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復讐は、冷やして食すのが一番美味い  作者: 結翔 〇
第2章 混乱 ― 過去と違う現在 ―

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[24] イアン村へ――異形の屍 ②

 アンナが部屋に合流してすぐに、フィリップの従者から応接室に案内された。

 蝋燭の火で室内は明るく、4人掛けのテーブルが中央にあった。

 中で待っていたフィリップは、穏やかな表情を浮かべていた。

 軽く流した前髪と引き締まった顎の線が、若さの中に知的な印象を与えている。

「食堂より、こちらの部屋のほうがこぢんまりしてよろしいかと思いまして」

 そう言って、フィリップは慣れた仕草で椅子を勧めた。

 マリアドネとフィリップの従者、それに護衛の席は、壁際に控えるように用意されている。

 テーブルに並ぶご馳走が、私たちの空腹を刺激した。

「お、美味しそうです」

 アンナのお腹がキュルルと鳴り、顔を赤らめた。

 フィリップの従者が椅子を引いてくれ、私はフィリップの向かいに、アンナは私の隣に腰を下ろした。

 パンや前菜、焼き上げた肉を取り分けてもらい、私たちは静かに食事を始めた。

 屋敷や温泉の話など、たわいもない穏やかな会話が進む。

 厨房に火を熾すだけでも骨が折れただろうに――ただ、フィリップに感謝するしかなかった。

 私にとって、彼は本来、招かれざる同行者だったはずなのに。

 私は心の中で苦笑した。空腹は、思った以上に判断を鈍らせる。

 私たちはあっという間に食事を平らげた。

 食後のお茶が出てから、私はフィリップに尋ねた。

「この屋敷のデュラス伯爵はご病気で亡くなったのでしょうか」

「……クルト・デュラス伯爵は、1年くらい前に自死したと聞いております」

「ご子息は、失踪してどのくらいになるのですか」

「ルディ・デュラス伯爵は失踪して今月で8ヶ月くらいだと思います。他に親族がいらっしゃないようで、探索は1ヶ月もなかったようです。ああ、ちょうど、あそこに肖像画が……」

 フィリップが指した方向を見ると扉の半分ほどの大きさの絵が壁に掛けられていた。埃でくすんで見えるが、顔ははっきりと見えた。

 真ん中にクルト・デュラス伯爵の妻であろう女性が椅子に座り、それを囲むように男が2人、立っていた。

 クルト・デュラスは、茶色の髪をきっちりとサイドへ流していた。

 整った顔立ちに、引き結ばれた口元が相まって、どこか生真面目な印象を与えた。

 一方で、ルディ・デュラスはやや丸みを帯びた卵型の顔立ちにあどけなさが残っていた。髪は中央に座る女性と同じダークブラウンで、ウェーブがかかっていた。

「ルディ様は、おいくつで失踪されたのですか」

「21歳と聞いています。あの絵は、彼が10代になったばかりの頃かもしれません。夫人はご当主より先に病気で亡くなったと聞いてますから」

「さすがに情報通ですね」

 私が思わず褒めると、フィリップは少し頬を染めた。

「商会で最も価値があるのは、人と情報ですから」

 なるほど、その通りだ。私は無意識のうちにうなずいていた。

 その時、稲光が窓のカーテン越しに見え、落雷の音が鳴った。落ち着いていた雨音が窓にバチバチと鳴り出した。

「あ、明日は、イアン村に向かえるでしょうか」

 アンナが心配そうにフィリップに尋ねる。

「今夜中に嵐は止むと、みてますよ」

 アンナの顔が明るくなる。

「そうですか! 良かった。では、馬車の中での話の続きをしましょう!」

「2匹のクィーン・ウシュですね」

 フィリップもアンナに便乗するように口を開いた。

 私は小さく深呼吸し、アンナとフィリップを見た。

「他言無用を誓えますか」

 アンナとフィリップが片手を上げて声を揃えた。

「誓います」

 私は覚悟を決めた。

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