世界は・・・そして
瓦礫の山の上で空を見上げれば、一面を覆った厚い雲から灰色の雪が舞い落ちてきた。
世界が瓦礫の山と化してから一月が経とうとしている。
自然をも支配してきたという驕りと歪んだ矜持を持つ人々の理想は呆気もなく崩れ去り、世界は一瞬と思えるほど短い時間で全てを無に帰した。建物という建物は全て灰塵となって風に飛ばされ、それらを取り巻く環境も一変した。
今まで安穏とした平和を享受してきた世界の人間は、過酷な環境へと突然放り出された。
環境に対応できたものはおよそ二割にも上らず、ほとんどのものが散っていった。けれど、残った人々も収穫直前の作物が枯れたせいで食料不足となり、次々と餓死で死んでいく。
こんな世界だからこそか、誰も未成年だからといって煙草を吸っていても何も言わない。最も、外見年齢がそうなだけで、実際は遥か昔に成人を迎えている。
灰色の雪はまるで、この世界に美しいものは何もないとばかりに、降り積もることなくさっさと水に変わっていく。そんな空を無感情に見ながら、紫煙はゆっくりと立ち上ってゆく。
「アル。またこんなところに居たの」
瓦礫の山の下から、茶髪の髪を腰まで伸ばしている少女が声をかける。
「・・・なあ、グローリア。世界はこれからどうなると思う?」
「は?そんなの分かるわけ無いでしょ。未来よりも今をどう生きるか。私たちの問題はそれだけよ」
少女――グローリアは毅然とそう言い放ち、アルを見上げる。
「そうか・・・・・・さすが、元王女なだけあるな。考えがそこらの大人よりよっぽどまともだ」
「あら。女王の間違いじゃなくって。私はつい二ヶ月前に王位に就いたわ」
「それもそうだったな。だが、誰もお前が女王だと気付かない。皆、生きるのに必死だ」
そう言ってアルは軽やかに瓦礫の山から飛び降り、グローリアの前に立つ。
アルの身長はグローリアとそんなに変わらない筈なのに、体型はグローリアより細い。よくこんな身体でこの世界を一月も生き延びれたものだといつも思う。それに、細いといっても病的ではなく、むしろ健康体そのものだ。同じ年頃の子達でさえ病的な細さで立ち上がることも叶わぬ身体になっている者が圧倒的に多いのに。
「アル・・・・・・あなたは何者?」
グローリアはずっと疑問に思ってきたことをようやく口にした。
その言葉にアルは静かに空を見上げた。その眼は心なしか悲しげに見える。
「―――・・・・・・俺は、ただの化け物だよ」
「え・・・」
予想していなかった返答に詰まって思わずアルを凝視する。その反応に苦笑しながら、短くなった煙草を握り潰した。
「今この話をしても意味はない。いずれ、世界が落ち着いた頃に話してやるよ」
それは何年先の話になるだろう。
未だ、世界は混乱と狂気の中にある。この先何が待ち受けているのかに恐怖し、不安な日々を送る人々に今までのような安寧の時が来るのだろうか。
「そろそろ戻ろう。子供たちが心配する」
「・・・そうね」
そうしてまた、一日が過ぎてゆく。