告白したら、残念ながらフラれるわよ
「告白したら、残念ながらフラれるわよ」
今日はいい天気だ。
いや、正確には曇りである。だが、雨じゃないだけいい。
なぜなら、俺は今日、好きな人に告白するからだ。
高校に入学して直ぐ一目惚れして、それから今日までの一年間、ずっと好きだった。
それでも告白しなかったのは戦略だ。何を隠そう、俺の告白成功率は百パーセントである。
勿論、告白したことはない。
だから0とも言えるし、100とも言える。異論は認めない。
とにかく、俺は今日、告白を成功させるためにこの一年間ずっと、策略を進めてきたのだ。
彼女が俺を好きになってくれるまで、諸葛孔明も驚きの戦略を張り巡らせた。
決して、ビビッて告白できなかったわけではない。
今日遂に、口頭で時間を指定して、放課後、俺は屋上に彼女を呼び出した。ただ委員会の仕事で少し遅れるらしい。
覚悟は決めた。フラれることなど、片隅にもなかった。
それなのに、俺の前に訪れた女性徒――筒木は、確かに「フラれる」と口にしたのだ。
筒木とは、そこそこ仲がいい。恋の相談も、彼女に何度かしたことがある。
「どうしてそう思ったんだ?」
「言ってなかったけど、私、未来を見ることができるのよね」
「嘘をつけ」
「本当よ。だって今まで、私が間違ったことを言ったことがある?」
筒木はいわゆる天才だ。何をやってもうまくいく、まさに神に愛されているといっても過言ではない。
「それじゃあ本当にフラれるのなら、どうして俺に今日まで力を貸してたんだ?」
もし未来を見ることができるのであれば、今日まで俺に力を貸してくれていたことに納得がいかない。
筒木が、失敗する恋が破綻することを知っておきながら、それを応援する猟奇的な趣味を持っていたとしても、ここでネタ晴らしをする旨味はない筈だ。
「私が見る未来は、その未来が近づいてくるたびに鮮明になる。だから、フラれることを知ったのも、つい最近なの。悪いことは言わないから、やめたほうがいいわ。こっぴどくフラれて、わんわんとなくはめになる。実際、あなたはあの子から好意を感じたことはある?」
「うぅ、それは……」
途端に、不安になってきた。
曇りですらいい天気だと感じていたのに、今日はその時じゃないかもしれないと思い始める。
「だから、やめましょう。それはあまりにも残酷で、かわいそうなことだもの」
「…………そうだな、それがいいかもしれない。でも、だめだ。それはお前を裏切ることになる。仮にフラれるとしても、今日までお前は力を貸してくれたろ?ここで退きゃ、きっと俺は一生後悔する」
「そう。じゃあ、勝手にすればいいわ」
筒木は、深いため息をはいて、その場を後にした。
そして彼女と入れ替わりになるように、恋する相手が現れる。
「俺と付き合ってください……!!!」
「あ、その…………お願いします」
あっさりと、成功してしまった。
筒木に言われなくても、内心、かなりの確率で失敗すると思っていた。
しばらく放心して、あまつさえ自分から告白したのにも関わらず「すこし、時間がほしい」と返してしまったのだ。
彼女は笑っていた。でもそれは嘲笑ではなくて、嬉しそうな微笑だった。
心を整理するために、俺はしばらく屋上で風を浴びる。
寒い、もう冬だ。
まだ18時過ぎなのに、夕焼けすら去っていこうとしている。
「あ、筒木」
そこに現れたのは、筒木だった。
「成功したぞ。やっぱ、嘘だったじゃねぇかよ」
「……嘘じゃないわ」
「疑ってんのか?ほら、もう彼女がいる奴の顔してるだろ?」
「どういう顔よ、それ。嘘じゃないわ。実際、私が言ったとおりになった」
そこまでして、俺に彼女ができたことを認めたくはないのだろうか。
彼氏のいない負け惜しみだと、顔を覗き込んで煽ろうとするが――陰りが差し込む悲しそうな表情を見て、俺は口を噤む。
「好きだったの、私。あなたのことが、ずっと前から」
「……は?」
「でも、あなたが告白しちゃったら、きっと成功する。だってその努力を、私は誰よりもそばで見てきたから。だから、いったの。『告白したら、残念ながらフラれるわよ』って」
そう、彼女は一言も、俺がフラれるとは言っていなかった。
俺が告白してフラれるのは、筒木自身のことだったのだ。