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復讐は、冷やして食すのが一番美味い  作者: 結翔 〇
第2章 混乱 ― 過去と違う現在 ―

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[23] イアン村へ――歪みの代償 ①

 14番倉庫での出来事から1週間経った。

 私は、アンナに招待されて、アンナの故郷のイアン村に馬車で向かっていた。

 マリアドネを伴った2週間の小旅行のつもりで来た。

 回帰前も今も、旅行はしたことがなかったので、正直、楽しみだった。

 なのに……。

「アンナさん。どうして、フィリップ様も同席されているのでしょう」

 私は、向かい側に座っているフィリップを見ながらアンナに問いかけた。

 貴族にありがちな装飾は身につけず、旅慣れた者のような動きやすい服装には好感が持てた。

 だが、場違いな同行者のはずなのに、フィリップは最初からそこにいたような顔をしている。

「あ、そ、それは」

「護衛兼仕事ですよ。馬車もホームズ子爵の馬車ですし」

 アンナの答えを遮り、フィリップが穏やかな笑みで返答した。

 私も負けずに口元に笑みを浮かべながら、フィリップを見つめ、その笑顔の奥を、値踏みした。

「ええ、わかっております。これ見よがしに家紋が彫られてますもの」

「ピ、ピオニー様、フィリップ様からは、さ、昨日、お申し出がありまして。ご、ご連絡する時間がなかったのです。も、申し訳ございません」

「アンナさんが謝罪するのは、おかしいですわ」

 私はフィリップをじっと見つめた。

「で、でも」

 アンナがおどおどしていると、フィリップが咳ばらいをして、私を見つめ返した。

「ピオニー嬢、私は先日の競技大会でアンナ嬢の魔道具に魅せられまして、是非、この機会に現地に赴き知見を深めたいと思い立ったのです。私どもの都合で、アンナ嬢やあなた様には大変ご迷惑をお掛けいたしました」

 フィリップは笑顔を隠し、頭を下げた。

 ホームズ商会は帝国一の商会だ。そこでアンナの魔道具を扱いたいのだろう。

 抜け目のない男だ。油断はできないが、見る目はあるのかもしれない。

 そうだ。私の目的は二つ。アンナとの距離を縮めることと、村の魔虫を確かめること。

 フィリップのことは、頭の片隅に追いやろう。

「わかりましたわ。私もアンナさんのお人柄や魔道具には驚嘆いたしましたもの」

 フィリップの表情が、わずかに和らいだように見えた。

「ぴ、ピオニー様、私、ピオニー様のおかげで金貨100枚(1000万円相当)とアカデミーの学費免除にもなり、ほ、本当に嬉しかったです。ありがとうございました」

 アンナは目を潤ませ、私を見つめた。

「アンナさん。私は正しいことをしただけです。どうぞ、もう気にしないでください」

「で、でも、私には過分すぎて」

「何度も申しておりますが、あなたの実力ですよ。それだけの価値があったのです」

「そうですよ。アンナ嬢。魔道具のテデンは帝国でも見たことがなかったですし、30分も魔物に気づかれないオヘルも、私は初めてでした」

 フィリップもアンナを正当に評価できているようだ。

「しかも、テデンは、ロイヤルパテントになる可能性があるとか」

 ロイヤルパテントとは、国が守ってくれる特許を得ることだ。

 私は、胸の奥がふっと温かくなるのを感じ、そっと微笑んだ。

「それなら、研究費も出ますし、商品になれば継続的に収入も得られますわね」

「はい、そ、そうなると村のみんなにも、もっと喜んでもらえると、お、思います」

「イアン村は、確か、ドルバック男爵領でしたわね」

 当主のポール・ドルバックは首都に邸宅を構え、酒にギャンブル、女と遊んでいる。レバノン伯爵のグループの一人のはず。

「前当主のルネ・ドルバック男爵様は領民思いのとても素晴らしい方だったとお聞きしていましたけど」

 私のつぶやきに、アンナは唇を少し噛んだ。

「る、ルネ様は、村によく来てくださってました。わ、私が、ま、魔道具に興味を持ったのは、る、ルネ様のおかげです。で、でも、3年前に、急にお亡くなりになりまして」

 私は、アンナの『急に亡くなった』という言葉が気になったが、尋ねるのを控えた。

 そのとき、遠くで低い雷鳴が転がった。

 私たちは同時に窓の外へ視線を向けた。

「天気が急変しないといいのですが……」

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