あなたが知らないあなたの母のこと Side story オスカー・イスカラング1
誰の話か予想されていた方…その通りでございます。この方が全てを知る人です。
*誤字のお知らせありがとうございます。嬉しくなり(←単純)もう少し時間が掛かるかと思っていましたが、ほんのり固まったところだけ先に投稿いたします。
イザベラには名乗る姓がない。本当はあるのだが、ある時それを捨ててしまった。
たった一つ、オスカーを得る為に全てを捨ててしまったのだ。
どうしてそこまで出来たのか。幼少期からイザベラの世話をしていた侍女やメイドなら聞かなくても理由は分かるだろう。そして、そのイザベラに選ばれたオスカー・イスカラングも。
しかし、イザベラを知らない人間は口を揃えて言うことだろう。我儘な公爵令嬢が色恋に狂って馬鹿な選択をした成れの果てはなんて惨めなのだろうと。
特に同世代でイザベラをこき下ろしたがっていた、今やどこかの貴族家の夫人となった元令嬢達ならば挙って更に悪く言うはずだ。
でも、イザベラには関係ない。スプラルタ王国を出る前から、おしゃべり雀が発する音など意味をなさない雑音だったのだから。
「カッコウはどうして托卵をするのかしら?」
「難しいことは分からないけれど、種を絶やさない為の生存本能だろうね」
枝を見上げるイザベラを優しい眼差しで見つめながらオスカーは答えた。イザベラのどの表情も見過ごさない為に。
「それは自分では卵を温められないと諦めているから?それとも遊び惚けたいのかしら?」
イザベラが何と無しに発した疑問。しかし、それは本当に意識せずに出た言葉なのだろうかとオスカーは心の隅で推度せずにはいられなかった。
「ねえ、オスカー、たぶんその内、あの巣は先に孵化した雛鳥が卵をみんな落としてしまうわ。それを知っているわたしはどうすればいいのかしら」
「鳥の世界のことだから手出しは出来ない、見守るしかないだろうね。托卵した母鳥が失敗すれば本来の巣である種の鳥の雛が先に孵るだろうし」
「そうね、鳥の世界のことですものね」
イザベラの表情が陰るのを見てオスカーは言葉を続けた。
「卵を落とされてしまえばどうにもならないけれど、もし雛同士が落とし合ったなら、落ちた雛は保護しよう」
「保護?」
「ああ、聞いたことがある、人の匂いが付いてしまった雛を親鳥は受け入れないと。だから、出来ることは保護くらいだろうね」
「分かったわ。ありがとう、オスカー」
礼を言いながら微笑むイザベラの顔は、相変わらず見る者の心を掴むような美しさだ。勿論、言われた側のオスカーも出会った時から心を掴み取られた一人だが。
「あの子はカッコウだったのかしら?」
イザベラが次に口にした疑問は、声が小さすぎてオスカーには届かなかった。




