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<完結> 知らないことはお伝えできません  作者: 五十嵐 あお


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あなたが知らないあなたの母のこと Side story オスカー・イスカラング6

イザベラの婚約解消の事実は理由と共に貴族達の知ることとなった。

歓迎晩餐会で繰り広げられたことだ、翌日には知らない貴族を探す方が難しかっただろう。


イザベラと同世代の令嬢達は楽しそうに話す。

『二年間もマクスウェル殿下はつまらないイザベラ様との婚約を我慢していたのね』

『お綺麗なだけではねぇ』


そして、ヘーゼルダイン侯爵家に連なる者達は悪意ある噂を流す。

『マクスウェル殿下は、愛くるしいヘーゼルダイン侯爵令嬢を一目で気に入ったそうだ』

『マロスレッド公爵令嬢は、ヘーゼルダイン侯爵令嬢へそれは冷たい視線を送っていた』

『マロスレッド公爵令嬢では心変わりされて仕方がない』


マクスウェルがローレルに歓迎晩餐会で一目惚れをすることは不可能だ。既に二年も交流を持っているのだから。しかし、噂を撒く側は明確な意図を持って言いふらす。


一目惚れをしたのがマクスウェルならばローレルには非がない。唯一非があるとすればその見目が愛くるしいこと。外見同様心も冷たそうなイザベラが捨てられるのは当然のことなのだと。



婚約が白紙となった翌日、公爵夫妻は長々とイザベラをしかりつけた。


『国どころか公爵家の役にすら立たない』

公爵家に利益をもたらさないと怒る父。


『殿下に寄り添うという姿勢すら感じさせないあなたに問題があるのよ』

イザベラの人格の問題だと詰る母。


イザベラは凪いでいた。ただ聞くだけ。嵐や強風が収まり、静けさがやって来るのを待つのだ。

そしていつものように庭園を見つめながらお茶をする。


侍女が用意したお茶で一息つきながら、ガラス玉のような目で花や空を眺めるだけ。

だからオスカーもいつものようにイザベラにとってどうでも良いであろう話を同じ方向を見つめながら呟いた。


『イザベラ様のお心を守って差し上げて』

心和む茶を淹れられる侍女と違ってオスカーに出来ることはそれだけだった。


ところが、この日は違った。

一方通行の呟きに、イザベラが言葉を掛けてきたのだ。


「あなたの言う花はどんななの?ここにもあるのかしら?」

傍に仕えて四年、初めて掛けられた言葉だった。


「わたくしはもうアーサー様にもマクスウェル殿下にも嫁がないのだもの。アーサー様の言いつけは守らなくてもいいのよね?あの国へ行かないのだから」


オスカーは面食らった。話し掛けてはいたが、返事はないものだと認識していたのだ。それなのに、確かにイザベラはオスカーに話し掛けている。


どうしたらいいのかたじろぐオスカーに代わり、近くにいた侍女が『はい、もう全ての言いつけを守る必要がなくなりました。お嬢様らしくありましょう』と答えた。


「わたくしらしく?それは言いつけを守ることよりも難しそうだわ。わたくしは、わたくし自身を知らないのだもの」

何となしに呟かれたイザベラの言葉。それはオスカーを始め侍女達の気持ちを暗くするには十分だった。


オスカーはその日、子供の頃に人形が人間になるお伽噺を母がしてくれたことを思い出したのだった。

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