あなたが知らないわたし達が知っていること Side story サフィール・ランカラント3 そしてルーベン
ルーベン?いきなり出てきた名前ですみません。。。サフィールからのご報告はここまでです。
三大公爵家会議で一番時間を掛け話し合ったのは次の王について。現王にはアルフレドしか王子がいなかった。
最初は三大公爵家の誰かが王と正妃の間に生まれた王女二人のどちらかを娶り王となる案も出たが、それでは三家のバランスが崩れるし番人としての機能がおかしくなってしまう。そこで、他国へ嫁いだ姫の血筋を呼び寄せることとなったのだった。
三大公爵家は血の濃さよりも、優秀であることと人間性を重要視したのだ。しかし、こんなことが出来るのも現王がそもそも政治にあまり関わっていなかったからというのは皮肉なものだった。
早急に決めなくてはいけないということですぐさま数人の候補が調べられた。実際に王国に来ることが出来る人物かも含めて。
白羽の矢が立った数人の中で最終的に選ばれたのは、まだ十六歳と若い他国の公爵家次男であるテオバルド・ラドシルフ。テオバルドが提示した条件はたった一つ、幼少期からの婚約者と共に迎えてもらいたいというものだった。
幼少期からの婚約者を大切にしなかったアルフレドが沈んだ今、その条件を王国はどちらかというと歓迎気味で承諾した。勿論そこへは様々な思惑がある。
一つは貴族間のバランス。テオバルドの婚約者を新たに探すことで今の均衡を崩すことを避けたかった。ただでさえ、ごたついているのだから。
次に新たな王の印象作り。婚約者を大切にするということは、国民にも好印象を与えるだろう。何せ第二妃とアルフレドの今までのことが公文書として広められてしまっているのだから。迎え入れる時の歓迎パレードには、既に新たな王となるテオバルドがその婚約者を伴って行うことが決まっている。
その様子を見れば馬鹿な令嬢以外はテオバルドに秋波を送ることが無駄だと理解するだろう。わざわざこれから大変になると分かっている王宮に婚約者を連れて来るのだ、そこには確固たる覚悟があることが馬鹿でなければ理解出来る。また、そんなテオバルドならば言い寄ってくる女狐にも引っかかる心配もしないで済む。
何より、他国からやって来るテオバルドに心の支えは必要。かつて、エミーリアがたった一人だけアルバートを信用したように。
「俺、真剣にお嫁さん探しを始めることにした」
「サフィールもか?俺もだ」
サフィールとトビアスの会話を聞きながらクライドは白状した。
「実は、伸ばし伸ばしにしていたアビゲイルにこの間しっかりとプロポーズした。言葉にすることは大切だと感じたので」
今回の件で三人はいかに伴侶を大切にし、共に成長しなければならないか学習したのだった。
それを今、テオバルドがこの国への道中で目を通すよう渡された公文書から読み解いてくれるだろうと期待もしている。
テオバルドは手元の公文書に再び目を通した。
本来は王になるはずだったアルフレドの処分に対する文書を。
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アルフレド元王子へ与えられた選択肢
1、居住を離宮へ移し、生涯王国の政治と関わらない
2、アナベラ・ストライカント子爵令嬢と婚姻
但し、1の場合は生涯婚姻を望むことは出来ない。また、周囲にはメイド一人の女性も置かない。2の場合は今後王位簒奪を目論む子孫が生まれないよう処置をする。
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既にテオバルドはどちらの選択肢をアルフレドが選んだか知っている。会うことはないが、どういう気持ちで選んだのか聞いてみたいと思いはした。
文面は、使う機会は未来永劫訪れようがないが男性機能を残すか、子孫は残せないが愛を取るかの二者択一。
(もっと早くに気が付いていれば、こんなことにはならなかっただろうに…)
第二妃の妃としての終局も記してあるが、こちらは元王子よりは多少ましなのだろうか。結局生家にも養女に迎えられた伯爵家へも戻れなかった第二妃。
貴族の娘として育ち、花の盛りからは王宮で暮らした女性。そんな女性が家に戻れなければ末路は数えられるくらいしかない。
温情のような待遇に思えるが、彼女の今後は言うならば体の良い世の中との隔離だろう。文書からは頭が弱そうなことが窺える。変なことに担ぎ上げられたら、その気になってしまいそうなタイプということだ。
全ての教育終了後、テオバルドは正式に王となる。教育期間はどれくらいなのか、それはテオバルド次第。しかし、名ばかり王となる現王にしてみれば、いつ幽閉されるのか先が見えない不安に苛まれることだろう。
引き取り先がなかった第二妃は、一足先に王が向かうとされている離宮という名の幽閉先に送られたと聞く。送られたと言っても、もう立場を失った第二妃。そこではメイドとして一生無給で働くことが決められている。
王から愛されることを切に望んだ第二妃が、今度は無償の愛で王ではなくなった人物に生涯を尽くす。王国もなかなかひねりの利いたことをするものだ。
テオバルドは、第二妃がメイドとしての仕事を覚えられない場合は鞭でも振るわれるのだろうかと考えずにはいられなかった。
「グレイシー、付いてきてくれてありがとう。わたしが大変な道を選んだばかりに苦労を掛けることになってしまった」
「二人でならきっと乗り越えていけますわ」
ほほ笑みを見せる婚約者である女性にテオバルドは気付けばそっと口付けていた。
「…テオバルド様」
「すまない。つい、嬉しくて」
初めて手の甲以外に口付けをしてしまったテオバルドは耳まで赤くしながら俯いてしまった。
「王となるお方が、俯いてはいけませんわ」
「ああ、そうだね。ありがとう、グレイシー、これからもわたしの言動を一番間近で見て支えて欲しい」
途中の宿泊施設で仲睦まじく過ごす新たに王となるテオバルドとその婚約者を離れた場所から見守りながら、側近になることが決まっているカリスター侯爵家長子であるルーベンはもっと遠くからしか見ることが出来なかった腹違いの姉エミーリアに思いを馳せたのだった。何も知ることができなかったエミーリアに。
ありがとうございました。また、そんな人もいたなという方に登場してもらおうと思っています。