表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
復讐は、冷やして食すのが一番美味い  作者: 結翔 〇
第2章 混乱 ― 過去と違う現在 ―

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/43

[28] イアン村へ――古守の樫の木 ①

 テンマが地を蹴るたび、胸がすっと開け、清々しい風が頬を抜けていく。

 今までの気鬱な出来事を忘れてしまいそうになる。

 だが、私には許されない。

 私はキャンディに尋ねた。

「王都は、どうなってる?」

「実は、数日前から貴族の賭場で狂人が出たと噂になっていた」

「賭場だけ?」

「そうだ。すぐに治安部隊と赤の騎士団が出張(でば)ってきたよ」

「警備隊じゃないの?」

「ああ。治安部隊だ。既に、何が起こっているのかわかっているってことだろう」

「第2王子の青の騎士団はどうしてるの?」

「これには関わってねぇな」

 国王は、第1王子のテオイに花を持たせる気なのだろうか。

「平民に被害は?」

「……わからん。箝口令が敷かれている」

「薬の元締めはわかった?」

「いいや、まだだ。だが、14番倉庫の黒ずくめはわかったぜ」

「え? 誰だったの?」

「治安部隊長、アドルフ・ベルジック侯爵」

 私は息を呑んだ。

 名前を聞いただけで、血の気が引いていく。

 14番倉庫では、声がくぐもっていて気づかなかった。

 ――また、あの男だ。

 1度目も、2度目も。

「お前は、本当に便利な駒だったよ」

 アドルフの声が、今も耳の奥に残っている。

「ピオニー、どうした? 大丈夫か?」

 キャンディの声で、私ははっと我に返った。

「ええ、大丈夫よ」

「膝が痛むんじゃないのか?」

 少し引きずっていただけなのに。

 キャンディの観察力は相変わらず鋭い。

「後ろは、だいぶ差がついたな。この先で休憩しよう。(ツェル)たちも待ってる」

 私は素直に頷いた。

「キャンディは、体調はどう?」

「さっき、見ただろう? すっかり良くなった」

 キャンディの穏やかな声に、張りつめていた体の力が抜けた。

 キャンディを修道院の地下牢で見つけた時には、こんな日が来るとは思わなかった。

「あの時……助けてもらった時のことは、この件が落ち着いたら、話す」

「無理に話さなくてもいいのよ」

「……俺が話したいんだ」

 その言葉を聞いた瞬間、鼻の奥がツンと痛んだ。

 私は手綱を握り直した。

 キャンディにバレないように、私はそっと鼻をすすった。


 木陰の青く茂った草むらをならし、私とキャンディは寝そべった。

 青空に薄く白い雲が流れていく。

 王都とは何もかも違う。

 私は、大きく深呼吸した。

「少しは気が晴れたか」

 キャンディが私の頭を優しく撫でる。

 それだけの行為なのに、胸の奥がふっと軽くなった。

 私は、空から視線を逸らした。

(ツェル)、次の村には、人は居た?」

 (ツェル)の3人は、既に木の上に控えていた。

「いいえ。廃村になってました」

 1番(エナ)が答える。

「『あれ』の形跡はあった?」

「いいえ。ですが、村長の日誌を手に入れました」

 私は起き上がって、1番(エナ)から日誌を受け取り、最後のページを開いた。

「……8日前の日付だわ」

「何て書いてある?」

 キャンディが私の肩から覗く。

「ロー執事から、村から出るように言われ、みな、ただならぬ話に面食らった。早く逃げなければ、とあるわ」

「ただならぬ話?」

「ん……小さい字で書いてある、ルディが戻ってきた。生気なし。薬をあおる。目の焦点が合わない、って」

「戻ってきた? 誰と?」

「それは書いてないわ」

 一人で戻ってきたのか? それとも、誰かが連れてきたのか?

 マリアドネが読んでいたロー執事の備忘録は、何日前が最後の書き込みだっただろうか。今は、フィリップが持っているから、後でもう一度、確認しなければ。

「薬は、例の薬だろうな」

 キャンディが口を挟んだ。

 薬をあおるぐらいだから、ルディ・デュラスは中毒者となり、普通ではなかったはずだ。

 何かおかしかった。尋常じゃない何か……。

 だから、執事が周囲に警告したのだろう。

「ルディ・デュラスは感染してなかったのかも」

「ああ。俺もそう思った。むしろ、感染源だな」

「感染源と知って、連れてきたのなら、許せないわ」

 私は唇を噛んだ。

「イアン村はどうなっていた?」

 私は、2番(ディオ)に尋ねた。

「村は防壁で囲まれ、出入りが制限されておりました。現在は、村の人間しか出入りできなくなっております」

「防壁? 中に入れなかったの?」

「はい、上からの見張りも多くおり、入る隙がありませんでした。申し訳ございません」

 2番(ディオ)が頭を下げた。

 私は、小さく息を吐き、体を起こした。

「どう思う?」

 1番(エナ)が私の問いに答える。

「イアン村は王都近郊の村と違い、先祖代々から住んでいる者が多いのです。後から領主が決まった村ですし、魔虫での苦労も多い。警戒心は人一倍強いのです。ですが、以前は、防壁はございませんでした」

 2番(ディオ)が言葉を継ぐ。

「様子がいつもと違っておりました。領主の騎士が防壁の至る所におり、入村を制しておりました」

「……妙ね」

 嫌な予感がした。

「妙なのは、あいつもだぞ」

 キャンディがニヤニヤして、後方を指した。

 フィリップが馬を駆り、一直線に迫ってくる。

 私は立ち上がって、指示を出した。

(ツェル)、先に行ってちょうだい。イアン村に着いたら防壁周辺で待機してて。後で、入れるように手配する」

「はい、団長」

 (ツェル)が去るや、フィリップの馬が勢いよく駆け込んできた。

 後ろのヴィルヘルムは、息を乱し、汗に濡れている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ