表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
復讐は、冷やして食すのが一番美味い  作者: 結翔 〇
第2章 混乱 ― 過去と違う現在 ―

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/34

[21] 量られる価値

 私は、木々の間を一気に駆け抜けた。

 少しすると、「残り3分です」と繰り返す無機質な機械音が私を追いかけるように鳴り響いた。

 枝が顔を掠め、頬に痛みを感じたが、気にしている暇はない。

 足を止めれば、その瞬間にもつれて転ぶ気がした。

 視界の先にゲートはまだ見えない。

 それでも、私は速度を落とさず走り続けた。

 「残り60秒です」と機械音が、容赦なくハーラク全体を覆った。

 それを聞いて、私はさらにスピードを上げた。

 無駄な動きを削ぎ落とし、速度だけを残す。

 久々に、身体の制限を外した走りは、意外にも心地よかった。

 走る視界の中で、前方にひときわ大きな動きが跳ねた。

「あ! ぴ、ピオニー様だ! ピオニー様!」

 木々の隙間の向こうで手を振っているアンナをようやく捉えた。

 「残り30秒です」と機械音が、ハーラク全体に冷たく響いた。

「何してたんだ。遅いじゃないか!」

 サイラスが怒気を含んだ顔をした。

「サイラス先輩、怒るのは戻ってからでいいだろう? もう行こう!」

 レイモンドがいらだって、ピオニーの代わりに答えた。


 私たちは、ゲートをくぐり、元の場所へ戻ってきた。

 そこには、マスクをつけた白い服の人たちが3人いて、私たちを待っていた。

 全員、アカデメイアの腕章をつけていた。

「お疲れさまでした。私たちは、剣術Eチームの救護隊です。私が、リーダーのパウル・レスラーです。早速ですが、みなさんは、ハーラクの救護所にはいらっしゃいませんでしたが、怪我した方はいなかったのですか?」

「僕! 僕! ヤトゥシュに刺されました!」

 レイモンドは、卵くらいに腫れている頬を見せた。

 アカデメイアの救護隊員は感嘆した。

「これは、素晴らしい。だいぶ、腫れが引いたようですね。他のチームはもっと酷いですよ」

「これも、アンナちゃんのお蔭だよ!」

 レイモンドは涙で濡れた目でアンナを見た。

 アンナは恐縮し、頭を振った。

「いいえ、そ、そんな……く、薬を持ってたので、幸運でした」

 女性の救護隊がアンナの前に立った。

「アンナ・ギーニさんですね。私は植物を研究しているフリーダ・ボックと言います。アンナさんの薬は、提出してもらえますか。成分を確認させてください」

 アンナは少し躊躇したが、うなずいて、救護隊員に渡した。

 その間、パウルやフリーダより若い救護隊員がピオニーの頬に視線を向けた。

「私は、ダーフィト・ブラントと言います。ピオニー・レノドン嬢、頬に傷がいくつかありますね。こちらで薬を塗りましょう」

 この救護隊員は、事前に剣術Eチームの顔と名前を把握していたらしい。

「はい、ありがとうございます」

「ああ、その前に」

 パウルが、丸いテーブルに置いた四角い箱を指さした。

「先に、お一人ずつ、封印袋の中身をあの箱の中に出してください。計量します」

 封印袋の外見からは、魔石の量を測れない。

 そのため、計量用の箱が用意されていた。

 サイラスが封印袋を腰から取り出し、中身を箱の中に入れた。

 箱の表面に重量が出る。

「45.5グラーネ」

「一粒、約1グラーネって、ことか。思ったより少ねぇな」

 サイラスが不機嫌そうにつぶやいた。

 続いて、レイモンドが中身を出す。

「23グラーネ」

 サイラスの唇の端がほんの少し吊り上がった。

 次にフィリップが中身を箱に入れる。

「20グラーネ」

 フィリップは、ちょっとだけ肩をすくめた。

 次は、私だった。

 私は、腰から封印袋を二つ出した。

「こちらが、私で、こちらはアンナさんのです」

 パウルが笑みを浮かべた。

「どうしてアンナさんの封印袋をお持ちなのですか」

「預かりました。アンナさんはチームを守る必要がありましたので」

「代わりにあなたが入手したんですね」

「はい」

 私が返事をすると、パウルはアンナに視線を移した。

「アンナさん、間違いないですか」

「え?」

 アンナの視線が一瞬泳ぎ、その後、私を見た。

 私は安心させようと、小さくうなずき、ほんのわずか口角を上げた。

 アンナも小さくうなずいた。

「ええ、は、はい。預けたのは事実です」

「わかりました。では、あなたの封印袋から箱に出してください」

 私が封印袋をひっくり返すと、箱の中に4つの魔石が落ちた。

「4グラーネ。では、続いてアンナさんの封印袋を」

 私はアンナの封印袋をひっくり返した。

「こ、これは?」

 一瞬で空気が張り詰めた感じがした。誰もが、凝視していた。

「ふ、2つも? ……」

 パウルは言葉に詰まったまま、私を見つめた。

「すみません。魔石を取り出す時間が無かったので、そのまま袋に入れてきました」

 私は頭をかいた。

「何なんだ、これは!」

 張り詰めた空気は、サイラスの怒鳴り声で破られた。

「クィーン・ウシュの頭ですけど。何か?」

 サイラスは顔を赤らめた。喉から手が出るほどほしかったクィーン・ウシュの頭が、二つ、目の前にある。

 だが、ここで言い張れば、手柄を横取りしたと噂される。

 その代償は、赤の騎士団の団長候補としての面目だった。

 さて、サイラスはどう出るのか?

 己の欲と体面の間で揺れるその表情が、あまりにも分かりやすくて可笑しい。

 私は喉の奥で笑いがこぼれそうになるのを、なんとか飲み込んだ。

 突然、笑い声が響いた。パウルだった。

「すばらしいですね、ピオニー嬢。この2体の魔石は私たちで取り出しましょう」

 パウルはフリーダとダーフィトに目で合図をすると、長いテーブルを用意した。

 テーブルの上に魔法陣を書き、クィーン・ウシュの頭を2つ並べた。

 ダーフィトが鑑定用の魔道具を取り出し、スキャンした。どこに魔石があるのか確認するためだろう。

 スキャンの結果をパウルが目にし、つぶやく。

「こっちは随分大きな魔石ですね。もう一つのほうは2グラーネくらいのサイズかな」

 そうこうしているうちに、パウルたちは魔石を2つ取り出した。

「1ルーブルと2グラーネ」

 私は向かい側にいたアンナを思わず見た。

 アンナもまた、目を丸くしてこちらを見ていた。

「すごいな! 1ルーブルって、この国では1,000グラーネってことでしょう? すごいです。アンナさんの努力も報われましたね!」

 フィリップも嬉しそうにアンナを見る。

 アンナはすかさず、私の傍に来ようとしたが、驚きで腰が抜けたらしく、膝が崩れた。

 床に手をついて、涙目で私を見上げている。

「ぴ、ピオニー様、わ、私、いいのですか?」

 私は膝をついて、微笑んだ。

「あなたは危険を顧みず、私たちを守ろうとしてくださった。その献身に報いるのは当然のことですわ」

「そうだよ。僕も嬉しいよ、アンナちゃん」

 レイモンドまで喜んでいる。

 しかし、サイラスは俯いたまま無言で立っていた。

 ようやく顔を上げたサイラスの目は、嫉妬と屈辱が混ざり合って鈍く沈んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ