。

 彼我の距離を介さぬかのように目の前に迫る化け物を一瞥したラファルは−−


「我が身に宿りし深淵なる魔よ、我が意の下にその力を示せ」


 体内に宿るオド(魔力)をただ発現させるだけの詠唱。だがそれで充分だった。

 その身に宿るは人並み外れた莫大なオド、そのオドを折れた剣の先に収束させて魔力の刃となす−−これが俺のとっておきだ!

 化け物は、攻撃がラファルの体に触れる直前に発生した魔力の奔流に巻き込まれ、木にぶつかるまで吹き飛んでいった。


「おい、ラファル! こんなとっておきがあるなんざ聞いてねぇぞ!」


 離れていたとはいえ、化け物と同じく魔力の奔流に巻き込まれてよろめいたエンリコがなにかごちゃごちゃと喚いてるが、ラファルにとって、そんな事はどうでもよかった。

 正直、ラファルはこれほどまでのオドを一気に使った事がない。如何に莫大なオドを持つとは言え、ラファルは人間。

 自らのオドに当てられて、魔力酔いしてる。

 頭が痛い、耳鳴りが五月蝿い、だが−−んなこともどうでもいい。

 あの化け物をぶった斬ってやる!


「グルォォォォォ」


「うおぉぉぉぉ!」


 起き上がり雄叫びをあげながら向かってくる化け物に対してラファルも雄叫びをあげて斬りかかった。

 すれ違い様に凝縮された魔力の刃で化け物の首を斬りつける。すると−−


「グガアァァァァ」


 −−まるで抵抗などなく、さっきまでの苦戦が嘘の様に、化け物の首に赤い線が入り、盛大に血飛沫をあげながら首が弾け飛んだ。


「ははっ、してやったぜ!」


 ラファルは化け物の亡骸に中指を立てて……そのまま後ろに倒れた。


「おい、ラファル。大丈夫か?」


「ああ、生きてるよ」


 エンリコに笑顔で返答したラファルは、そのまま気を失った。



 まったく、なんて野郎だ。化け物を倒して気絶しやがるとはよ。

 しかし、ラファルが魔法を使えるなんて事をエンリコは知らなかった。

 ラファルを除くエンリコ達、他の小隊員は、騒ぎを聞いて駆けつけた他の二小隊と合流し、気絶したラファルを担いで王都に帰った。



 ここはどこだ?

 目覚めて最初にラファルが思ったのはそんな事だった。

 固いベッドから起き上がり辺りを見渡してようやく検討がついた。

 どうやらラファルは兵舎の一室に寝かされているようだ。

 しかし何故このような場所にいるのかラファルには検討がつかない。

 確かルプスの森に

定期討伐に行って、見たこともない化け物と戦っていた筈なんだが。

 兵舎の一室で寝ていた理由をラファルは延々と考えていた。


「ようやく目覚められましたか?」


「っ! サレナか。何でこんな所にいんだよ。てか、俺は何で寝てたんだ?」


 考えに没頭しているときに、突然横合いから声を掛けられ、驚いて身構えたラファルだったが、声の主を視界に入れ、ホッと息を吐いた。

 

「魔力の枯渇で意識を失ったみたいです」


 魔力の枯渇? どうやら記憶が抜け落ちているのかラファルには思い当たる事がない。

 人として、あまりにも異質なオドを持つラファルは、極力魔法を使わない事にしている。

 だからこそ、魔力の枯渇など、考えられない事なのであるが。


「森に行って化け物と戦った事は覚えていますか?」


「ああ、確かそん時に剣を折られて……」


 そこから先を覚えていないのか、ラファルは頭を捻って必死になって思い出そうとしている。


「化け物を倒す為に魔力刃を使ったんです。それもオドだけで」


「あっ! そうだったな。マナ(魔力)を精製してる暇がなかったから無理矢理オドを捻り出したんだった」


 マナ、自然界に溢れる魔力素。

 本来、人が魔法を使うには自分のオド(魔力)でマナ(魔力)を集めて行使しなければならない。しかし、ラファルは人並み外れた自身のオドのみを使って、魔力刃を創った。

 そもそも、マナを行使しないものは魔法とは呼ばない。

 だからこそ、ラファルは魔力が枯渇したのである。


「全部思い出したぜ。魔力刃で化け物を殺した後、気絶したんだったな」


「はい、それで運び込まれたラファルを私が看護していたんです」


 いくら幼なじみとはいえ、女性に失態を知られたのが恥ずかしかったのか、ラファルには珍しく顔を赤らめた。


「ああ、把握した。それでよ、あの化け物はなんだったんだ?」


 プリンセスガードであるサレナならば何か知っているかもしれないと思い、ラファルは聞いた。


「あれは……出立する前に話した事を覚えておりますか?」


「あん? 確か宮廷魔導士の一人があの森に行ったきり行方不明だっけ?」


 大方あの化け物に殺されたのだろうと思いながらラファルは答えた。


「はい。そしてその魔導士は合成獣を研究していました」


「じゃあ、あの化け物を作って、殺されたって事か?」


「いいえ、違います。あの化け物が宮廷魔導士のなれの果てです」


 最初、ラファルにはサレナの言っている事が理解出来ず、しばらくしてようやく理解出来た。


「つまり、宮廷魔導士が自分を触媒に合成したって訳か」


「あ〜、それがどうも実験の失敗で自分に合成されてしまったみたいなんです」


 サレナの答えにラファルは、愕然とした。

 普通、宮廷魔導士にまでなる程の人物が、そんな初歩的な失敗をするとは思わないからだ。

 しかし、よく考えれば脛を攻撃されて悶えていた事など、人の特徴が出ていたことに思い至った筈だ。


「マジかよ。つまり間抜け野郎の失敗の尻拭いだったってことか」


「はい、そういう事になります」


 サレナの言葉を聞いてラファルはガックリと肩を落とした。


「あ〜っ! 馬鹿野郎のせいで剣がパァだぞ。全く、とんだ骨折りだぜ」


「ハハハ、何と言っていいか……」


 ラファルの嘆きを聞いてサレナは乾いた笑いを発した。何故なら、ラファルが他人の尻拭いをした事についてではなく、新たな剣を購入する事に対して嘆きを漏らしたのがわかったからだ。

 この国の兵、特に兵士、衛士、下級騎士は国が用意した武器を低価格で配布される。

 しかし、国が用意しているのに質が悪い。

 自分の命を預ける武器がそんな物では安心出来ないと、自費で武器を用意する者が多いのだ。

 ラファルも多分に漏れず、自分で武器を購入していた。その武器が折れたということは質の悪い武器を持つか、再び大枚をはたいて自費で購入するかということになる。

 ラファル、衛士の給金は月に180000ゲルト、金貨と半金貨1枚に銀貨30枚の薄給だ。そんな中からそこそこの剣を用意するのはなかなか厳しい物がある。

 化け物の経緯や、小隊長が死んで、自分達の小隊がどうなるかなどそっちのけで、ラファルは頭の中で給料日までどうやって遣り繰りするか必死に考えていた。




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