あなたが知らない、あなたが居なくなったカリスター侯爵家 Side story マイルズ・カリスター1
実は、これ以外の登場人物のものを書いていたのですが…
気が変わってこちらを進めることにいたしました。
『アリアネル、どうしたの?』
『あの子がいないの』
『あの子?』
カリスター侯爵家のアリアネル・カリスターは九歳の誕生日を祝ってもらった日の夜、急に泣き出した。母であるアイリスは泣きじゃくるアリアネルが何度も口にする『あの子』とは誰だろうかと考えた。昼間に行われたパーティに来ていた子供だろうか。それならば、招待されていたのはカリスター侯爵家の寄子もしくは、懇意にしている貴族家の子供ばかり。気に入って友達になりたいのなら、何の問題もない。
『男の子、女の子、どんなお洋服を着て、髪の色は?』
『お庭のお花をくれる子よ。ずっと待っているのに、今年もアリアネルのところに来てくれなかったの。良い子にしていたのに』
アリアネルがあの子と呼ぶ、カリスター侯爵家の花を摘める人物。該当するのは一人しかいないとアイリスは直ぐに気付いた。しかし気付いたところで、どうすることも出来ない。
『いつかまた会えるかもしれないわ』
アイリスは言葉を濁した。アリアネルが思い浮かべるあの少女に会うことは無理だ。否、会えるはずがない。夫から聞こえてくる話では、もうあの少女は人前では心を見せない為の笑みしか浮かべなくなってしまったそうだから。
しかし、九歳のアリアネルはアイリスの濁した言葉から都合の良い部分だけを切り取った。そして弟達に語ったのだ。
『わたし達が小さかった頃、このお邸には天使様のような綺麗で可愛い女の子がいたのよ。いつかまた会えるかもしれないわ』
『僕も会った?』
『ええ、ルーベンもマイルズも会っているわ』
『どうして今はいないの?』
『いつか会えるって、いつ?』
弟達の質問にアリアネルは答えられなかった。何故ならその質問こそ、アリアネルが心から誰かにしたいものだったのだから。そう、答えを知っている誰かに。
『分からないわ。だから、良い子にして待つのよ』
アリアネルの答えを弟達は不思議に思った。二人の思考は女の子であるアリアネルとは違う方向へ向かっていった。待つのではなく、探せばいいと。
マイルズ六歳、ルーベン七歳の時だった。消えてしまった天使のように可愛い女の子を探す冒険が始まったのは。
しかし、四日後、冒険は呆気なく終わる。マイルズの怪我と大泣きによって。
そして知りたかったことは、父であるカリスター侯爵から聞くこととなった。天使はこの家の長女で、冒険に出たところで簡単には会えない場所にいるのだと。