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復讐は、冷やして食すのが一番美味い  作者: 結翔 〇
第2章 混乱 ― 過去と違う現在 ―

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[24] イアン村へ――異形の屍 ③

「……私がコロニーに到着した後、1匹のクィーン・ウシュが出てきました。毒が効いて弱っていたので、すぐさま首を切りました。当然、頭は転がったのですが……別の頭が切ったところから出てきたのです」

「再生……したというのですか」

 フィリップは確かめるように言った。

「そうです。切った首の肉が盛り上がり、同じ頭が作り出されました」

「も、元々あった頭と再生された頭は、全く同じだったのですか?」

 アンナの問いに私は正直に答えるか迷った。

 だが、この先、何があるかわからない。事実は正しく知っておくべきだろう。

「目の色が違いました。元々の頭は『赤』、再生した頭は『白い』目をしていました。それと魔石……中に入っていた核のサイズが全く違っていました。これは、お二人とも記憶に新しいでしょう?」

 フィリップもアンナも大きくうなずいた。

 パウルが口にした「1ルーブルと2グラーネ」という数字が、否応なく脳裏に蘇った。

「1ルーブルの魔石があれば、この屋敷なら3年分の灯りが賄えますね」

 フィリップが顎に手をやりながらつぶやく。

「ま、魔道具の品質も持続性も上がります」

 アンナも目を輝かせて言葉を重ねた。

「でも、何故、再生できたのでしょうか。亜種でしょうか?」

 フィリップは別の視点から言葉を継いだ。

 私は、14番倉庫での出来事を思い出した。

 恐らく、カンビセス侯爵とレノドン伯爵たちが言っていた『薬』が関係しているだろう。

 だがまだ、確証はない。

「わかりません」

 私は頭を左右に振った。

――その時、応接室の外から甲高い叫び声が屋敷に響き渡った。

 廊下が一気に騒がしくなる。

 悲鳴と怒号、慌ただしい足音が重なる。

 私たちは咄嗟に立ち上がり、私は傍らの剣を掴んだ。

 次の瞬間、壁際に掛けられていた肖像画が大きく揺れ、絵を突き破って『それ』が出てきた。

 『それ』は、かつて貴族だったはずの男。

 裂けた上着に泥と血を滲ませ、布は肌に張りつくように歪んでいる。

 伸び放題の髪が顔を覆い、覗く眼孔の奥で、濁った光がぎらついていた。

 『それ』は、私たちの前に立つと、獣のような咆哮を上げた。

「みなさん、壁際に下がって。マリアドネはアンナさんを!」

 私は『それ』から視線を外すことなく、叫んだ。

「ピオニー嬢、どうする?」

「首を切るしかなさそうです。お先にどうぞ」

 私は、フィリップに先を譲った。

「喜んで」

 フィリップはニヤリと笑うと、床を蹴り、唸りを上げる刃で『それ』の首を狙った。

 だが、『それ』も素早かった。

 すぐに床を叩くように跳ね退き、フィリップの刃の軌道をかわした。

 続けざまに壁へ飛びつき、蹴り返す反動で一直線に私に向かってきた。

 口から涎が絶えず流れ、揺れる髪の間から赤い目が光った。

 私は剣を構えた。

 フィリップが仕留め損ねたのなら、私が終わらせればいいだけだ。

 だが、衝撃音とともに、『それ』の身体が壁へ叩きつけられる。

 背後に回り込んだフィリップが、回し蹴りを叩き込んでいた。

 壁は崩れたが、『それ』は、すぐに体勢を立て直した。

 片方の肩は崩れ落ち、あちこちの砕けた骨が裂けた皮膚を突き破って剥き出しになっていた。

 どす黒い血と肉片が混じり合い、腐臭を帯びた液体となって滴り落ちる。

 それでも立っている。

 普通の人間ではありえない。

 まさに異形の屍(いけいのしかばね)ではないのか?

 次の瞬間、『それ』はアンナの方へ向きを変えた。

 ――だが、そこまでだった。

 銀の閃光が頭上から縦一線に走り、狂気の身体はフィリップの剣で真っ二つに断たれた。

「まだ動いてますね」

 マリアドネが私の背後から声を上げた。

 真っ二つになった異形の屍は、立ち上がろうともがいていた。

「やっぱり、首と頭を分離させたほうが良いのですか?」

 フィリップが異形の屍に近づき、見下ろす。

「フィリップ様、頭に魔石はありますか?」

 壁際からアンナが尋ねる。

「ええ。魔石も割れて、頭の左右に埋まっています」

「では、右側の頭から魔石を取り除いてみていただけますか」

 アンナが依頼するとフィリップは右側の頭に埋まっていた魔石を取り除いた。

 すると右側の異形の屍は動きを止めた。

「フィリップ様、今度は、左側の頭を首から切り落としてみていただけますか」

 フィリップの一太刀で、左側の異形の屍の頭が切り離された。

 今度は切り取られた首の断面が盛り上がり、(うごめ)いた。

 私は息をのんだ。再生しようとしている。

 だが、肉が盛り上がったまま形にはならなかった。

 魔石の量が少なすぎるのか……疑念が頭をよぎった。

 その時、扉が乱暴に開き、フィリップの騎士が叫んだ。

「フィリップ様! もう抑えきれません!」

 騎士の背後から怒号や咆哮が途切れない。

 しまった。目の前の化け物に気を取られ過ぎていた!

 フィリップが躊躇なく踵を返し、部屋から出ていく。

「マリアドネ、肖像画を見張って! 同じような者が出てきたら切りなさい」

「お任せください」

 マリアドネはすぐに一歩前へ出て、隙のない構えを取った。

「そこのあなた! 扉を閉めて!」

 私はそう叫ぶと、フィリップの後を追った。

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