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日報その1:プロローグというかオリエンテーション

「はあ~だっるぅ。転職したい」

「おい、大丈夫か」


 ここはどこにでもありそうで実は少ない、小綺麗にまとまった小規模なオフィス。

 近年のデジタル化に見事に適応した結果、円形のデスクにいくつかのモニターとオフィスチェア、そして最低限の備品が用意されているのみ。

 おそらく就労先の職場環境としては無駄がなく、それなりに理想的と言えるであろう。


 そこにスーツ姿の二人の女性がいる。

 デスクに向かって突っ伏して項垂(うなだ)れ、呪詛のような独り言を呟く、これを数分間隔で繰り返す彼女はこれでも女神である。

 きらきらと輝きを放つ金糸(きんし)のような髪は無造作に乱れ、前髪の隙間から僅かに覗く本来エメラルドのような目は死んでいる。

 〝これは女神です〟と注意書きがあったとしても信じるのが難しいであろう、負のオーラと後ろ向きな言葉を放つ彼女は、かれこれ暫くの間ずっとこんな調子でいる。


 そんな女神と目の前のモニターを交互に見つめ、心配そうに声をかけるもう一人の女性は魔王である。

 すべてを飲み込む闇のように黒く滑らか、そんな妖艶さを放つ髪を飾り気無く一つにまとめ、琥珀色の瞳にモニターの画面が反射して移りこむ。

 同じ職場の人間が、仄めかすどころか率直(ストレート)に退職の意を示す光景に、内心穏やかではない彼女は女神の顔色を伺いながらもキーボードを叩く手を止めることはない。

 

「大丈夫なわけないでしょ」

「う……すまない」

「ねえもう早退していいかしら」

「そ、それは困るんだが」


 顔だけ()()()と上げた女神がさぞ不快そうな表情を浮かべ魔王に視線を送る。

 言葉にしがたいがたしかにある、その凄みに気圧された魔王は反射的に謝ってしまう。

 女神の対応に魔王が苦戦している刹那、二人の間に影が過ったかと思えばドゴッ!という鈍い音が室内に響く。


「いぃったあああぁぁ!」

「あなたはまたそうやって魔王様を困らせる。いい加減しばき倒しますよ」


 颯爽と室内に入り女神の後頭部をグーでおもいきり()ついた人影の正体、彼女はエルフである。

 プラチナのような気品さを感じさせる銀髪を(なび)かせ、澄んだ空のように透き通った瞳からは僅かに殺意めいたものを感じさせる。

 高貴な存在である"はず"の女神に対して容赦なく鉄拳を振るう彼女は、悶絶する女神を無視して魔王のところに軽い足取りで歩み寄る。


「はい、魔王様♡ こちら買ってきました」

「あ、ああ、ありがとう。ちょっぴりやりすぎじゃあないか? 口より先に手が出ていたぞ」

「構いませんよ、あれくらい雑でいいんです、あれは」


 片手にビニール袋を携えたエルフが満面の笑みを浮かべ、ペットボトルや出来立てのお弁当を魔王に手渡す。

 後頭部を抑え先程までと別の意味で突っ伏す女神を魔王が心配すると、エルフは冷めた目線で女神を一瞥する。


「あなたの分も買ってきてますよ、ほら」

「うぐぐ、女神である私に暴力を振るうなんて……ていうかこれパワハラよ、パワハラ、訴えてやるわ」

「なにか?」

「なんでもないわありがとう超助かる」


 女神が抗議すると、エルフは差し出していた缶飲料で投球フォームに入り、おもいきり振りかぶろうとする。

 生命の危機を感じ咄嗟(とっさ)に早口で謝る女神。(すんで)のところでエルフは()()、と顔面に狙いを定めていた手をおろし、缶に続いて弁当を机に置く。


「くっふぅエナドリぃ! 飲まずにはいられないわ!」

「本当に女神の発言とは思えないほど低俗ですね」

「はあ? 酒じゃないだけマシでしょ」

「はっ倒しますよ」


 女神は無造作に置かれた缶をかっさらい、プルタブを引いてプシュッと小気味よい音を鳴らすとケミカルな色合いの液体を限界まで流し込む。

 そんな中毒症状にも似た所作を見せる女神に、軽蔑の眼差しを向けるエルフ。


「ケンカはやめよう。三人そろってきちんと休んで、また頑張ろうではないか」

「はい、魔王様♡」

「なんだかんだでちゃんとやることやります~」


 魔王がペットボトルを手に取り二人を(なだ)める。

 これは異世界三課の見慣れた光景のほんの一部である。

どうも三日坊主です、よろしくお願いします。

いつ失踪するか分からんです、はい。

評価、コメントおなしゃす。

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