あなたが知らない、あなたが居なくなったカリスター侯爵家 Side story マイルズ・カリスター4
エミーリアの顔を見たことがない人を探すことが難しいこの国で、実物のエミーリアを探せない。
そんな馬鹿なことがあるのだろうかと、マイルズもルーベンも思っていた。
しかしエミーリアが消息を絶ってから、既に数日が経過している。侯爵家が誇る私兵だけではなく、裏の仕事をする者たちまで動員しているというのに。
エミーリアの令嬢としての未来を考え行方不明であることを公表せずに探し続けたが、時間的にそれも厳しくなり始めている。
「どうだった、姉上?」
表立っては平静を装う為にも、アリアネルは招かれた茶会への参加を続けていた。けれど、それはアリアネルに出来るエミーリアを探す手立てでもあった。
仮にどこかの貴族家が保護しているのならば、茶会等を利用して接触してくる可能性があると思ったのだ。保護した当日はまだ知らなかったとしても、既にエミーリアとアルフレドの婚約が破棄されたことは周知の事実。エミーリアを保護していたと恩を売ることで、カリスター侯爵家へ金銭要求なり事業提携を持ちかけてくる可能性がある。
「言葉の裏の裏まで探ったけど、今日のお茶会に参加していた家はお姉様が行方不明なことすら知らないわね」
裏の裏は表だし、どうして知らないと断言出来るのかその根拠をアリアネルに尋ねたいところだが、マイルズはいつものスルーで会話を先に進めた。余計なことを言ってアリアネルに揚げ足を取るなとか、屁理屈だと言われ会話が逸れるのだけは避けたかったのだ。
「でも、王宮を出た後、貴族街を短時間に抜けることなど出来ません。第一、お姉様がお金を持っていたかも怪しいのに」
「そうだな、マイルズが言うように、父上が王宮に向かうまでの時間でお姉様が平民街まで辿り着くのは難しいだろうな」
「たまたま荷馬車が通ったとか。もしくは、使用人通用口から出たとかだったのかなぁ」
「そんなことは既に侯爵家の私兵達が調べ終わっているだろう」
「でも、あんなに目立つ容姿をしているのに何の目撃情報もないなんておかしいじゃないですか」
「おかしいのではなく、そうなっているのではないかしら?」
マイルズもルーベンもアリアネルの発言を理解出来ないことがよくある。こんなシリアスな時にも相変わらずそれは健在で、つい溜息を吐きたくなってしまう。
「どういう意味ですか、姉上?」
いつもは無言を貫き通すルーベンが、珍しくアリアネルの意見を掘り下げようとした。あまりの手詰まり感にとうとうアリアネルを頼ったようだ。
「わたしたちはお姉様が行方不明になったと思っているけれど、実はお姉様が自ら行方を晦ましたのではないかしら。だから、何の情報もないのよ」
「でも、聞く限りじゃ、その場で決まった婚約破棄に王宮退去なんだから無理があるんじゃない」
「マイルズ、あなた頭が固いわね。もっと柔軟に。確か婚約破棄に至る経緯を記録したのはランカラント子爵よね。お父様やお母様に嫌味を言う前に、ランカラント子爵にどうしてカリスター侯爵家に教えてくれなかったのか聞きましょう」
「姉上は頭が柔軟過ぎる。今、三大公爵家の彼らがどれだけ忙しいか知らないのですか?無理に決まっています、面会していただくのは」
「そうだよ。それにそんな質問をしたら、公爵家にお姉様が行方不明だと告げるようなものだ」
結局三人に出来ることはエミーリアの無事を願うことくらいしかなかった。
その願いが通じたのかは怪しいが、数日後三人はエミーリアが別の国にいると父から教えられたのだった。
明日か明後日にはマイルズ君のパートは終わらせたいと思っております。仕事がおしてしまったらごめんなさい。




