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誤字脱字、ブックマーク、評価、ありがとうございます。
「殿下、それでも、わたくしがカリスター侯爵家の長女であることと、教育を受け続けてきたことは変えようのない事実です。ですので、この親睦を深めるお茶会も王子の婚約者としての務めなのです」
「相分かった。では、変えられることを変えればいい。なに、簡単なことだ。今を以て、おまえから王子の婚約者という立場を剥奪しよう」
再びサフィールの手が止まった。止まったのはサフィールの手だけではない、周囲にいた者たちは思わず息を呑んだ。
「畏まりました。わたくしの力不足からくる婚約破棄ということでお間違いありませんか」
「ああ、そうだ」
アルフレドの最後の言葉から、もう3時間程過ぎた。夕暮れの自室でエミーリアはここでの生活を思い返していた。
その日の課題が終わらなければ、食事抜き。答えを間違えれば鞭が飛び、体調を崩そうものなら詰られた。しかも、体調を崩すことがないようにと体力作りと称ししごかれたこともある。
でも、そんな詰まらない思い出も後少し。
あの後、エミーリアの王城からの退去が決まった。一等記録官が記したものに王子の署名まで入ったものの内容を覆すには、王とてそれなりの手順を踏まない限り難しいのが現状だ。しかも、二人きりのお茶会とはいえ、周囲に控える人間はいつものように多くいた。
―コン、コン、コン、コン―
持っていけそうな荷物をまとめていると、遠慮がちなノックの音が室内に響いた。
「伺いました、エミーリア様、明日の午前中の退去だそうですね。その後、どちらへ行くのですか?」
「まだ、決めていません。でも、侯爵家へは戻らないと思います。父の顔も思い出せませんし。と言うより、あちらの家の方からしたら、わたくしの存在などないものでしょう」
「そうそう、目を通しましたよ、記録に」
「まあ、わたくしの失態をお読みになったのね。意地悪な方ですわね、アルバート様」
「そうですね、あなたの失態は知らないことではなく、気付かなかったことでしょうか」
「気付かなかったこと?」
「はい」
小首をかしげながら、不思議そうにするエミーリアにアルバートと呼ばれたアルフレドの側近は吹き出した。
「今日、たまたま殿下の傍に控えることが出来なくて残念でした。文書よりは実際の様子を見たかったです」
「まあ、あなたはやっぱり意地悪な方ですのね。でも、今までありがとうございました。とっても優しい意地悪な方」