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あなたが知らないわたし達が知っていること Side story サフィール・ランカラント1

続きをリクエストしてくださる方がいるとは驚きました。ありがとうございます。

まずは、この方から。

記録官、サフィール・ランカラント。

この若さで既に子爵位を持つサフィールはこの国の三大公爵家の一つ、ソールバラント公爵家の次男だ。一等記録官として王宮に仕える為、ソールバラント公爵家が持つ爵位の一つを名乗っている。


記録官は職務内容により一等から四等までの位制。数字が少ない方が高位となっている。年若いサフィールが一等なのは、公爵家出身だからそのように取り計らってもらえたという訳ではない。他者同様試験を受け、今の立場に実力で登ってきた。


しかし、出世欲が故に一等記録官になったのではない。公爵家として代々受け継がれてきた御役目がそこにあったからこそサフィールは努力してきた。


当然、他の二家の嫡男以外もサフィール同様一等記録官として王宮で働いている。どの家も王国の未来の為に生まれた子供に様々な教育を施し、国の政治を公正且つ冷静な目で捉えられるよう育てた結果だ。


何故そのように育てるのか?

理由は簡単。三大公爵が間違ってはいけないからだ。


三大公爵家には建国当初から特別な役割がある。王家、及び時の宰相や大臣への弾劾更迭権を持っているのだ。その為、三家は常に王国を見守り国政を見張り続けてきた。


宰相や大臣が同一家門であろうと、問題があれば問い詰め追及する為に公正さは不可欠。同じ家門の者であっても甘くしてはいけないし、家名を汚さない為に寧ろ厳しい目で見る必要があった。


加えて、冷静な判断。国の未来の為に、王が、政治を担う者が間違った方向へ舵を取ることを防止するには先を読み、冷静に判断できなければならない。間違えれば多くの者が死ぬ可能性だってあるのだ。特に戦争に発展するようなことがあれば、人だけでなく国が亡びる可能性もある。三大公爵家は王国を守る為の番人なのだ。


だから、代々三大公爵家は記録官という職務に嫡男以外を送り出している。それは、記録官という役割をこなしながら王宮の中でのことを実際の目で記録、即ち監視する為に行われてきたことだった。




「何、これ?」

「仕事中に物語の構想でも練っていたの、サフィール?」

「正式な記録文書だ。殿下とカリスター侯爵令嬢の署名もある。そこで、クライドとトビアスに頼みがあるのだが」


クライドとトビアスもまた三大公爵家のそれぞれ次男と三男。サフィールがこんな記録文書を差し出しながらする頼みなど『それ』以外にはないと分かっている。


「しかし、面倒だな」

数世代前にあった『それ』の記録内容を思い出しながらトビアスが溜息交じりに呟いた。そんなトビアスを横目にサフィールとクライドは話を続ける。


「王に教育方針を間違えた責任を取らせればいい。前王と違い現王は扱いやすいだけが取り柄だったんだ、頭を挿げ替えても問題ないだろう」

「確かに。唯一の王子だけを排除するよりもその方が今後の為にもいいな。今からこんな状態の王子では、国王になった時に色目を使われ懐に入られる度に妃が増える。今の第二妃のように何もせず金だけ使うような女が増えては問題だ。そもそも第二妃をあんな風にのさばらせた責任は王にある」

「ああ、しかも第二妃は王子に常々言っていた。国の為に正妃は決められた者を娶る必要があるが、本当に愛すべき女性は自分のように第二妃として迎え入れればいいと」


三人は、第二妃が常々いかに王に愛されているかをアルフレドに伝えていたことをそれはもうよく記憶していた。妃としての順位は下だが、女として愛されているのは自分だと言うが為に。

どこかの豪商が何人も妻を持っているならば、女としての順位を競うこともあるだろう。それによってお手当という名の、手に入れられるものが変わるのだから。しかし、国王の妃はそういうものではない。何故自分が王宮に迎え入れられたのか役割を考え、国の為にどう尽くすか考えるべきだった。


しかし、第二妃は間違えた。自分が如何に寵愛を受けた存在かを主張し続けたのだ。与えられた予算は愛される自分を着飾る為に使い、世の中に目を向けなかった。息子であるアルフレドにも、第二妃の立場を無駄に装飾して伝え続けて洗脳してしまった。


論より証拠。サフィールが差し出した文書からもそれは見て取れる。正妃になるエミーリアをただのサポート役でしかないとアルフレドが見做しているのはそのせいだ。


アルフレドの知恵の泉に育て上げる為、エミーリアには膨大な知識が詰め込まれた。外国語、芸術、マナー、地政学、歴史に至っては自国だけでなく他国の分も。だからエミーリアは過去にあったことにどのような対応を取り解決したかを瞬時に答えることが出来るようになっていた。過去の事象と事象を結び付け解決策を考えることも、地形と気象条件を組み合わせその土地を理解することも。そこには当然並々ならぬ努力があったことは言うまでもない。


でも、それはアルフレドの妃になるには当然のこと。小さな頃からエミーリアはそう植え付けられてきたのだ。出来なければ食事はなくなり、代わりに第二妃からの嫌味があるだけだった。小さな内は肌が裂けるからと鞭が飛ぶことはなかったが、十歳前後から教わるようになった第二妃の息が掛かった教師達は当然のように鞭を使用した。


『エミーリア様、痛みと共に覚えたことは忘れにくくなります。いいですね?』

いいはずがない。時には偶然を装って、アルバートが『殿下がお呼びです』とエミーリアに助け舟を出していたのも三人は知っている。記録官になる前だったが、アルバートから聞いていたのだ。


『君たちが記録官になったら、カリスター侯爵令嬢がどのような待遇を受けているかしっかり記憶しておいてくれ』

『ああ、勿論だ』

サフィールは早くからアルバートにそう頼まれていたのを未だに覚えている。アルバートには何か考えがあったが故にそんな依頼をしたのだろうが。


しかし…

昨日からの展開はあのアルバートにしても予想外だろう。

今まで何もしてあげることが出来なかったエミーリアにとっては今更かもしれないが、(はなむけ)はいくらでも用意してあげたいとサフィールは思う。でも、いくらなんでも…けれど乗りかかった船、浸水させて沈没させる訳にはいかない。


「ところで、サフィール、記録された内容の結果は?」

「もう、貴族院で婚約破棄は受理された。殿下の言葉だ、忠実に守るほかないだろう、今はな」

「じゃあ、カリスター侯爵令嬢は?」

「殿下の言葉に従い明日には王宮を出るだろう」

「もう侯爵家へ使いを出したのか?」

「否、アルバートに知らせた」

「「ああ、そういうこと」」

「でだ、君たちには俺の親友の頼みを聞いて欲しいんだ。王家でも大臣でもない、ただの親友の頼みだ、政治は全く関係ない。少し微妙な部分もあるが、そこは曖昧にしてくれないだろうか」


王宮で働くようになってから、三人はアルバートの依頼通りエミーリアがどれだけ酷い扱いを受けてきたかよく記憶している。起きている事実を見る為にいる自分達がエミーリアに手を差し伸べることが立場上難しいとはいえ、何も出来ないことはもどかしかった。


「もう殿下の婚約者ではなくなったんだから、俺個人で引き受けるよ。但し、彼女の幸せに繋がることだけ。それ以外はダメだ」

「勿論、俺も。罪滅ぼしになんて今更ならないだろうけど」

「俺だっていくらアルバートの頼みでもカリスター侯爵令嬢にとって悪いことならば君達に頼みはしない」

「「で、頼みとは?」」


クライドとトビアスはサフィールからの言葉に驚きの声をあげてしまった。明日中にエミーリアをこの国から逃がすというのだから。


「もう政治の材料として使われないようにしたいんだとさ」

「カリスター侯爵家へ戻れば、侯爵がどう利用するか分からないな。ご令嬢は優秀だから」

「次の王の妃にされる可能性もあるしな。事実、もし俺が王になるなら彼女を何としても手元に置きたい」

「だろ?アルバートはこの国からカリスター侯爵令嬢を連れ出すことで彼女に自由を与えてあげたいんだってさ」

「それは分かるけど。結婚はどうして必要なんだ?」

「アルバートの決意らしい。ついでに、国境を出るときの記録にカリスターという名を書かないことで侯爵家からの捜索を躱す狙いがあるとも言っていた」


話しながらも三人は分かっている。理由はもっとシンプルなものだと。

「あいつ、言葉にしたのか?」

「さあ?」


サフィールもそこは気になっていた。アルバートとエミーリアは小さい時から、なんだかんだ言って支え合っていた。立場的に大々的には関わり合えない分、その立場を利用して上手いこと。


アルバートがエミーリアにサフィールを紹介した時も、二人の間の信頼関係が見て取れた。サフィールに対してエミーリアは普段と違う表情を見せたのだ。きっと、信頼するアルバートの友人ならば大丈夫だと思ったのだろう。そう、大丈夫だと。

王宮の中でエミーリアが大丈夫だと感じられる場所や時間が如何に少ないかは言わずもがななのだから。


「で、サフィールの頼みは婚姻届けを受理する担当官と国境検問官への口利きだな?」

「ああ。指定してくれればその時間に動くようアルバートに伝える」

「序でに言ってくれ。ちゃんと言葉にしろと」

「そうだな。それに大切にしなければ、俺達でお姫様を奪還に行くとも伝えておこう」

「それはいい。でも、奪還後には俺達は友達ではいられなくなるかもな」

「ああ、だから、今までの分以上に大切にしてもらわないと」


サフィール達がこんなことを話し合っていたとは知らないエミーリアは、その頃部屋の中で大切な物とはなんだろうかと考えながら数少ない私物をまとめていた。


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