あなたが知らない、あなたが居なくなったカリスター侯爵家 Side story マイルズ・カリスター2
マイルズが『天使のように可愛い子』探しで怪我をしてから二年後、正式に準王族としてエミーリアが大衆の前に顔を出すこととなった。
当日は貴族席から眺めることが出来ると聞き、マイルズは喜ばずにはいられなかった。冒険も何もしなくても、エミーリアからこちらへ寄り添ってきてくれたように思えたのだ。
それはアリアネルもルーベンも同じ。その日が近づくにつれ三人の会話はエミーリアのことが多くなっていった。夢中になっている三人は気付かなかった、両親がその会話に入りはしないことを。常に複雑な表情を浮かべ三人を見つめていたことを。
迎えた当日。三人の予想は外れ、エミーリアはマリーゴールドのオレンジ色のようなドレスに身を包んでいた。三人の予想はカリスター侯爵家の色であるスカイブルーのドレスだったのだが。
色は外れたが、どんな色を纏っていてもエミーリアの姿は天使のように神々しかった。少し距離はあったけれど、ちらっと見えた顔もマイルズが知る誰よりも美しかった。
エミーリアの存在を唯一覚えていたアリアネルが誇らしげに言っていたことは本当だったのだ。
「お姉さ…、エミーリア様は、僕たちに気付いてくれたかなぁ」
遠くからでも分かる優美な挙措。マイルズは許されるならば、もう少し近くでエミーリアを見てみたいと思ったのだった。それは、気付けば言葉となっていた。
「母上、これからもエミーリア様がお顔を見せて下さる時は連れてきて下さい。いつかもっと近くで拝見出来たらな…」
「…そうね」
「ありがとう、母上」
興奮気味だったマイルズはアイリスが『そうね』と言った後に『いつか機会がまたあったのなら』と小さな声で続けていたのに気付かなかった。
だから顔を近くで見ることが出来るようまた連れてきてくれるのだと捉えたのだ。直ぐにお礼の言葉が出たのは当然の成り行きだった。
「お母さま、わたしも!」
「僕も!」
アリアネルとルーベンが追随するようにアイリスに笑顔を浮かべてお願いする。二人だって連れてきてもらいたいという気持ちは同じなのだから、こちらも当たり前の行為。けれど三人を見ていたマイルズは、何かがおかしいと感じた。笑顔の二人に対し、アイリスの表情が悲しそうに見えることが漠然と引っかかったのだった。
その後、何度かエミーリアを見に行く機会が訪れた。念願叶って、近くで見る機会を得た時はその優しさ溢れる笑みに心臓が騒がしくなってマイルズは驚いてしまった程だ。
どうしてこんなに心臓が騒がしいのか。どうしてあんなに美しく可愛いのか。
「本当にエミーリア様は美しくて可愛らしい方なのですね」
「う~ん、でも、覚えてないけどお邸で見たときはもっと可愛かった気がする」
覚えていないのに、もっと可愛いとはどういうことだとマイルズは思った。でも、昔のエミーリアを知るのは兄弟の中ではアリアネルだけ。
末っ子のマイルズは年齢が少し離れた姉と、年子の兄との上手い付き合い方を既に習得していたので『そうなんですね』と適当に返事をしたのだった。
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