Vier 気弱な天才
兎々曰く、俺らが入って来たドアに鍵は無いらしい。ただ、内側にも外側にも見張りが居るということで出られる可能性はほぼ無いとの事だ。さらに、ここから玄関までの道はどこを通ろうと監視カメラに写ってしまうのだ。となれば窓や例の隠し扉を使うのが賢明ではあるが、窓から抜け出しても部屋に入られれば直ぐにばれるし、隠し扉に関してはどこにあるのかやどこへ繋がっているのかが分からないため、今の所脱出口は無いことになる。
「昼に抜け出すのは無理やな……。となれば行けんのは夜か。まずは玄関の見張りやな。居なくなればそれで良いんけど、まぁ流石に無いやろ。んで監視カメラも多分動きっぱやと思うから、出られんのはそこの窓だけやろなぁ。」
その先の道に関してはここからは見えへんけど、来た時の感じと匂いから察するに森ん中とかではないな。そうなると服装が問題か……。
『よ、夜に抜け出す、なら、多分兎々さんが、で、出た方が、いいとおも、思います。』
「確かに、兎々が聞いて俺に伝えるより速いし正確やからな。頼んだで!」
『分かったよ。窓の向こうは庭園で、その先は多分大通りだから、そこまで来たら狐々に変わるね。』
多分ってことは庭がクソでかいんやろうなぁ……。ん?いや、流石にでかすぎへん?兎々が聞こえるのは約三キロ先やから、ここから庭の終わりまでざっと三キロ?いや、
「流石におかしくねぇか?」
『どうやらカラス除けで超音波が鳴ってるみたいなんだよね。おかげで向こう側の音が聞こえづらいんだ。多分五百メートルくらいで着くと思うんだけど……。あんまり役に立てなくてごめん。』
成程、カラス除けか。カラスは日本では神の使いともされてるんに、ひどいなぁ……。まぁ、それはどこでも一緒か。
「いや、それなら仕方ないやん。それに、兎々はウチで唯一周りが把握できる凄い子なんやから、もっと自信持てや!」
こいつは昔っからこうなんよな。天才なんに自分のことすごいって思ってへんし……、実際俺より天才やろ、こいつは。じゃなきゃ反響して帰って来た音から物の位置なんて分からんし。
『あはは、僕より狐々のほうがよっぽど天才だよ。』
うん、これはもう何言ってもダメな奴やな。知ってたけど。
「じゃあ兎々は休んどいてな。ずっとうるさいやろ?夜は色々聞いてもらわなあかんし、暫く寢ときぃや。」
俺どうしよかな……。寝るのもなんかちゃうし、日記でもつけるか?いや、絶対明日には書くの忘れてるな。やめよ。ん~……、ちょっとした物語でも描くか。
彼は置いてある机の上や引き出しを漁り、シャープペンシルと消しゴム、そしてリングノートを見つけた。それを一旦机の上に置き、部屋の中央にあるちゃぶ台を窓側に寄せる。そこに先ほどの筆記用具を乗せ、一番最後のページを開いた。
「そうだなぁ……始めはこの子が起きる所。最後はこの子が寝る所、かな。」
彼は一番上と一番下にそう書くと、その間にいろいろと文字を書き始めた。
「一日の物語書くんは初めてやな……。よし、やるか~。」
そして彼は一ページ目を開き、物語に命を宿し始めた。




