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復讐は、冷やして食すのが一番美味い  作者: 結翔 〇
第2章 混乱 ― 過去と違う現在 ―

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[26] イアン村へ――消えた村人 ②

 翌朝、私たちは野菜が入ったスープを飲み干した。

 それだけでも、温もりが内側に染みわたり、呼吸が深くなるのを感じた。

 外は、青空が見え、草木は青々としていたが、道は少々ぬかるんでいた。

 私は、馬車に乗る前にマリアドネが読んでいた執事の備忘録をフィリップに渡した。

 そして、馬車に乗って直ぐに、備忘録から書きだした要点を説明した。

 フィリップもアンナも黙って聞いていたが、顔の険はとれなかった。

「カレルギス男爵は、噂に違わず、なかなか侮れない方ですね」

 フィリップは、冷えた笑みを浮かべた。

「か、感染か、そうじゃないか、の話ですが、せ、接触で感染することは間違いないと思います。そうすると、ルディ・デュラス伯爵ですが……」

 アンナがフィリップを見ると、フィリップは首を横に振った。

「あの状態では、判断がつきませんでした」

「そ、そうですか……フィリップ様、ご、ご遺体はどうされましたか?」

「王族護衛騎士団に報告したので、今日の午後には彼らが対処するでしょう」

「魔石は?」

「ここにありますよ。村に着いたら、アンナ嬢に調べてもらおうと思って」

 小袋を懐から出したフィリップは、久しぶりに笑顔を見せた。

 アンナもつられて笑った。

 馬車の中にこもっていた緊張が、ようやくゆるんだ気がした。

「魔石は報告をしなかったのですか?」

 私が問うと、フィリップは慌てて小袋を懐に戻した。

「渡すと面倒ですからね。見なかったことにしてください」

 そう言って、ウインクをするフィリップに思わず私も笑った。

「でも、バレませんか?」

「心配いりません。ご遺体には悪いが、細工をしてあります」

「フィ、フィリップ様は、さ、先のことまでよくお考えですね!」

 アンナがフィリップを褒めると、フィリップは苦笑した。

 その笑みに裏の意図があることに、私は気づいている。

 誰だって、余計な疑いは避けたいから。

「もうすぐ、デュラス伯爵領の村に入ります。イアン村の2つ前にある村です」

 マリアドネの声に、私は外を見た。

 村の外周に沿って、低い木柵と粗末な小屋や簡易な櫓が見えた。

 外敵の侵入を防ぐはずの木柵の柱は朽ち、間に張った有刺鉄線は切れて、それぞれの役目を放棄していた。

「わ、私がアカデミーに向かった時には、む、麦の茎が伸びて穂も出ていたんです……」

 4ヶ月前とは違う荒れた耕地を見つめるアンナの声は、沈んでいた。

 村の中央部に入ると、広場が見えた。

 周囲には民家もあったが、その多くは、扉が傾き、窓は割れていた。

 そして、人の気配はなかった。

 不気味に静まり返った村の奥に教会が見えた。

 鐘堂には、祈りの時間や慶事を告げるはずの鐘はなかった。

「教会に行ってみましょう。誰かいるかもしれません」

 フィリップはそう言うと、馬車の窓を開け、従者に指示した。

 教会の前に着くと、扉は開いていて、フィリップの騎士が出てきた。

「誰も居ません」

 私たちは、教会の中に入った。

 身廊の先にある祭壇は粉々になり、長椅子のほとんどがバラバラになっていた。

 正面に掲げていたはずの十字架は、影だけを残していた。

 一体何があったのか。

 壁には、血肉のようなシミはなさそうだ。

「奥に行ってみましょう」

 私はフィリップに声を掛け、身廊を歩いた。

 祭壇までくると、左側の扉は無くなっていて、右側の扉は閉められていた。

 私たちは扉が無い方を選び、礼拝堂を出た。

 廊下には小さな窓が並び、日の光を取り込んでいた。

 食堂と厨房が並び、最後に階段があった。

 階段は鐘堂に続いているのかもしれない。

「先に食堂を見ましょうか」

 フィリップは、私に声を掛けた後、食堂の扉を開けるように護衛騎士に命じた。

 中ではテーブルが中央から割れており、8つの椅子が傍に転がっていた。

 窓からは、庭が見えた。

 庭にはブランコがあり、誰もいないのに揺れていた。

 私たちは、その隣の厨房に移動した。

 厨房は食堂ほど荒らされていなかったが、壁に取り付けた食料棚の食料はすべて消えていた。

 他に作業台があり、砂埃を被ったまな板が乗っていた。

 私は、作業台の下の扉を開け、のぞき込んだ。

 中には、麻袋が積み重なっていた。

 小麦かと思ったが、破れたところから、砂が零れている。

 厨房に、砂袋……何のために?

 私は護衛騎士に頼んで、袋を出してもらった。

 再びのぞき込むと、奥には窪んだ引き手があった。

 作業台と同じ木で作った引き戸だ。

「なるほど。隠し扉ね」

 私は思わず、呟いた。

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