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<完結> 知らないことはお伝えできません  作者: 五十嵐 あお


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あなたが知らないあなたの母のこと Side story オスカー・イスカラング3

オスカーがイザベラに仕える前に聞いていた噂の全てが似たり寄ったり。


十二歳なのに既に王女気取りで我儘な公爵令嬢。

身に着けるもの、口にするものは全てが最高の物でそれを当たり前のように欲する令嬢。

使用人とは口もきかず、全て思いのままに整えてもらわなければ当然のように癇癪を起す。言葉の代わりに鞭を使い、恐怖のあまり職を辞した使用人の数は数多に上る。


任命された当時、とんでもない令嬢の護衛を務めなくてはならない運の無さにオスカーはがっかりした。剣を捧げるのだ、その主には崇高な人物であって欲しい。時には命を賭すのだから。


しかしオスカーは、()()()()()()()という言葉自体がどうして存在するのかを職に就いて直ぐに理解した。


十二歳の少女が数多の使用人を辞めさせるなど出来ようがないことを、何故人は実しやかにこそこそと噂するのか。普通に考えれば十二歳の少女にそんな権限などない。出来たとしても、自分の身近に仕える本当に悪さを働く使用人に対してくらいだろう。親がまともであれば、当然辞めさせるにあたって証拠なども求めるだろうし。


現にイザベラの周囲にいる使用人達は誰一人として新に雇われた者はいなかった。それは、誰も辞めていないことを意味する。


噂が事実から一人歩きし、時には暴走を始める。

オスカーがそれを理解するのに時間など必要が無かった。




『イザベラ様はいずれ王妃になられるのですものね、羨ましいわ』

心にも思っていない令嬢達からの言葉。


『国の為に何が出来るかしっかり学びなさい』

国の為と言いつつ、公爵家の未来をイザベラに投影させる父。


『淑女としての行動を常にとるように』

イザベラを生み育てた自分が一番の功労者と思っている母。


どんなに悪意や欲が込められた言葉を投げかけられても、イザベラはその美しい顔を曇らせることなく受け流すだけ。十二歳でこうなるには、どのような『今まで』を過ごしてきたのか、オスカーには想像もつかなかった。


ただ良く分かったのは、どうしてイザベラが我儘で傲慢な令嬢だという噂が囁かれるようになったのかだ。


公爵も公爵夫人もイザベラには最高の物・教育を本人が望むままに与えていると話す。それは公爵家の財力を誇る為でもあるが、同時に隣国の王へ最大の気遣いをしていると思わせたかったからだ。

合わせて自国の王へも恩を売る為に。隣国へもその話が伝わるには声を大にする必要があった。




『イザベラ様のお心を守って差し上げて』

イザベラ付きの侍女達は若くて話しやすいオスカーに繰り返しその身だけではなく心も守るよう訴えた。皆、イザベラの未来がどういうものであるのかを知り心を痛めていたからだ。


数か月もすればオスカーにも分かった。イザベラは公爵家と国にとって非常に都合の良い人形なのだと。

侍女達は『心を守って』と言ったが、美しい人形のイザベラに人間としての心がそもそもあるのかオスカーは疑問を持たずにはいられなかった。



血が流れ、体温がある人形。

そんなイザベラの人間としての微笑みを見たいと思い、オスカーは傍に立つ時は家に咲く花や世話をする馬の話を独り言のように語って聞かせた。

勿論独り言に返事はない。それでも、オスカーの声では小鳥の囀り等という可愛らしさがなくても心に何かが残ってくれればいいと思いながら続けたのだった。


イザベラが十四歳の時だった、婚約者の王が崩御したのは。

葬儀に参列すべくイザベラは国の使節団と共に旅立った。迎えてくれたのは即位したばかりの新たな王。婚約者の王が崩御しなければ来年にはイザベラの義理の息子となる人物だった。


新たな王は使節団からの書簡にイザベラを哀れに思わずにはいられなかった。高貴な身分の令嬢でありながら、まるで人身売買の商品のような扱い。書簡は平たく言えば、気に入ったら妻に迎えて欲しいというものだった。

ご訪問、ありがとうございました。


*まだ会社務めをしていたころ、ビジネス書を勧められ読んだものの中にパラダイムの転換だったかな、そんな言葉があったのを思い出しながらポチポチキーボードを打っています。

サフィールの話の時にはジャーナリストの方の話を思い出しながらでした。目の前で起きていることをそのまま伝え続けるか、事実を曲げても手を差し出すべきか、そんな話だったと思います。

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― 新着の感想 ―
[一言] パラダイムの転換期といえばアルビントフラーの第三の波かな?1970年代の名著。流石にそれは古すぎるので、その後に書かれた第四の波かもしれませんね。
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