[17] 運命に逆らえぬ剣 ①
競技大会の「演目」がしっくりこなかったため、「種目」と変更しました。その他、少し文言を修正しております。(2025/12/24)
編入1週間後のホームルームでアカデミー恒例の競技大会が議題に上がった。
グレイ先生が資料を配りながら話し始める。
「競技大会の種目を配布する。参加する種目を決めて、明日のホームルームで参加書を提出するように」
競技大会の種目は、音楽やダンス、刺繍、自然科学、魔道具、乗馬、剣術の7つだった。
女生徒の多くは、音楽か刺繍を選び、どちらも苦手な人はパートナーを伴ってダンスを選ぶことが多いと聞く。
私は、『自然科学』を選んで研究論文を書こうと思っていた。
テーマは、『庭園』。母との楽しかった思い出を研究課題として、発表することで母の面影を文字に残したい。
次の日、グレイ先生に参加書を提出すると放課後に残るように言われた。
教室でグレイ先生を待っていると、場所を変えると言われて嫌な予感がした。
黙ってついて行くと、私は校長室に連れて行かれた。
「ピオニー君、座ってくれたまえ」
校長先生は慇懃に言い、私は挨拶もそこそこに校長先生の前に座った。
グレイ先生はドアの近くの下座に腰かけた。
「競技大会の件だが、君には『剣術』の種目に参加してほしい」
校長先生の直球過ぎる言葉に私は一瞬顔をしかめた。
「王立アカデミーは、生徒の自主性を重んじると認識しています」
私が口を開くと、校長先生は大きくうなずいた。
「そうだ。だが、優秀な生徒の潜在能力を伸ばすのも大事なのだ」
潜在能力を伸ばしてほしいと私は頼んでませんが……と、喉まで出かかったが、私は沈黙を選んだ。
「君には剣の素質がある。それを伸ばしたい」
「素質なんて大袈裟な……それに競技中に身体がもつか、自信がありません」
私がそう返すと、校長先生は一瞬だけ目を細めた。
「編入試験の剣さばきは誰もが絶賛していたぞ」」
グレイ先生が横から口をはさみ、校長先生を援護する。
「剣術は救護体制も万全だし、5人で1チームで60分勝負。問題ないんじゃないか」
校長先生もグレイ先生も、私の承諾を待つように身じろぎ一つせず、逃げ場のない視線を向けた。
私は微笑みを浮かべたまま、心の中で大きなため息をついた。
別邸に戻り、マリアドネと厩舎に行った。
別邸の馬丁は2人いる。双子のトムとベンだ。
私たちにとって、気心の知れた存在だ。
「ただいま、放牧中です。連れてきましょうか」
トムが丘で遊んでいる馬たちを指さした。
「いえ、大丈夫よ。あちら側で見るわ」
私はマリアドネを伴って、少し小高い丘に向かった。
丘に立つと他の馬と楽しそうに走り回っているテンマがよく見える。
「楽しそうね。少し、気が晴れたわ」
「……まさか剣術の種目に参加するとは」
マリアドネが呆れたように私を見る。
「先生たちの圧がすごくてね」
私は、校長先生とグレイ先生が顔をせり出して間合いを奪ってきた時を思い出して、苦笑いした。
「……競技大会で強さを見せてしまうと、王室の目に留まる可能性があります」
「そうなったら、かなり面倒よね」
回帰前の2度目の人生では、私は剣術で生計を立てる予定だったから、当然、剣術の種目を選んだ。
だが今世では、その選択がどれほど厄介な結果を招くかを知っている。
剣術が縁で、競技大会ではテオイと同じチームになり、恋が芽生えるなんて。
このことを知っているのは、キャンディだけ。
私は、マリアドネに余計な心配をかけたくなくて、回帰の話をしていなかった。
「でも、同じクラスの子とは同じチームにならないルールだし、テオイに配慮してマシューは剣術を選んでないから、大丈夫よ」
私はマリアドネに微笑んだ。
マリアドネは無表情を崩さなかった。
だが、その奥にある消えきらない翳りを、私は見逃せなかった。




