[18] 避けられぬ試練の始まり ①
校長先生は、話を続けた。
「察しの良い者は気づいているだろう。今回は我がアカデミー及びアカデメイアの人工ダンジョンにある第3階層『ハーラク』で競技を行う」
「まいったな。僕、虫は嫌いなんだけど」
レイモンドが顔をしかめ、自分自身の身体を抱きしめて身震いする。
「では、詳細は剣術競技の主幹事であるハルトマン先生に説明してもらう」
ハルトマン先生が校長先生に一礼して、演壇に上がる。
「諸君、近年、魔物の種類が増えていることは承知しているだろう。特に昆虫の魔物の進化はすさまじい。アカデメイアの研究者も必死に研究しているが、他の魔物と違って個体数が多く、追いつかないのが現状だ」
私は息を吞んだ。回帰前はそんなことがあっただろうか。
理由もわからないまま、嫌な予感だけが後を引いた。
ハルトマン先生の話が続く。
「そんな現状を踏まえ、『ハーラク』で魔虫を倒し、『核』を入手しろ」
ハルトマン先生の言葉に、体育館がさらに静まり返る。
魔虫の『核』は、希少な『魔石』に匹敵するほどの力を持つ。
これを入手しつつ、多くの魔虫の弱点を知ることも今回の目的に含まれるのだろう。
「『ハーラク』では、各グループが8つのエリアに配置される。まずは、グループのリーダーを決めろ。その後は定刻まで作戦を練ってくれ」
生徒たちは、みな静かになっていた。
「チームには魔導士が1人いる。魔導士は魔道具を5つまで保持してよい。他の4人の剣士は5本までの剣やナイフの刃物を保持を許可する」
私はすぐに、持参する剣やナイフを思い浮かべた。
「アカデミーから支給するのは、『核』を入れる封印袋と危険を回避するこの魔道具のみ」
ハルトマン先生は、銀細工のアカデミーの紋章を見せ、中央の赤い鉱石を指した。
「これは魔石で作られた希少な魔道具だ。この魔石を押して、”アニ・ニフナ”と叫べば、ゲートに戻る。チーム内の1人でも叫べば、全員、ゲートに戻る。それが、制限時間内であれば、全員失格となる」
生徒たちのほとんどが溜息をついた。
早々にチームから抜けようにも、それがメンバー全員の責任になるなら、簡単ではない。
「救護隊は8つのエリアにいる。当日は、今、配布している地図を忘れるな。救護は応急処置になる。戦闘続行が不可能と判断した場合は、例の魔道具で帰還しろ。何か質問はあるか」
質問する者は一人としていなかった。
「……ああ、言い忘れた。例年、辞退者はいないが、参加を辞退したい者は今日中に申し出るように」
ハルトマン先生はにやりと笑うと演壇を下りた。
私たちは机を囲んで座った。
「さて、リーダーはどうしようか」
レイモンドが私とサイラスを交互に見た。
「もちろん、俺だろう。魔物退治の経験もある」
「うん、それも良さそうだけど、ピオニー嬢の剣術もすごいという噂だし」
「レイモンド様、噂は噂ですよ。私もサイラス先輩が適任だと思います」
アンナやフィリップもうなずいている。
「じゃあ、決まりだね。良かったね、サイラス先輩」
レイモンドはサイラスの肩を叩いた。サイラスは不機嫌そうに顔をしかめた。
「お前は、馴れ馴れしいのだ。もっと敬意を払え」
レイモンドは、わずかに肩をすくめ、どこか諦めたようにも見える笑みを浮かべた。
「サイラス先輩、私は本での知識しかないので、魔虫の情報を共有いただけませんか」
私はサイラスを見つめた。
60分間チームに居続けるには、ある程度の策が私にも必要だ。
キルコス傭兵団の任務で魔虫と戦ったこともあるが、最新の情報は入れておいたほうが良い。
サイラスは、咳ばらいを1度すると、話し始めた。
「最も多い魔虫はズヴーヴだろう。瘴気に蝕まれた蠅だ。通常の蠅は瘴気に耐えられず死んでしまうが、生き残る蠅がいる。それがズヴーヴだ。ズヴーヴは赤い縞模様と青い縞模様の2種類が発見されていて、赤のズヴーヴは血を吸い、青いズヴーヴは肉食だ。いずれも生き物に卵を産み付ける。屍ではなく、生きているモノにだ」
レイモンドの顔が歪む。
「次に多いのは寄生虫のトーラア、這い回るものであるシェレツの順だ」
サイラスは、こちらを見下ろすように、わずかに口角を上げた。




