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騒がしい朝

「――ねえ。起きなよぉ」




 誰だよ。こんな朝っぱらから大声で僕の体を揺さぶるのは。


 瞼を半分ほどだけ開き、横を見る。




 一瞬金色の髪が見えたが、気のせいだろう。




 枕横に置いてあるスマホを手に取り現時刻を確認する。




「まだ七時じゃないか……もう少し寝させ……て……」




 睡魔に勝つことが出来ず、再び意識がゆっくりと吸い込まれていく。


 学校までは歩いて三十分弱……つまり八時前に起きてパパっと身支度を済ませれば間に合うのだ。


 家で朝食を摂らない場合の多くはこうして少しでも多く睡眠時間を確保する時である。




「起きろぉ!」




 僕の体を包み込んでいた布団が勢いよく引っ張られる。




「なんだよもう……って! 何故僕の部屋に!?」




 視線の先に立っていたのは花蓮だった。


 一瞬視界に入った金色は気のせいではなかったということか。




 それに我が高校の紺色を基調とした制服を着ている。




「隣に好きな人が住んでたら女の子が起こしに来るのは普通でしょ!」


「そんなの聞いたことないが……」




 自分の普通を勝手に押し付けるなよと思いつつも、衝撃で目は覚めてしまった。




「ほら朝ご飯食べるよ」


「はいはい」




 シチュエーションを考えれば、可愛い幼馴染に起こされるのはめちゃくちゃ良い展開だ。


 でも実際に経験してみると、睡魔というマイナスのせいで可愛い幼馴染というプラスをかけてもマイナスにしかならないことに気が付いた。




 強引に起こされ、僕たちはリビングに向かった。




「せいちゃん無事起きましたぁ!」




 リビングに入ると、花蓮は朝とは思えないテンションで俺の家族にどうでもいい情報を伝える。




「あら珍しい」


「お兄ちゃんが朝早く起きるなんて週に一回あるかないかくらいだもんねぇ」




『そうなの!?』といった顔で、俺の前にいる花蓮はこちらを見てきた。


 僕は『何か悪いか!』という眼差しを花蓮に向ける。




 すると花蓮は何か思いついたかのような表情をすると、僕を空いている椅子に『どうぞどうぞ』と座らせた。




 ていうかなんだその表情は!




 詩音は既に制服に着替えて単語帳を見ながら朝食を食べている。母さんはエプロンを身に着けキッチンで皿を洗っていた。


 ちなみに詩音は中学三年生で受験生だ。




 目の前には朝食という名に相応しい朝食が並んでいた。




「いただきます」


 


 僕は箸を手に取り、始めにみそ汁を嗜むことにした。




「はぁ」




 朝一発目のみそ汁は体に染みるな。


 そうして他の品も食べ進めていく。




「あ、あの……」




 半分ほど食べたところで、僕は一度箸を置いて右に座っている花蓮に言葉を放つ。




「何?」


「さきほどから僕の顔をじーっと見て、何かついてますでしょうか?」




 僕が食事をしている最中、花蓮は終始右手を自分の顔に添えながらこちらを見ていた。




「可愛い黒髪とか? なんちゃって。未来の旦那の顔を拝んでるだけだよ」


「はい。そうですか」




 予想していたことではあったためそこまで驚いたりはしない。


 でもやっぱり……可愛くなったよな。




「なんか……本当に夫婦みたいだね」




 対面して食事をしていた詩音が急にそんなことを言い出した。




「なっ!」


「でしょでしょ! やっぱり私たちお似合いなんだよぉ」




 花蓮は子供みたいに喜びながら顔を僕の肩にすりすりしてきた。




「ちょ、ちょっと。食べづらいじゃないか」


「ごめんごめん」




 この状況に耐えかねた僕は、先ほどの倍の速度で朝食を済ませて身だしなみの準備に取り掛かることにした。




「んじゃ行ってきます」


「行ってきまぁす!」




 花蓮の方が元気のいい挨拶をして、僕たちは学校へと向かった。




 ☆☆




「それで今日の放課後さぁ――」




 徒歩の最中、終始花蓮は何かしらの話題を持ちかけてきた。


 すまないとは思うが、それに対して僕は相槌を打つだけというのが多かった。




 朝に対する耐性がないのだから許してくれ。




 そしていつもの道で、僕たちの少し前方に白銀さんが現れた。


 いつも通り小説片手に歩いている。


 おそらく読んでいるのはラノベだろう。




 あの後ろ姿……実に尊い。




 話しかけたいが出来ない。




 隣には僕と結婚を望んでいる女子がいるのだから。




 しかし話しかけにはいかずとも、僕の視線は白銀さんに釘付けになっていた。


 そして明らかに先ほどよりも花蓮に対する僕の反応はそっけなくなっていた。




「ねえねえ。さっきからどこ見てるの?」




 そんな様子が流石に変と思ったのか、花蓮はそう言いながら僕の視線の先を追い始めた。




「あの子、知り合い?」


「え? あ、いや……ただのクラスメイトだよ」


「ふーん……本当にそれだけ?」


「も、もちろん……」




 僕はどうせばれる事実を無意味に隠そうとしていた。




 程なくして僕たちは学校に到着した。




「じゃあ私職員室行かないといけないから、また後でね」


「うん。また後で」




 花蓮とは玄関で靴を履き替えた後に別れた。


 僕はそのまま自分の教室がある三階へと向かう。




 教室に入るといつも通りの光景が広がっている……と思ったのだが、それはある一点を除いてだった。




 僕のクラスは人数の都合上窓側の一番後ろは席が存在しないはずだった。




 そのはずなのに、今は机と椅子がしっかりとそこに位置している。




 僕はこの時確信した。




 花蓮はこのクラスに転校してくる……と。


 


 だからといってどうしようもないので一旦自分の席に座る。




「おっはよ! 早見」




 着席早々に挨拶をしてきたのは無論簑島だ。




「どうやらお前の幼馴染兼婚約者ってのはうちのクラスに来るらしいな」


「や、やっぱり簑島もそう思うか」




 簑島には昨日のことをメッセージで伝えた。


 前々から花蓮のことは話していたので状況を理解してもらうのは容易いことだった。




「そりゃそうだろ。普段無い席があるんだから誰でもそう思うさ。現にクラスの奴ら転校生来るんじゃねって盛り上がってるぜ」




 言われてみれば確かに、入ったときは気づかなかったけどいつもより若干そわそわしている感じがする。




「で? どうすんだよ。白銀さんか幼馴染か……」


「そ、それは……まだ決めかねてるというか……」


「なーんだよぉ。まあ仕方ねえか。一年以上好きだった女子と結婚を誓った幼馴染だもんな。今すぐ決めろっていう方が無理な話か」


「理解してもらえて助かる」




 そんなこんなで簑島と話していると、ホームルーム開始のチャイムが鳴り響く。


 前方のドアから担任が入ってくる。




「今日は皆に紹介したい生徒がいる。入っていいぞ」




 そうしてクラスメイトの前に姿を現したのは、紛れもなく花蓮だった。


 そして僕の存在に気づきにこっと笑った。




「うわすっげぇ」


「スタイル良すぎない?」




 男女問わずほぼ全てのクラスメイトが花蓮の容姿に圧倒されているようだった。




「めっちゃ可愛いじゃん……」




 後ろにいた簑島も思わず吐露していた。




 確かに花蓮は可愛いし性格も申し分ない。


 でも……。




 廊下側に座っている白銀さんの方をちらっと見る。


 


「!?」




 すると目が合い、先にそらしたのは白銀さんの方だった。




「金沢花蓮です。これからよろしくお願いします」




 自己紹介をして一礼する。


 次の瞬間、教室は歓喜の声で満ちていた。




「せっかく転校生が来たんだ。皆がよければ今から席替えでもしようと思っているのだが、どうだ?」




 担任が予想にしていなかった案を持ちかけてくる。


 てっきり花蓮の席は窓側の一番後ろかと思っていた。




 クラスメイトたちは一瞬沈黙するも、一気にそれに賛同した。




「よし。じゃあ今から一人一本これを引いてくれ」




 そう言って担任が教卓に置いたのは、クラス人数分の紙が入った箱だった。




「この中に番号が書いてある。一人一枚取ってその番号の席に座るんだ」




 担任は説明を終えると、黒板に席とその番号をチョークで書き込んでいく。




「じゃあ今の席順で引いていってくれ。あ、そうだ。金沢、お前はどのタイミングで引きたい?」




 確かにそれは重要だ。


 最後の余りものの席とは何となく嫌なものだろう。


 ここは無難に半分埋まったところで引くのがいいに違いない。




「じゃあ一番手で!」




 まさかの選択に教室が再び盛り上がる。




「強気だな。よし。じゃあ引いてくれ」




 花蓮は箱の中に手を伸ばして一枚の紙を手に取った。


 あろうことか花蓮の引いた席は窓側の一番後ろだった。




 その後は順番通りに他のクラスメイトがくじを引いていき、いよいよ僕の番が回ってきた。




 いつも以上に緊張感を感じながら、これだと思った一枚を手に取った。

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