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<完結> 知らないことはお伝えできません  作者: 五十嵐 あお


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あなたが知らないあなたの母のこと Side story オスカー・イスカラング12

拝謁はただのポーズに過ぎない。王家が主体として執成した婚姻が進められるのに合わせて設けられた儀式と言う名の茶番劇だ。


「国の為に良く励むように。そして両国の血を分けた子は一刻も早く儲けるように」

「陛下からのありがたきお言葉、胸に刻み嫁がせていただきます」


イザベラは理解している。国王がイザベラには子をなすことでしか、もう国の役に立つことがないと言っていることを。


「ところでイザベラ、餞に何か欲しいものはあるか」

本来は『そのお気持ちだけで十分です』と言うべきなのだろう、特に価値が下がったイザベラならば。しかし、この状況を利用し国王を動かそうとイザベラは思った。今まで散々利用してきた小娘に逆に利用されればいいのだ。


イザベラは何も言わないだけ。それは、何も知らないとは同義ではない。

そう、知っている、既に水面下で色々動いていることを。それにイザベラが数か月後に国を出ることは決定事項。だったら、大切な家族の為に自分の願いを伝えてみようとイザベラは思った。もう止められない以上、咎められどこかに閉じ込められることはない。

それに、国王にとってもイザベラの願いは悪い話ではない筈だ。


「恐れながら、陛下にお願いがございます。わたくしを上手く導くことが出来なかった責任を取らせる為に、公爵へ引導を渡していただけませんでしょうか」


邸にシリルが戻ってきたからには、婚約者と結婚する日も近いだろう。しかし、今のまま結婚し子を儲ければ…もし、娘が生まれてしまえば…その子は幸せにはなれない。両親がイザベラで成し得なかったことにその子を使うのは目に見えている。下手をすればイザベラの運命が決められた年齢よりも早くに。


イザベラの願いは両親が馬鹿なことをする前にシリルを当主にすることだ。しかし、国王へシリルを当主にして欲しいと言えば、その道は長く険しいものへと変わってしまうだろう。名前が挙がれば、国王はシリルを徹底的に調べ上げる。シリルに綻びがあるようには思わないが、完璧な人間などいないのも事実。

念には念を入れ安全な道を取らなくてはならない。


だからここはイザベラが演じればいい。お人形令嬢の本領を発揮すれば上手くいくはず。何に対しても興味がないガラス玉の目、抑揚のない話し方。そして、噂を利用させてもらえばいい。


周囲のことに関心がないと言われているイザベラらしく、自分を幸せに出来なかったと両親を責める体を取るまで。使用人を鞭で打ちすぐに辞めさせるイザベラならば両親すら隠居させることを厭わないのも頷けるだろう。


「しかし、急には公爵も退けないだろう」

「わたくしには分かりません。わたくしが公爵家にいるのは残り数か月。その後どうなろうと関係ありません。それよりも、陛下にご迷惑を掛けてしまったことが問題です。わたくしの幸せを思い陛下が執成して下さったことを、公爵は無駄にしてしまったのです」


その場に居た者達は、お人形令嬢であるイザベラが話すのを見て驚いた。ある者はイザベラがこのような声の持ち主だったのかと思い、またある者は決まり文句以外の言葉を知っていたのかと思った。しかし、声からも表情からも何の感情も読み取れない。それは空恐ろしさすら感じさせる。否、国王に願った内容こそ恐ろしいものだった。自分の両親の処分を願ったのだから。


「そうだな、イザベラの申し出も一理ある。公爵と言えど、王国を支える一貴族。与えられた重要な役割は熟さなければならぬのう」

イザベラの読み通り国王は乗ってきた。高位貴族であれ、失態は許されない。その場合はどうなるのか、国王が意思を示すのは良い教訓になる。

もう一押し、というところだろう。イザベラが国王の求めを必ずや遂行すると言えば天秤は傾きそうだ。


「はい。そして他国へ嫁ぐとはいえわたくしもこの国の貴族の娘。陛下が再び結んで下さった縁に報いる為、子を早く儲けるよう努力いたします」

「そうか。では、懐妊の知らせが届いたら公爵達も祖父母になる心積もりをしないといけない。ゆっくりしてもらうよう、取り計らおう」

イザベラは『ありがとうございます』と言いながら深々と礼をした。自分を犠牲にすることは厭わない、ただ家族を守れればいいのだ。


そして不幸にもこの思いはシリルの気持ちとすれ違っていた。

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