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<完結> 知らないことはお伝えできません  作者: 五十嵐 あお


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あなたが知らないあなたの母のこと Side story オスカー・イスカラング17

誤字報告、ありがとうございました!訂正前にお読みになった方、申し訳ございません。

妊娠を知った時、好きでもない相手の子であるにも関わらずイザベラは喜んだ。これで全てから逃れられると。そして、兄を当主へ近付けられると。何より、オスカーの傍で他の男に抱かれるという苦痛を味わう必要がなくなったことに。


不思議なのは、胎の中に宿った新しい命。己の利ばかり喜ぶイザベラを、何故か祝福してくれているよう。妊娠初期の辛さもほとんどなければ、経過も順調。気持ちの浮き沈みすらないので、イザベラは穏やかな日々を送ることが出来た。後は問題なく生まれてくれれば良い。

そう思っていた矢先、シリルが動いた。


カリスター侯爵家の当主を隠居させ、夫へと当主交代させた。これで、イザベラが出産後どういう身の振り方をしようと誰も何も言わない。そして、恐れていたマクスウェルは公爵となり国内の領地を与えられたと聞く。何故ならマクスウェルの婚約者であるローレルのヘーゼルダイン侯爵家が推す第一王子が事故に遭い政治の舞台に立つのが難しくなったからだ。それはアンドリューが次期王位に一番近いということ。噂によると、国王も第一王子の事故を悲しみ臥せることが多くなったそうだ。


「国王陛下はわたくしの知る方とは別の方なのかしら?悲しみ臥せるなんて」

「噂ですから、本当のところは誰にも分かりません。病に臥せっているのを、美しく言う為に第一王子の怪我を悲しんでいるとしているだけ…、かもしれませんね」

「そうね、噂ですもの。事故も臥せっているのも噂。ねえ、オスカー、あなたは事実を知っているの?」

「わたしは何も知りません」

「そう。わたくしも、祖国のことなんてもうどうでもいいわ。だから事実を知る必要はないわね。でも、知っているの、噂は本当のことなど数えるくらいしか含まれていないって、特に貴族の間では」

「イザベラ様、風が出てきました。お体に障るといけません、中に入りましょう」

「そうね、わたくしを自由にしてくれたこの子に何かあっては大変」


それから数か月後、イザベラは初産にしては短時間の安産で女児を出産したのだった。

子が無事に生まれたことへの涙なのか、女児が生まれてしまったことへの涙なのか。そして何に喜んだのか。何一つ分からないまま、体調が戻るとイザベラはカリスター侯爵邸をオスカーと共に出ていった。





あれから六年、イザベラは一度流産をした。イザベラの心を守る為にいるオスカーは、それからは従者に徹した。イザベラの悲しみようがあまりにも酷く、同じことを繰り返さない為に。


「オスカー、どうしてか子供が泣いている夢を見るの」

オスカーは小さく頷くと『確かめてくるよ。もしも泣いていたら、助けてあげないと。僕達の大切な子を』と言って王都へ向かったのだった。


十日後、オスカーは土産を手にイザベラの元に帰ってきた。今の王都での流行りや街の様子、カリスター侯爵邸のことをイザベラに語って聞かせた。

「そう、侯爵とアイリス様は仲睦まじく暮らしているのね。三人のお子様もお元気なのは良いことだわ。それで、オスカー、教えて、泣いていたのはあの子?」

「今はもう大丈夫」

「今は?」

「まだ小さいあの子は狙われやすい。大丈夫、周囲に気付かれないよう様子が分かる手を打ってきたから。直接手を差し出せないけれど」

「じゃあ侯爵?」

「まだダメだろうね。その内シリル様のところへ行ってくる」

「ありがとう」


オスカーは意図的に『侯爵はまだ親になりきれていない』という言葉を呑み込みシリルの名前を出した。イザベラが親という言葉に過剰反応するのを避ける為だ。


「ねえ、オスカー、あの子はカッコウの母鳥から生まれたのにカッコウにはなれなかったのね。だって、侯爵邸で自分以外の卵を全部落としてしまわなかったのだもの」

「イザベラ、あの子も君もカッコウではないよ。君はジュウシマツのように卵をしっかり抱え温めた」

「ジュウシマツ?確か、他の鳥にいじめられてもほとんど反撃しない鳥ね。しかも卵を良く産む」


イザベラはその夜、オスカーの体温に包まれ満ち足りた時間を得たのだった。

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