「婚約破棄じゃとぉ?」前世悪役令嬢の極道若頭、舎弟の妹を泣かせた男に筋を通させます
約7千5百字。悪役令嬢×極道のハチャメチャ設定。ジャンル指定どおり、基本コメディーと思って読んでいただければ……。
ヴェロニカ・フォン・ホークシュタイン。
彼女は淑女と呼ぶにしては少々――いや、かなり厳しい貴族令嬢だった。
王国でも指折りの名門公爵家に生まれ、幼い頃から礼儀作法と貴族としての責務をこれでもかと叩き込まれてきた。ゆえに自分にも厳しく、当然ながら他人にも厳しい。身分ある者が怠けていれば、相手が誰であろうと容赦なく口を出した。
「侯爵家のご令嬢ともあろう方が、そのような振る舞いをなさるものではありませんわ」
「で、ですが……」
「言い訳は結構です。まずはご自分のなさったことを省みなさいませ」
本人としては、それが貴族として当然の務めだった。
しかし世の中、正しいことを正しく言われて喜ぶ人間ばかりではない。いつしかヴェロニカは、表向きこそ礼を尽くされながら、陰では『悪役令嬢』と呼ばれるようになっていた。もっとも、本人はそれを知ったところで鼻で笑っただけだったが。
そんな彼女にも婚約者はいた。相手はこの国の王太子。幼い頃から将来を約束された仲だったのだが――。
「ヴェロニカ。君との婚約を破棄する」
ある日、王太子は大勢の前でそう告げた。その隣には、聖女と呼ばれる若い女が寄り添っている。どうやら王太子は彼女と恋仲になっていたらしい。
まあ、恋心というものは移ろう。それ自体は仕方がない。ヴェロニカが腹を立てたのは、その後だった。
「君の厳しすぎる性格には、以前から思うところがあった」
………………あ?
王太子は自分の心変わりを棚に上げ、さも婚約破棄にはヴェロニカ側にも原因があったかのように話を持っていったのである。
自分で他の女に走ったくせに、最後には捨てる女へ責任まで押しつける。なんともまあ、立派な王太子様であった。
ともあれ、そうしてヴェロニカという女の人生は幕を閉じた。
そして――。
次に生を受けたとき、彼女は異世界――それも現代日本に生まれ変わっていた。
名前は鷹城玄馬。性別は男。これだけでもかなり驚くべきことだったのだが……。
「“兄貴”。おはようございやす」
都内の雑居ビルの扉を開けるなり、いかにもな強面の男たちが一斉に頭を下げてくる。
「おう」
玄馬も片手をあげて応えた。
白地に縦じまのスーツ。サングラス。百八十を優に超える長身。どう見ても堅気ではない。
そう。彼の職業は極道だった。しかも現在は若頭である。
(う~ん……まさかまさか、ですわね)
貴族社会も荒事とは無縁ではなかったが、さすがに極道とは毛色が違う。
もっとも、時代は令和。毎日抗争して拳銃をぶっ放しているわけにもいかない。実際の玄馬の日常は、書類を見たり、金勘定をしたり、取引先と話をしたり、身内の揉め事を処理したり。意外なほど会社員じみていた。
ヴェロニカ自身の冷静さと頭の回転の早さもあり、この世界の生活に順応するまで、さほど時間はかからなかった。
前世のことは誰にも話していない。さすがに『前世では異世界の公爵令嬢でした』などと言ったところで、信じてもらえるとは思っていなかった。
ただし、前世の癖まで消えたわけではない。
「兄貴。今日のお茶ですが、ダージリンでよかったですかい?」
「ああ。頼む」
「へい。ただちに」
紅茶。それと愛用の扇子。この二つだけは生まれ変わっても手放せなかった。
さらに油断すると所作が妙に上品になる。そして極めつけとして、本気で腹が立ったときに限り――。
「まあ! なんて無礼な方ですの!」
前世の口調が飛び出す。
最初こそ舎弟たちも驚いていた。だが今では、『兄貴の地元じゃあ、キレるとああいう喋り方になるらしい』という雑極まりない解釈で落ち着いている。
ちなみに玄馬は広島の田舎出身である。ヴェロニカも訂正しなかった。面倒だったからだ。
そんなわけで。紅茶と扇子を愛用し、怒るとお嬢様になる極道の若頭――鷹城玄馬として、ヴェロニカは今日もそれなりに平穏な日々を送っていた。
――そんなある日のことだった。
「兄貴。ちょっといいですかい」
事務所の扉を開けて入ってきたのは、側近の真壁だった。その後ろには、同じく舎弟の小田切が立っている。
見るからに様子がおかしい。普段なら威勢よく頭を下げる男が、今日は肩を落とし、顔には怒りとも困惑ともつかない色を浮かべていた。
「おう、どうした」
「小田切の奴が、兄貴に相談があるって」
玄馬が視線を向けると、小田切は一度唇を噛んでから口を開いた。
「……妹のことなんす」
「妹?」
「はい。奈緒っていうんですが……今度、結婚する予定“だった”んです」
「だった?」
玄馬が眉を寄せると、真壁がすかさず横から話を継いだ。
「なんでも、相手の婚約者から急に別れを切り出されたらしくて」
「はい……いわゆる、婚約破棄ってやつっす。しかもその野郎、実は奈緒に別れを切り出す前から浮気してやがったみたいなんすよ」
小田切は項垂れる。
そしてさらに腹立たしいことに、相手の男は今回の件を小田切の妹のせいにもしたがっているらしい。
「前から奈緒とはうまくいってなかったとか、俺だけが悪いわけじゃねえとか、そんなことばっか言ってるみたいで……。その理屈で、式場とかのキャンセル料まで半分払えって言ってやがるんす。ふざけてるでしょうが。自分は裏でコソコソ別の女作っといて!」
言いながら、小田切は拳を握りしめた。
「俺、許せねぇんす。ついこの間まで、妹は本当に結婚のことを楽しそうに話してました。式場はどこで、ドレスは何色で……って。それなのに……!」
割と早くに両親が他界した小田切にとって、奈緒は残された唯一の家族だった。兄妹二人では家計に余裕もなく、小田切が若くして働ける場所として極道を選んだのもそのため。その一方で、妹にはちゃんとした教育を受けさせたいと大学までの学費を負担してきた。
それだけ大事にしてきた妹が、結婚直前になってこんな目に遭わされたのだ。怒りが収まらないのも無理はない。
もっとも、当の奈緒本人は、別れること自体にはもう納得しているという。相手が浮気をしていた時点で、愛想が尽きたらしい。
だが、それと金の話は別だ。なぜ裏切られた側が、婚約を壊した尻拭いまでしなければならないのか。そこが最大の争点だった。
「ったく、ひでぇ話だぜ」
「もう式の日取りも決まってたんだろ?」
「妹さん、気の毒になあ……」
周囲の舎弟たちも口々に同情する。
と、そこで。
「……ん? ちょっと待て、小田切。お前の妹の婚約者ってたしか……」
真壁が何かに気づいたように眉をひそめる。
小田切も重々しく頷いた。
「はい。倉科組の御子柴です」
「げっ」
舎弟の一人が思わず声を漏らした。
倉科組の御子柴――奈緒を捨てたその男は、よりによって玄馬たちとは別の系列の極道で若頭を務めている人物だった。
「こいつは……ずいぶんと厄介な話になってきましたね。ね、兄貴?」
可愛い弟分の肉親とあって、協力してやりたいのは山々。けれど相手がよその組の幹部となれば、単なる男女間の揉め事で済ませるには少々……いや、かなり動きづらい。
そうして真壁が何気なく振り返ったところで、一同はようやくその場に起きていた異変に気づいた。
「……あ、兄貴?」
彼らの視線の先で、玄馬は紅茶のカップを手にしたまま固まっていた。そして――。
「………………“婚約破棄”……じゃとぉ?」
「ひ、ひぃ!?」
あわわわわわわ……!
「この私の前で……この私の前で、よくもそのような単語を口にしましたわね……?」
「で、出たー! 兄貴の方言だ!」
「やべぇぞ! 相当ブチギレていらっしゃる!」
「し、しかしなぜそこまで……!」
その地の底から這い上がるような声に、舎弟たちがそろって震えあがる。これが胸糞案件なのは重々理解している。しかし、まさかここまで沸騰するほどとは……。
だが、すでに玄馬の耳には何も届いていなかった。
婚約破棄。その言葉が、遠い記憶の底に沈んでいたものを一気に引きずり上げる。
『ヴェロニカ。君との婚約を破棄する』
王太子。隣にいた聖女。そして、自分で他の女へ走った挙げ句、『君の厳しすぎる性格にも原因が――』などと抜かした、あの顔。
玄馬の額にピキピキと青筋が浮かぶ。真壁をはじめとした舎弟たちの目には、その背後にそびえ立つ阿修羅像の影を見た。
玄馬は懐から愛用の扇子を取り出し、パシン、と開く。そのまま口元を優雅に隠すと、
「そのお話、もっと詳しくお聞かせくださるかしら!?」
◇
それから数日後。
倉科組の事務所には、朝から物々しい面子が揃っていた。
片側には若頭の御子柴俊哉と倉科組の者たち、その傍らには組が普段から世話になっているという弁護士。向かいには玄馬を筆頭に真壁、小田切、それに数名の舎弟が座り、小田切の隣には妹の奈緒もいる。
会合が始まって数分、場を取り仕切る御子柴側の弁護士が話を終える。
「――というわけで、以上が御子柴さん側の認識です。お二人の関係は婚約解消以前からすでに破綻状態にあり、したがって式場のキャンセル料をはじめ、婚約解消によって生じた費用についても、双方で負担する形が妥当かと考えております」
「そういうことです」
隣では御子柴も満足そうに頷く。仕立てのいいスーツを着こなし、髪もきっちりと整えた姿からは、若頭という肩書きにありがちな粗暴さをほとんど感じさせない。
まさに現代風のヤクザという出で立ちだった。
「さて。それでは来て早々で申し訳ないですが、お話はもう十分でしょう。分かったなら帰ってください」
「なっ!? ふざけんじゃねぇ! こちとらまだ来てちょっとしか経ってねぇんだぞ!?」
「ああ!? なんだ、てめぇ!」
ソファから立ち上がろうとした御子柴に小田切が食って掛かり、御子柴側の組員がそれに反応する。
「やれやれ。だから、こんなの時間の無駄だと言ってるんです。だいたい、なんですか大挙して騒々しい。昔ながらのカチコミじゃあるまいし、もうそういう時代じゃないんですよ。こんな連中をずらっと並べて脅そうったって、俺の言い分は変わりませんから」
そう言って御子柴が鼻で笑うと、倉科組の者たちも若頭の余裕に合わせるように、どこかニヤついた顔をこちらへ向ける。
当然、小田切をはじめ玄馬側の面々は面白くない。と、開始当初からあった険悪な空気がいよいよ頂点に達しかけたところで、
「やめろ、小田切」
ただ一人冷静だった玄馬が短く制する。
「御子柴さんよ。いくつか確認してえ」
「なんです? 鷹城の若頭さん」
「あんたが奈緒さんと別れると決めたのは、いつだ?」
「だいたい、七月の途中くらいですかね」
「それを本人に伝えたのは?」
「八月の十五日ですね。よく覚えてますよ」
「今の女と付き合い始めたのは?」
「九月に入ってからですね」
どの答えにも淀みはない。まるで台本を読み上げるかのよう。
「つまりアンタの言い分としちゃあ、ここにいる奈緒さんとの関係が先に終わった。その後に今の女と付き合った。だから浮気じゃねえ。婚約が壊れた責任は双方にあって、金も折半。それで間違いねえな?」
「ええ。何度聞かれても同じですよ」
「そうかい。なら、“これ”はなんだ?」
玄馬が一枚の紙をテーブルへ滑らせる。
印刷されていたのは、御子柴と現在付き合っている女とのLINEのやり取りだった。二人はそこで、とあるラブホテルの前で待ち合わせる約束を交わしている。
『今日もいつものところでいいよな?』
『うん。ホテルの前で待ってるね♡』
『おっけー。今向かってるわ』
そして問題は、その日付だった。
八月五日。
御子柴が奈緒へ婚約破棄を告げた八月十五日より、十日も前である。
奈緒は同棲中から御子柴の行動を怪しんでおり、隙を見てLINEを確認した際、このやり取りを自分のスマートフォンへ残していた。当時は何かあったときのために取っておいた程度のものだったが、今や御子柴本人が語った時系列を真っ向から崩す材料になっている。
「…………チッ」
「!?」
御子柴の露骨な舌打ちに、奈緒の肩がびくりと跳ねる。が、そんな彼女の前にはすぐさま玄馬の腕が伸びてきて、御子柴の敵意剥き出しの鋭い視線を遮る。
「心配するな。あんたが怯える必要はねぇ」
御子柴も一瞬は顔を歪めたものの、無論、これだけで降参する気はないらしい。すぐに表情を立て直した。
「……ふん、それがなんです? そんなもの、ただホテルの前で待ち合わせただけでしょう。いっしょにホテルの中にまで入った証拠はない。あそこは目立つから、待ち合わせにはちょうどいいんですよ」
弁護士も紙面へ目を落とし、「御子柴さんのおっしゃる通りです。この内容だけでは、二人が実際にホテルを利用したことまでは断定できません」と補足する。
その言葉を聞いて、御子柴の口元にもわずかに余裕が戻った……かと思われたが。
「……フッ」
もちろん、玄馬の説明にはまだ続きがあった。
「あんた、運がねえな。実はそのホテルな、“うちのシマで世話してやってる”店なんだよ」
そう言いながら玄馬が紙に書かれたホテルの名前を指先で軽く叩くと、御子柴の笑みが今度こそ止まった。
ラブホテルと極道。昔から、この両者には密接なつながりがあった。歓楽街の商売には何かと裏の人間が絡み、ホテルや風俗関係の店を組の息がかかった者が回していることがある。
もちろん現在は規制も厳しく、そういった形の商売は随分と減った。それでも玄馬たちの組には、昔からの流れで関係が続いている事業がいくつか残っている。そして今回、二人が待ち合わせに使ったラブホテルも、その一つだった。
「でもって、すでに管理してる奴にも確認を入れてある。八月五日の夜、あんたとその女が二人揃って中へ入っていくところまで、防犯カメラにばっちり残ってたそうだ」
「なっ……!?」
これには弁護士もすぐに言葉を返せなかった。
御子柴自身が「現在の女と付き合い始めたのは九月から」と言い切った直後である。その前月には二人でラブホテルへ入っていたとなれば、これまで組み立ててきた主張の根幹から食い違う。
つい先ほどまでニヤついていた倉科組の者たちも黙り込み、室内の空気が一変する。
追い詰められた御子柴は、しばらく紙を睨みつけていた。
「そ、そんな……」
やがて顔を上げたときには、それまで取り繕っていた丁寧な口調も消えていた。
「ふ、ふざけんじゃねぇ! だからなんだってんだよ! たかが女との話でしょうが! 別れようが誰と付き合おうが、俺の勝手だろ! よその組の若頭が、こんな痴話喧嘩に首突っ込んで……調子乗ってんじゃねえぞ!」
椅子を蹴るように立ち上がる。傍では弁護士が悲鳴を上げるも、お構いなしに勢いに任せて玄馬へ拳を振り抜いた。しかし。
――パシン!
「な、なに!?」
乾いた音が響く。
御子柴の拳は玄馬の顔へ届かなかった。なぜならば、その拳は玄馬が片手に持っていた扇子で受け止められたから。
「た、たかが扇子一本で……!」
「マジかよ……」
驚く倉科組の組員たち。
玄馬は拳を受けたまま、ゆっくりと御子柴を見上げた。
「……ほう。この“私”に手を上げるとは、覚悟はできているのでしょうね」
私?
御子柴が怪訝そうに眉を寄せる。周囲の倉科組員たちも、突然変わった玄馬の一人称に戸惑ったような顔をする。
だが一方、普段から舎弟として傍にいる真壁たちは知っていた。
玄馬の怒りが、すでに頂点に達していることを。そして、そうなった玄馬は手が付けられないことを。
真壁の頬が引きつり、小田切がごくりと息を呑む。ほかの舎弟たちも、これから始まるものを察して一斉に身を固くした。
玄馬は御子柴の拳を押し返すと、パシン、と扇子を開いた。その口元は優雅に隠れている。だが、扇子の向こうから御子柴を射抜く眼光には、もはや一片の温度もなかった。
「さっきあなた、時代がどうとか言ってましたわね。もう極道はそういうものではないと」
玄馬は扇子を閉じ、バンッと机へ叩きつけた。
「クソくらえですわ! 筋を通すのに時代なんて関係ありません! まして、男や女……次元すらも! たとえ世間から後ろ指を指されても、己が信じた義理と人情を貫く……それが極道、そして貴族というものです! 違わなくて!?」
「き、貴族!?」
なぜここで貴族が!?
そんな疑問が御子柴の脳裏に過ぎるものの、口には出さない。出せば殺される……そう直感した。
「なのに、この期に及んで筋を通すどころか、自分が裏切って捨てた女に尻拭いまでさせようだなんて……恥を知りなさい! この大バカ者!」
そして最後に鋭い喝が事務所中へ響き渡れば、御子柴は気圧されるように一歩後ずさり、倉科組の者たちも揃って固まる。
でもって玄馬はそんな面々をぐるりと見渡すと、扇子の先を壁際へ向けた。
「いいでしょう! この私が直々にあなたがたの性根を叩き直してあげます! 全員、壁に一列に整列なさい!」
「お、俺たちも……?」
「当然です!」
「ひぃっ」
その様は、まるで出来の悪い息子たちを叱りつける母親のごとし。玄馬のわずか一声で、強面の男たちが雁首揃えてピンと背筋を伸ばした。
……はたして、ここはいったいどちらの組の事務所なのか。
背後で見ていた真壁たちはそんなことを考えたが、玄馬は止まらない。結局、そのまま倉科組の面々は若頭の御子柴を筆頭に、一同綺麗に壁際へ整列。
その後しばらく、事務所の外には断末魔のような叫びが響き続けたという。
――で、翌日。
「兄貴。本当にありがとうございました!」
いつもの事務所で、小田切が勢いよく頭を下げる。その前では玄馬が普段通りの席に腰掛け、優雅にアールグレイの紅茶を口へ運んでいた。
なお、あれから話は一気にトントン拍子で進んだ。
浮気の時期について言い逃れのできない証拠が出た以上、御子柴側も従来の主張を維持できない。式場など、今回の婚約破棄によって発生した費用は御子柴側が負担。奈緒も復縁を求めず、二人の関係はそこで完全に終わった。
さらに玄馬から舎弟ともどもたっぷり“活”を入れられた御子柴は、その頃には随分と素直になっていた。組お抱えの弁護士立ち会いのもと、今後の対応についてまとめた覚書にも、その場できっちり判を押していた。
こうして玄馬の活躍により、一連の騒動は幕を閉じた。
「妹も、これでやっとスッキリしたって言ってました。本当に……なんて礼を言ったらいいか」
「気にすんな。俺は自分なりの筋を通しただけだ」
その言葉に小田切はますます感激した様子で頭を下げる。横にいた真壁も姿勢を正し、代表するように声を張った。
「今回もさすがでした、兄貴。俺ら、今後も一生ついていきます!」
玄馬は紅茶のカップを手にしたまま、わずかに笑う。
「フッ、いいでしょう。ただし、私の厳しさについてこられるなら、ですけどね。みなさん、覚悟はよろしくて?」
「「「へい!」」」
なにがあっても、不義理は許さない。
それが極道、鷹城玄馬――否、悪役令嬢ヴェロニカ・フォン・ホークシュタインの流儀である。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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