魔王軍を追放されたネクロマンサーは田舎で農業スローライフを始める
【1日目】
魔王軍をクビになった。
勝手に配下の魔族を解剖し、実験に使っていたのがバレたのだ。
罪人として粛清されそうになったので、備蓄していた数万体のゾンビを解放して、そのどさくさに紛れて逃亡した。
今頃、魔王城は大騒ぎに違いない。
わっはっはっは、ざまあみろ。
【2日目】
追っ手を警戒しながら移動していると、森の中に廃村を発見した。
食い散らかされた死体が散乱している。
魔物の襲撃を受けたようだ。
おそらく野生の群れだと思われる。
魔王軍も人間を虐殺するが、こんな僻地の小さな村を潰す意味がない。
少し考えた末、私はこの廃村を貰うことにした。
行き先もなく移動し続けるのは面倒だったので、この辺りで仮拠点を作ってもいいだろう。
さっそく私は死霊術で死体をゾンビ化していく。
そして起き上がったばかりのゾンビ達に荒れた村の整備を命じた。
村人ゾンビは、脳に残された記憶を参照して自律行動する。
放っておけば勝手に命令を遂行してくれる。
ちなみに記憶の参照は、直近の実験で開発した応用技術である。
これがあれば、魔王軍の戦力を劇的にアップさせて、噂の勇者パーティも倒せたはずだった。
魔王も惜しいことをしたものだ。
【3日目】
翌朝、荒れ果てた村は綺麗になっていた。
建物の修理も行われており、畑まで丁寧に耕されている。
村人としての経験と記憶で自己判断したらしい。
私は素晴らしい働きを披露してくれた村人ゾンビを褒める。
ここまで整備されたのだ。
せっかくなので農業でも始めようと思う。
元々、魔王軍が世界を支配したら、隠居して農家になるつもりだった。
煩わしい争いから解放され、悠々自適に暮らすのが最終的な目的だった。
本来の予定とは違うが、結果的に夢が叶うのだから悪くない。
この日は今後の計画を練りつつ、合間に村人ゾンビの働きぶりを観察しているうちに終わった。
【4日目】
予想外の事態が起きた。
村に鎧を着た少女がやってきたのである。
擦り減った安物の装備を見るに、駆け出しの冒険者だろうか。
少女は、私を見た途端に攻撃を仕掛けてきた。
仕方ないので村人ゾンビで食い止めて拘束する。
なぜいきなり攻撃してきたのか尋ねると、少女は「お前がネクロマンサーだから」と答えた。
清々しいほどの職業差別だ。
まあ、割と常識に近い認識ではあるし、周囲から嫌悪されるのは慣れている。
別に傷ついたりすることはなかった。
とりあえず少女は気絶させてベッドに寝かせておく。
その際、家屋にあった書物を読んでみる。
内容は古のネクロマンサーが剣聖に倒される話だった。
私は空想の世界でも悪役らしい。
【5日目】
早朝に少女が目を覚ました。
彼女の名前はアン。
やはり冒険者だった。
私に敵わないと理解したのか、アンは昨日と打って変わって大人しかった。
おかげで平和的に会話することができた。
改めて事情を聞いたところ、アンはギルドの依頼でここに来たらしい。
ある日、村の人間からの連絡が途絶え、それを不審に思った者が調査依頼を出したのだという。
説明を終えたアンは、私が村を滅ぼしたものとして糾弾し始めた。
私はすぐさま訂正する。
私が来た段階で既に魔物に荒らされていたことを伝えると、アンは半信半疑だったがひとまず納得する。
同時に彼女は「村を滅ぼした魔物を見つけて倒したい」と主張してきた。
さらに「自分の力では困難だから」という理由で私に協力を要請する。
人知れず殺された村人達の仇討ちのつもりなのだろうか。
正直、提案に乗る義理は欠片もないが、わざわざ断る理由もない。
暇潰しにちょうどよかったので、私はアンの頼みを承諾した。
さっそく魔物の捜索のために村人ゾンビを森に放つ。
あとは待っているだけで勝手に居場所を突き止められるだろう。
その日はのんびりと過ごして就寝した。
【6日目】
村人ゾンビが件の魔物を見つけた。
私はアンと共に向かう。
そこは洞窟だった。
内部から濃密な魔力が漂ってくる。
付近で他に強い反応はないので、ここにいる魔物が村を滅ぼしたのは間違いなさそうだ。
念のためゾンビの一部には捜索を続行させておく。
万が一、別の魔物が見つかれば順番に狩るだけである。
洞窟に奥に進んでいくと、赤い目の狼が襲いかかってきた。
私は村人ゾンビをぶつけて制圧していく。
殺した狼はきっちりとゾンビ化させて配下に加えた。
そうして進むこと暫し。
最奥には通常個体より三回りほど大きい狼が待っていた。
内包する魔力量も桁違いだ。
間違いなくこの狼が群れのボスだろう。
咆哮するボス狼に対し、私は淡々とゾンビを差し向けた。
序盤は威勢よくゾンビを蹴散らすボス狼だったが、何度も噛み付かれるうちに衰弱して動きが鈍る。
最終的には貪り喰われる形で死亡した。
因果応答、弱肉強食。
蓋を開ければ一方的な蹂躙であった。
尚、アンの出番は一度もなかった。
【7日目】
アンは調査報告のためにギルドへ戻ることになった。
私のことは黙っておくらしい。
騒ぎになると、私が何をするか分からないからだそうだ。
実に賢明な判断である。
せっかく夢の農家になれたのだ。
この幸せな日々を邪魔されては困る。
私の存在はいずれ広まるのだろうが、それまでは優雅に楽しむつもりだった。
アンの手土産に狼の牙や皮を渡す。
ギルドで売却すればそれなりの額になるはずだ。
今回の報酬としては十分だと思われる。
アンを見送った私は、ゾンビ達と共に森の植物を採取しに行く。
畑で新しく作物を育てたくなったのだ。
適当に何種類か持ち帰り、肥料の配合も含めて挑戦してみる予定だった。
晴れて自由の身になって一週間が過ぎた。
引き続きこの生活を満喫しようと思う。