[27] イアン村へ――出口の少年 ②
私たちは、キャンディの提案でジャンの両親とシスターを火葬した。
「王族護衛騎士団に渡す必要は、ないだろ」
キャンディは言い捨てると、ジャンの頭をぽんと叩いた。
ジャンは、両親の残った骨を少しだけ拾い、残りは、私たちが土に埋めた。
遺骨は、アンナが持っていたピルケースに入れ、首から下げた。
「ありがとう」
ジャンは、ようやく口を開いた。
私は、ジャンを抱きしめた。
両親が変わってしまい、途方に暮れたはずだ。
私はジャンの肩をそっと離し、顔を覗き込んだ。
「ジャン、もう大丈夫よ。私たちがついてるからね」
ジャンは、大きく頷いた。
「他の人は、どこにいるの?」
「みんな、他の土地に移動しました」
「どうして?」
「父様が、村長さんたちに話したから。伯爵さまの様子が、なんか、変だって」
「あなたはどうして残ったの?」
「母様が病気で逃げられなかったから。教会に連れて行って隠れてました」
「それでシスターが看てくれていたのね」
「うん。母様やシスターに村長さんたちと一緒に村を出るようにって言われたんだけど……」
「出ていけなかったのね」
「うん……その後、父様が来て、すごく疲れていて、顔に傷があって、それで……」
「しばらくして、変わってしまったのね?」
「……うん。シスターが秘密の扉に連れて行ってくれて。それで、扉を閉める前に言ったんだ。『あれ』に変わった瞬間に人は神様の元へ召されるって、『あれ』は悪魔なのよって」
ジャンの目から、再び涙が零れる。
扉を閉め、砂袋を重ねたのはシスターだったのだ。
私は、ハンカチでジャンの涙を拭った。
「我慢しないで、たくさん泣いていいのよ」
ジャンは、しゃくりあげながら頷いた。
私は、ジャンの小さい手を握った。
「ジャン、私たちはイアン村に向かっているの。あなたも一緒に行かない?」
「……いいんですか?」
ジャンの問いにアンナがやさしく言葉を添えた。
「も、もちろん、いいに決まってます。きっと、イアン村を気に入りますよ」
私は、ジャンの手を引いて馬車に向かった。
「ジャン。2、3時間で着くからね。アンナさんとマリアドネさんとフィリップ様と仲良くするのよ」
「はい。でも、ピオニーお姉さんは、馬車に乗らないのですか? もしかして、僕のせいで」
「ピオニーお姉さんは、キャンディお兄さんと一緒に馬に乗るんだ」
ジャンが口を挟んできたキャンディを見て、目を丸くした。
アンナがキャンディを見て頬を染める。
「……お、お二人で馬に乗る姿は、そ、想像しただけでも、か、格好いいです」
「だろう?」
キャンディは鼻で笑い、得意げに顎を上げた。
「結婚前の令嬢が、ただの護衛と一緒に馬に乗るなんて、前代未聞だ」
突然、フィリップの怒った声が背後から聞こえた。
私が振り向くと、フィリップは不機嫌そうにキャンディを睨んでいる。
うーん……何だろう。この違和感。
私が黙っていると、キャンディはこれ見よがしに私の肩を自分に寄せた。
「ただの護衛じゃないし」
「はあ? 何を言う」
「俺たちは愛し合ってる」
キャンディの一言で、イアン村に向かう準備をしていた人々の動きが止まった。
フィリップは、顔が硬直していた。
周囲の者たちは、キャンディとフィリップ、そして私の顔を順に見た。
確かに、私はキャンディを愛してる。だけど、それは……。
「敬愛し合っている、ってことですよ、フィリップ様。け・い・あ・い」
私は、にっこり微笑んだ。
しかし、更に、しん、と静まり返ってしまった。
キャンディはニヤニヤしたままだった。
「そんなことより、早く、イアン村に行きましょう」
フィリップの顔の硬直が解け、不承不承といった様子で小さく頷いた。
私は、キャンディの後に続くと、そこには見慣れた黒い馬がいた。
「テンマ!」
離れて数日しか経っていないのに、嬉しくて抱きついた。
「ありがとう。キャンディ」
「どういたしまして」
キャンディは、私を軽々とテンマに乗せた。
「私が前?」
「俺が、お前に抱きつく」
キャンディは笑いながら、テンマに跳び乗ると私の腰に手を回した。
「見ろよ。フィリップが睨んでる」
キャンディが、顎で馬車を指す。
馬車の窓から、フィリップがこちらを睨んでいた。
しかも、かなり本気で。
「さっきから、何で怒っているのかしら?」
「んー、そうだな……まあ、お前は気にするな」
キャンディは、笑ってテンマを蹴った。




